感謝感激です!
グラナダ宙域――。
宇宙は、再び悲鳴を上げていた。
黒い裂け目。
そこから溢れ出す無数の虚無端末。
そして中心には、暴走する
ヴァニシングガンダム。
紫黒色のサイコフレームが狂ったように脈動し、周囲の空間を侵食している。
このままでは。
再び虚無が宇宙を飲み込む。
だが、その前へ――。
紫色の光が立った。
ハイニューガンダム・レイ。
暖かい紫光が宇宙へ広がり、虚無の侵食を押し返していく。
その光景を見ながら、
バナージ・リンクスは震えていた。
「やっぱり……シンラさんだ……」
だが違う。
以前よりも、もっと静かだった。
もっと遠い。
まるで宇宙そのものと同化しているような感覚。
通信回線が開く。
『皆、下がって』
静かな声。
ヤマト・シンラ。
リディが怒鳴る。
『下がれる状況かよ!!』
『裂け目がまた広がってんだぞ!!』
その通りだった。
ヴァニシングガンダムの暴走は止まらない。
空間歪曲が拡大。
虚無端末群が次々と出現している。
だがシンラは穏やかだった。
『……大丈夫』
『あの子は、まだ消えてない』
その言葉と同時に。
ヴァニシングガンダムから苦痛の感応波が溢れ出した。
恐怖。
絶望。
助けを求める叫び。
そして――孤独。
モニターへ、若いパイロットの顔が映る。
まだ十代後半。
連邦の強化人間候補生だった。
紫黒色の侵食が全身へ広がっている。
瞳は涙で濡れていた。
『いやだ……』
『消えたくない……』
『怖い……!!』
その声に、戦場が静まり返る。
グレイヴス准将が歯を食いしばる。
『……すまない』
彼は知っていた。
この機体が、どれだけ非人道的な実験で生まれたのか。
虚無への対抗。
そのために、人の心を犠牲にした。
かつての自分たちと同じ過ち。
力で全てを制御しようとした結果だった。
その時。
ヴァニシングガンダムが暴走する。
紫黒色の衝撃波。
宇宙が裂ける。
ユニコーンとバンシィが防御へ入る。
『ぐっ!!』
『押し切れない!!』
虚無侵食がフィールドを削っていく。
νガンダムもファンネル障壁を展開するが、限界が近い。
アムロが叫ぶ。
『シンラ!!』
だが。
ハイニューガンダム・レイは静かに前へ出た。
武器は構えない。
敵意もない。
ただ、優しく光っている。
シンラは静かに語りかける。
『聞こえるか』
『君は悪くない』
暴走する感応波が一瞬揺らぐ。
『……え……?』
『怖かったよな』
『苦しかったよな』
『一人だったんだな』
その瞬間。
ヴァニシングガンダムの動きが止まった。
虚無の波動が乱れる。
パイロットの瞳から涙が溢れる。
『ぼくは……』
『人を守れるって……言われて……』
『だから……頑張ったのに……』
その声は、ただの少年だった。
兵器ではない。
実験体でもない。
未来を信じた、一人の人間。
シンラは静かに目を閉じる。
かつての自分を思い出していた。
戦うことでしか、誰かを守れないと思っていた頃。
孤独だった。
苦しかった。
それでも。
誰かが手を伸ばしてくれた。
だから今度は、自分が手を伸ばく番だった。
『もう頑張らなくていい』
その瞬間。
ハイニューガンダム・レイのサイコフレームが強く発光した。
暖かな紫色の光。
それがヴァニシングガンダムを包み込む。
虚無が抵抗する。
紫黒色の侵食が暴れる。
だが。
シンラの光は消えない。
『やめろ!!』
『消える!!』
虚無が叫ぶ。
初めて感情を露わにした。
恐怖。
拒絶。
だがシンラは静かに言う。
『違う』
『消えるんじゃない』
『繋がるんだ』
その瞬間。
ユニコーンが共鳴した。
虹色の光。
続いてバンシィ。
黄金の光。
νガンダム。
白い光。
四つの光が宇宙を包み込む。
さらに。
戦場にいる人々の感情が流れ込んでくる。
助かってほしい。
生きてほしい。
帰ってきてほしい。
その願いが、巨大な光となって広がっていく。
ヴァニシングガンダムの侵食が止まった。
紫黒色の結晶が、ゆっくり浄化されていく。
少年が泣きながら叫ぶ。
『あったかい……』
『なんで……?』
シンラは優しく笑った。
『人の心は、誰かを救えるからだ』
その瞬間。
ヴァニシングガンダムのサイコフレームが砕け始める。
危険な虚無粒子が、光へ変わっていく。
裂け目も縮小を始めた。
バナージが涙を流す。
「これが……」
アムロが静かに続ける。
「人の可能性だ」
その時だった。
裂け目の奥で、“何か”が動いた。
全員が凍りつく。
以前感じた虚無とは違う。
もっと巨大。
もっと深い。
宇宙そのものの悪意。
シンラの表情が初めて強張る。
『……まだいたのか』
裂け目の奥。
そこに、“眼”が開いた。
巨大な紫黒色の瞳。
それは静かに、こちらを見ていた。
同時に。
宇宙全域へ感応波が響く。
『――観測完了』
低い声。
だが以前の虚無とは違う。
知性がある。
意思がある。
そして。
明確な敵意。
『人類は、危険である』
その瞬間。
裂け目が再び拡大を始めた。
宇宙が震える。
誰もが理解した。
今までの虚無は、ただの“端末”だったのだと。
本当の“本体”が、今ようやくこちらを認識したのだと。