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月面都市グラナダ宙域――。
宇宙は、光に包まれていた。
紫。
虹。
黄金。
白。
四つのサイコフレームの輝きが重なり、巨大な光輪となって宇宙空間へ広がっていく。
その中心で、
ハイニューガンダム・レイが、黒き巨人へ向かって突撃していた。
半壊した機体。
失われた装甲。
崩壊寸前のフレーム。
それでも。
その光だけは消えない。
『あり得ない』
黒き巨人の声が宇宙へ響く。
感情のない機械的な声。
だが、その奥には微かな“揺らぎ”が生まれていた。
『虚無領域が……停止している』
巨人の周囲を覆っていた空間消滅波動が、四つの光に押し返されている。
人の意思。
願い。
想い。
それらが、“虚無”を拒絶していた。
コックピット内で、
ヤマト・シンラは苦しそうに息を吐く。
身体が限界だった。
視界が霞む。
意識も断続的に途切れる。
それでも操縦桿を離さない。
「まだ……!」
ハイニューガンダム・レイが加速する。
その後方から、
ユニコーンガンダム。
バンシィ。
νガンダム。
三機が並ぶ。
バナージ・リンクスが叫ぶ。
『シンラさん!!』
『一人じゃない!!』
続いて、
リディ・マーセナス。
『勝手に全部背負うな!!』
そして、
アムロ・レイ。
『人は支え合える』
『それを、お前が教えたんだ』
その瞬間。
四機のサイコフレームが完全共鳴を始めた。
宇宙全域へ感応波が広がる。
暖かい。
優しい。
まるで人の心そのもの。
戦場にいた兵士たちが、次々と顔を上げる。
恐怖が消えていく。
絶望が薄れていく。
代わりに浮かび上がる感情。
“生きたい”。
“守りたい”。
“帰りたい”。
その想いが、光へ変わっていく。
グレイヴス准将が呆然と呟く。
『これが……人類……』
その時だった。
黒き巨人が再び空洞を発光させる。
紫黒色の光。
だが先程までとは違う。
不安定だった。
『理解不能』
『非合理』
『矛盾』
『何故、争いながら共存を望む』
『何故、傷つきながら他者を求める』
シンラは静かに答える。
「俺たちは完璧じゃないからだ」
『……』
「弱いし」
「間違えるし」
「醜い感情だってある」
ハイニューガンダム・レイの光が揺れる。
「でも」
「それでも誰かを大切にしたいと思える」
「だから前に進めるんだ」
黒き巨人が沈黙する。
初めてだった。
虚無が、“考えている”。
その瞬間。
宇宙の奥で、黒い裂け目が脈動した。
《空間崩壊加速》
《重力異常急上昇》
オペレーターたちが悲鳴を上げる。
『ま、まずい!!』
『裂け目が拡大しています!!』
『このままじゃ宙域ごと飲み込まれる!!』
アムロが舌打ちする。
「巨人だけじゃないのか……!」
シンラは理解した。
あの裂け目そのものが、“虚無”。
黒き巨人は、その端末に過ぎない。
もし裂け目が完全解放されれば。
地球圏そのものが消滅する。
バナージが叫ぶ。
『止めないと!!』
だが方法がない。
裂け目は通常空間と異なる。
物理攻撃も。
サイコミュも。
干渉できない。
その時。
シンラの脳裏へ、あの“光の世界”が蘇る。
人々の意思が集まる場所。
そして、その対極。
虚無。
彼は気づく。
「……逆なんだ」
リディが振り返る。
『何?』
「虚無は“消す”ことで成立してる」
「だったら――」
シンラは裂け目を見る。
「“繋げれば”いい」
全員が息を呑む。
アムロだけが静かに目を細めた。
「まさか……」
シンラは頷く。
「人の意思で、裂け目を満たす」
「心を流し込むんです」
リディが叫ぶ。
『無茶苦茶だぞそれ!!』
「分かってます」
シンラは笑った。
「でも、多分それしかない」
その時。
黒き巨人が再び動く。
『危険』
『危険』
『高次感応領域形成確認』
『排除を――』
だが。
その言葉は最後まで続かなかった。
紫色の光が、巨人へ触れる。
暖かい感情。
悲しみ。
喜び。
願い。
無数の人の心。
黒き巨人の動きが止まる。
『これは……』
初めてだった。
その声に、“困惑”が混じった。
シンラは静かに言う。
「それが、人の心だ」
「お前は空っぽだった」
「だから怖かったんだろ」
黒き巨人の空洞が揺れる。
まるで涙を流すように。
『理解……不能……』
「理解しなくていい」
シンラは優しく答える。
「感じればいい」
その瞬間。
ハイニューガンダム・レイの全残存サイコフレームが発光した。
宇宙そのものを染め上げるほどの紫光。
ユニコーン。
バンシィ。
νガンダム。
さらに。
戦場の全サイコフレーム反応が共鳴を始める。
人々の意思が、一つになっていく。
アムロが静かに呟く。
「これが……人の可能性……」
シンラは裂け目へ向かう。
バナージが叫ぶ。
『待ってください!!』
『戻れなくなる!!』
シンラは振り返らない。
「大丈夫」
「今度は、一人じゃないから」
その時。
紫色の光が、裂け目へ流れ込んだ。
暖かい光。
優しい光。
虚無を満たしていく、人の意思。
裂け目が震える。
黒き巨人が崩壊を始める。
『我々は……』
『空虚だった……』
その声は、もう敵ではなかった。
まるで迷子の子供のようだった。
シンラは静かに答える。
「なら、もう終わりにしよう」
その瞬間。
宇宙が白く発光した。
巨大な光の奔流が裂け目を包み込む。
虚無が。
静かに閉じていく。
そして――。
ハイニューガンダム・レイの光が、ゆっくり消え始めた。
バナージが絶叫する。
『シンラさん!!』
リディも叫ぶ。
『戻ってこい!!』
だがシンラは穏やかに笑っていた。
「皆がいるなら」
「未来は続く」
その言葉と共に。
紫色の光が宇宙へ広がる。
暖かく。
優しく。
まるで未来を照らすように――。