月面都市グラナダ宙域――。
戦場は崩壊しつつあった。
黒き巨人。
虚無の存在。
人類が初めて遭遇した“理解不能の敵”。
その圧倒的な力の前に、連邦艦隊は一方的に蹂躙されていた。
爆発すら起きない。
ただ“消える”。
艦も。
モビルスーツも。
存在そのものが削り取られていく。
宇宙に漂うのは、恐怖だけだった。
『撤退!!』
『これ以上は無理だ!!』
連邦艦隊が崩れていく。
だが逃げ切れない。
黒い小型機群が空間を滑るように移動し、次々と艦を分解していく。
通常兵器は通用しない。
ビームも。
ミサイルも。
実弾すら意味を成さない。
「くそっ!!」
リディ・マーセナスが叫ぶ。
バンシィが高機動で敵機を迎撃する。
アームド・アーマーVNが敵機を叩き潰す。
だが次の瞬間。
接触した右腕装甲が崩壊を始めた。
『なっ!?』
紫黒色の侵食。
装甲粒子が砂のように崩れていく。
リディは即座に腕部をパージした。
『チッ……触れるだけで分解かよ……!』
一方で、
ユニコーンガンダムも苦戦していた。
虹色のサイコフィールドが展開される。
だが敵機はそのフィールドすら削り取っていく。
『サイコフレームを……喰ってる!?』
バナージ・リンクスの声が震える。
サイコフレーム。
人の意思を増幅する奇跡の素材。
その力を、敵は“否定”していた。
まるで人の可能性そのものを拒絶するように。
その時。
νガンダムが前へ出る。
フィン・ファンネル展開。
アムロが叫ぶ。
『全機、一度下がれ!!』
ファンネルが防御フィールドを展開。
黒い小型機群を押し止める。
だが完全には止められない。
フィールドが軋む。
「これほどか……!」
アムロの額から汗が流れる。
その時だった。
戦場の後方。
紫色の光が静かに灯る。
全員が振り返る。
そこには――。
半壊した
ハイニューガンダム・レイ。
機体各部は損壊。
サイコフレームも大半が消失。
本来なら起動すら不可能。
それでも。
その瞳だけは、確かに輝いていた。
コックピット内。
ヤマト・シンラは静かに操縦桿を握る。
機体が軋む。
警告表示が並ぶ。
《出力不足》
《フレーム損壊率78%》
《戦闘行動推奨不可》
それでもシンラは前を見る。
「……頼む」
その瞬間。
微弱だったサイコフレームが脈動した。
紫色の光が、少しだけ強くなる。
まるで機体が応えるように。
バナージが息を呑む。
『動いた……!』
アムロが目を細める。
「まだ、お前を待っていたのか」
その時。
黒き巨人が反応した。
空洞の奥で紫黒色の光が揺れる。
『高次感応存在、再確認』
『脅威判定更新』
『優先排除対象』
次の瞬間。
黒い小型機群が、一斉にハイニューガンダム・レイへ向かう。
リディが叫ぶ。
『シンラ!!』
だが。
ハイニューガンダム・レイは静かに前へ出た。
フィン・ファンネル展開。
残存数、わずか三基。
以前の半分以下。
それでも。
紫色の光輪が形成される。
敵機が触れた瞬間――。
消滅した。
「なにっ!?」
リディが驚愕する。
敵の侵食が通用していない。
シンラは静かに呟く。
「やっぱりそうか……」
アムロが気づく。
「サイコフレームが拒絶してるのか」
違う。
もっと根本的な何か。
ハイニューガンダム・レイの光は、“否定”されなかった。
なぜなら。
その光は、人の意思そのものだから。
虚無は“存在”を消せる。
だが。
誰かを想う心までは消せない。
シンラは黒き巨人を見上げる。
「お前には分からないんだな」
『……』
「痛みも」
「悲しみも」
「願いも」
黒き巨人は無反応。
ただ淡々と答える。
『不要』
『感情は非効率』
『争いを生むだけの欠陥』
シンラは苦しそうに笑う。
「確かにそうだ」
「人は間違える」
「傷つけ合う」
「争いもなくならない」
彼は静かに拳を握る。
「でも」
ハイニューガンダム・レイの光が強まる。
「それでも誰かを想えるから、人は前へ進めるんだ」
その瞬間。
紫色の光が戦場全域へ広がった。
暖かい感覚。
恐怖が和らいでいく。
崩壊しかけていた兵士たちの心が落ち着いていく。
グレイヴス准将が呆然と呟く。
『これが……人の意思……』
黒き巨人が初めて沈黙した。
空洞の奥で光が揺れる。
『理解不能』
『矛盾』
『非合理』
シンラは静かに笑う。
「そうだよ」
「人間は非合理なんだ」
「だから、奇跡を起こせる」
その瞬間。
ユニコーンが共鳴した。
虹色の光。
続いてバンシィ。
黄金の光。
νガンダム。
白い光。
四機のサイコフレームが共鳴を始める。
宇宙が発光する。
バナージが叫ぶ。
『シンラさん!!』
リディが笑う。
『一人で背負うなよ!!』
アムロが静かに言う。
『行くぞ』
その時。
戦場の兵士たちからも、微弱な感応波が生まれ始めた。
恐怖だけではない。
守りたい。
生きたい。
誰かに帰りたい。
その意思。
無数の想いが、紫色の光へ集まっていく。
黒き巨人が揺らぐ。
『未知反応増大』
『危険』
『危険』
初めてだった。
虚無が、“恐怖”に似た反応を見せた。
シンラは確信する。
「やっぱりお前は、“心”を知らない」
「だから――」
ハイニューガンダム・レイが加速する。
半壊した機体とは思えない速度。
紫色の光を纏い、黒き巨人へ一直線に突撃。
『排除』
巨人の空洞が発光。
空間消滅波動。
だが。
四つの光が重なる。
紫。
虹。
黄金。
白。
巨大な光輪が宇宙を包む。
そして。
空間消滅が、止まった。
黒き巨人が初めて後退する。
『あり得ない』
『虚無領域が停止している』
シンラは涙を流しながら叫ぶ。
「人は!!」
「無意味なんかじゃない!!」
その瞬間。
紫色の光が、虚無へ届いた。