U.C.0096――
アクシズ・ショックから数年。
地球圏は一見平和を取り戻したかに見えた。
だが、その裏では“奇跡”と呼ばれた技術――サイコフレームを巡る争奪戦が激化していた。
サイド4宙域。
暗礁宙域に漂うデブリ群を縫うように、一機のモビルスーツが高速機動を続けていた。
スタークジェガン・ライズ。
連邦軍特殊試験機。
通常のスタークジェガンをベースに、過剰とも言える数の追加スラスターと高出力ブースターを搭載した異端機だった。
その加速性能は、一般兵では機体制御すら不可能と言われている。
「前方熱源反応、四!」
オペレーターの緊迫した声が響く。
しかしコックピット内の男は落ち着いていた。
ヤマト・シンラ。
一年戦争を生き延びた歴戦のニュータイプ。
そして現在は、
アナハイム・エレクトロニクス所属の開発主任兼テストパイロット。
「見えてる」
シンラが静かに呟く。
その瞬間。
スタークジェガン・ライズが急加速した。
通常機動ではありえない軌道。
敵MS隊のビームを紙一重で回避し、一気に懐へ潜り込む。
「速っ――!?」
敵パイロットが反応した時には遅かった。
右腕部兵装《ブレイクナックル》展開。
炸裂打撃。
鋼鉄の拳が敵機の胸部装甲を貫通し、内部から爆散させる。
さらに背部ブースターを全開。
反転。
二機目へ蹴りを叩き込む。
「化け物かよ……!」
敵部隊が混乱する。
だがシンラの表情は険しかった。
「……おかしい」
戦場全体に、異常な“波”を感じていた。
怒り。
恐怖。
憎悪。
人々の感情がサイコミュを通じ、宇宙空間へ漏れ出している。
しかも規模が異常だった。
「サイコフレーム共鳴……?」
通常ならありえない。
戦場全域規模で感応波が増幅している。
まるで誰かが意図的に人の感情を利用しているかのようだった。
その時。
艦橋から緊急通信が入る。
『シンラ! 新たな艦隊反応だ!』
モニターへ巨大な艦影が映し出される。
旧ネオ・ジオン残党軍。
だが問題は、その中央に存在する異形の巨大兵器だった。
巨大円環構造。
中心部の超大型砲門。
そして周囲へ放出される異常なサイコミュ波。
シンラの顔色が変わる。
「まさか……コロニーレーザー?」
オペレーターが震えた声を出す。
『識別コード不明! ですが出力はグリプス級以上です!』
「そんな馬鹿な……」
しかしシンラはさらに別の反応を感じ取っていた。
遥か遠方。
高速接近する一機のモビルスーツ。
白い機体。
サイコミュ反応。
そして――圧倒的な存在感。
「この感覚……!」
直後。
戦場を紫色のビームが横断した。
敵MSが一瞬で爆散する。
さらに六基のフィン・ファンネルが展開。
オールレンジ攻撃が敵陣を切り裂いていく。
シンラは息を呑む。
「あの動き……!」
白い機体がゆっくりと姿を現す。
νガンダム。
そして通信回線が開いた。
『久しぶりだな、シンラ』
聞き覚えのある声。
忘れるはずもない。
シンラの瞳が揺れる。
「……アムロ、さん?」
通信モニターに映る男。
アムロ・レイ。
アクシズ・ショック以降、行方不明となっていた伝説のニュータイプ。
その姿が、今再び宇宙へ戻ってきた。
「どうして……生きて……」
アムロは静かに笑う。
『説明は後だ』
『まずはあれを止める』
視線の先。
巨大兵器《ヘリオス》中央部が赤く発光する。
重低音が宇宙空間を震わせた。
その瞬間。
戦場全域へ異常なサイコミュ波が放たれる。
敵味方問わず、サイコミュ搭載機が激しく振動を始めた。
「なっ……!?」
スタークジェガン・ライズのモニターが乱れる。
サイコフレームが強制共鳴している。
コックピットへ流れ込む無数の感情。
悲鳴。
怒号。
絶望。
シンラは歯を食いしばる。
「これは……人の感情を増幅してるのか!?」
アムロの声が飛ぶ。
『ヘリオスは危険すぎる!』
『あれは人の意思そのものを兵器に変える装置だ!』
シンラは巨大兵器を睨みつける。
怒りが込み上げる。
「人の心を……そんなものに利用するなんて……!」
その時。
ヘリオス中央部がさらに発光。
赤黒い光が宇宙を染める。
そして巨大モニターへ、一人の男が映し出された。
黒い軍服。
仮面。
冷たい瞳。
『諸君』
『人類は自由を与えられすぎた』
『だから争いを繰り返す』
男は静かに両腕を広げる。
『ゆえに、我々が導く』
『感情を統一し、完全なる秩序を作るのだ』
シンラは怒鳴る。
「ふざけるな!!」
だが男は笑った。
『すでに起動は始まっている』
その瞬間。
ヘリオス砲身が展開。
超巨大エネルギー反応が発生する。
アムロが叫ぶ。
『シンラ! 来るぞ!』
赤い閃光が宇宙を照らした。
戦火は再び、人類を飲み込もうとしていた――。