機動戦士ガンダム 逆襲の残光 ―RAY―   作:ガーディアス

17 / 21
境界を越える者

U.C.0097――。

 

グラナダ宙域。

 

静かな宇宙に、再び異変が起き始めていた。

 

最初は小さな報告だった。

 

無人宙域で発生する通信障害。

 

突然消えるデブリ。

 

原因不明の重力異常。

 

そして――。

 

“黒い影”。

 

連邦軍上層部は情報を秘匿した。

 

パニックを防ぐため。

 

だが、実際には誰もが理解していた。

 

虚無は終わっていない。

 

あれは、まだ宇宙のどこかに存在している。

 

――地球連邦軍極秘会議。

 

重苦しい空気が会議室を包む。

 

モニターには、各地で観測された異常現象が映し出されていた。

 

グレイヴス准将が低く言う。

 

「被害は増加している」

 

「しかも、通常兵器が通用しない」

 

会議室に沈黙が落ちる。

 

誰も答えを持っていない。

 

その時。

 

一人の将官が口を開く。

 

「……ならば」

 

「“あれ”を使うべきだ」

 

空気が凍る。

 

グレイヴスが険しい目を向ける。

 

「まさか、本気か?」

 

将官は静かに頷く。

 

モニターへ、新たな映像が映し出された。

 

地下格納庫。

 

巨大な白い機体。

 

だが、その姿は禍々しかった。

 

サイコフレーム。

 

全身へ埋め込まれた紫黒色の結晶。

 

そして背部には、異形化したフィン・ファンネル群。

 

まるで無理矢理“虚無”を組み込んだような機体。

 

その名は――。

 

《RX-94V2 ヴァニシングガンダム》

 

会議室がざわめく。

 

「正気か……?」

 

「あれは危険すぎる!」

 

だが将官は冷たく言う。

 

「綺麗事では人類は守れん」

 

「必要なのは、“対抗できる力”だ」

 

グレイヴスは拳を握る。

 

かつて自分も同じ考えだった。

 

力で危険を制御する。

 

だが、その果てに何が起きたかを知っている。

 

それでも。

 

今の人類には他に手段がなかった。

 

――同時刻。

 

グラナダ。

 

アナハイム極秘工廠。

 

バナージ・リンクスは、不安そうに宇宙を見つめていた。

 

「嫌な感じがする……」

 

その隣で、

 

リディ・マーセナスがため息をつく。

 

「最近ずっとそれ言ってんな」

 

だがリディ自身も感じていた。

 

空気が違う。

 

宇宙が軋んでいる。

 

その時。

 

格納庫の奥。

 

半壊した

ハイニューガンダム・レイの残骸が、突然強く発光した。

 

紫色の閃光。

 

バナージが振り返る。

 

「……反応!?」

 

次の瞬間。

 

全員の脳裏へ感応波が流れ込んだ。

 

強烈な警告。

 

危険。

 

悲鳴のような感情。

 

そして。

 

――止めて。

 

バナージが息を呑む。

 

「シンラさん……!?」

 

その瞬間。

 

基地全域へ警報。

 

《所属確認不能機接近》

 

《超高濃度サイコフレーム反応》

 

《危険レベル最大》

 

宇宙空間。

 

そこに現れたのは――。

 

白い機体。

 

だが、その光は紫ではない。

 

紫黒色。

 

不安定に脈動する禍々しい光。

 

ヴァニシングガンダム。

 

その姿を見た瞬間。

 

バナージの顔が青ざめた。

 

「これ……虚無の反応が混ざってる……!」

 

リディが舌打ちする。

 

「連邦の連中、狂ったのかよ……!」

 

通信回線が開く。

 

『こちら地球連邦特務部隊』

 

『対象確認』

 

『これより虚無存在掃討実験を開始する』

 

グレイヴスの声だった。

 

だが、その声は苦しそうだった。

 

『……頼む』

 

『誰か、止めてくれ』

 

その瞬間。

 

ヴァニシングガンダムの瞳が発光した。

 

紫黒色の閃光。

 

宇宙が軋む。

 

そして。

 

空間が裂けた。

 

「なっ……!?」

 

バナージが絶句する。

 

ヴァニシングガンダムの周囲に、再び黒い裂け目が発生していた。

 

しかも以前より巨大。

 

虚無を、機体自身が呼び寄せている。

 

『制御不能!!』

 

『サイコフレーム暴走!!』

 

『虚無侵食率急上昇!!』

 

オペレーターたちが悲鳴を上げる。

 

その時。

 

ヴァニシングガンダムのコックピットから、苦しそうな声が響いた。

 

『た……すけ……』

 

バナージが目を見開く。

 

「パイロットがいるのか!?」

 

モニターへ映ったのは、若い連邦兵だった。

 

全身へ紫黒色の侵食が広がっている。

 

虚無に飲まれているのだ。

 

彼は泣いていた。

 

『いやだ……』

 

『消えたく……ない……』

 

その瞬間。

 

黒い裂け目から、無数の虚無端末が出現した。

 

以前より多い。

 

しかも強い。

 

宇宙全域へ広がっていく。

 

リディが叫ぶ。

 

「最悪だろこれ!!」

 

アムロの声が通信へ入る。

 

『全機迎撃!』

 

『裂け目を広げるな!!』

 

ユニコーン出撃。

 

バンシィ出撃。

 

νガンダム出撃。

 

だが敵は多すぎる。

 

そして。

 

ヴァニシングガンダムそのものが危険だった。

 

暴走するサイコフレーム。

 

虚無と融合した機体。

 

空間が歪み始める。

 

その時だった。

 

宇宙の彼方で、紫色の光が瞬いた。

 

暖かい光。

 

優しい光。

 

全員が振り返る。

 

白い機体。

 

六基のフィン・ファンネル。

 

紫色のサイコフレーム。

 

ハイニューガンダム・レイ。

 

そして。

 

『……やっぱり来たか』

 

静かな声。

 

ヤマト・シンラだった。

 

バナージが叫ぶ。

 

「シンラさん!!」

 

シンラの声は穏やかだった。

 

『ごめん』

 

『少し、遅れた』

 

その時。

 

ヴァニシングガンダムが咆哮のような感応波を放つ。

 

虚無が拡大する。

 

だが。

 

ハイニューガンダム・レイが前へ出た。

 

紫色の光が宇宙を包む。

 

虚無の侵食が止まる。

 

シンラは静かにヴァニシングガンダムを見る。

 

『……君も怖かったんだな』

 

暴走する機体。

 

泣き叫ぶパイロット。

 

恐怖。

 

絶望。

 

孤独。

 

それらが伝わってくる。

 

シンラは優しく言う。

 

『大丈夫』

 

『もう、一人じゃない』

 

その瞬間。

 

紫色の光が、暴走する虚無へ触れた。

 

まるで、傷を癒すように。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。