U.C.0098――。
観測者との最終決戦から半年。
地球圏はかつてない平和を迎えていた。
戦争が消えたわけではない。
対立も。
争いも。
人の負の感情も消えてはいない。
だが、人々は知った。
どれほど絶望的な未来でも、変えることはできるのだと。
そして――。
その奇跡を起こした男は今。
月面都市グラナダの病院で、盛大に怒られていた。
「だから!!」
「なんで目覚めて三日で病室から脱走するんですか!!」
女性看護師の怒声が病室に響く。
ベッドの上で正座させられているのは、
ヤマト・シンラ。
当の本人は苦笑いだった。
「いや、ちょっと散歩を……」
「宇宙港まで歩いて行くのは散歩じゃありません!!」
「はい……」
完全敗北だった。
その様子を見ていた医師たちも呆れている。
本来なら生きていること自体が奇跡。
観測者との接触。
サイコフレームとの完全同化。
普通なら存在が消滅していてもおかしくない。
だがシンラは戻ってきた。
しかも。
身体に異常はほぼ存在しない。
それどころか。
以前より健康だった。
「本当に人間なんですかね……」
主任医師が頭を抱える。
だが。
問題がないわけではなかった。
シンラ自身が一番理解している。
自分は変わってしまった。
夜になると聞こえるのだ。
遥か宇宙の声が。
誰かの願い。
誰かの悲しみ。
遠く離れた人々の感情。
以前のニュータイプ能力とは次元が違う。
まるで宇宙全体と繋がっているような感覚。
観測者との接触によって何かが変質したのだ。
その時。
病室のドアが開く。
「元気そうですね」
入ってきたのは、
バナージ・リンクス。
続いて。
「元気過ぎて困ってるらしいぞ」
リディ・マーセナス。
そして最後に。
静かな笑みを浮かべた
アムロ・レイ。
シンラが笑う。
「皆さん」
半年ぶりの再会だった。
だが誰も感動的な雰囲気にはならない。
リディが開口一番。
「馬鹿野郎」
「え?」
「生きて帰るなら最初からそうしろ」
病室に笑いが起きる。
シンラも苦笑した。
その後。
四人は病室で長く話した。
戦後処理。
復興。
地球圏の変化。
観測者の消失後、各地で争いが減少していること。
そして――。
ある奇妙な現象について。
アムロが真剣な表情になる。
「シンラ」
「はい」
「最近、何か感じないか?」
シンラは少し黙る。
そして頷いた。
「……やっぱり分かりますか」
病室の空気が変わる。
アムロも感じていた。
バナージも。
リディですら違和感を覚えていた。
何かがいる。
遠い。
だが確実に。
宇宙のどこかに。
シンラは静かに言う。
「観測者じゃない」
「もっと……古い」
全員が顔を見合わせる。
その時だった。
突然。
シンラの瞳が紫色に輝いた。
病室の照明が明滅する。
全員が立ち上がる。
「シンラ!?」
だが本人は動かない。
視線だけが遥か遠くを見ている。
宇宙の彼方。
誰も届かない場所。
そこに――何かがいた。
巨大な存在。
観測者とは比較にならない。
銀河そのもののような意識。
その瞬間。
シンラの脳裏へ映像が流れ込む。
無数の星。
崩壊した文明。
消えた銀河。
そして。
黄金色の巨大な光。
まるで宇宙誕生以前から存在する何か。
『発見』
低い声。
感情はない。
だが観測者とは違う。
圧倒的な威厳。
圧倒的な存在感。
『希望因子確認』
『座標固定開始』
シンラが息を呑む。
「まさか……」
その瞬間。
接続が切れた。
病室へ静寂が戻る。
バナージが駆け寄る。
「何が見えたんですか!?」
シンラは答えられなかった。
理解できなかったからだ。
だが一つだけ分かる。
終わっていない。
観測者ですら、宇宙の一部に過ぎなかった。
もっと巨大な何かがいる。
そして。
それは自分を見つけた。
その夜。
アナハイム極秘工廠。
厳重封印されていた格納庫が開かれる。
そこには。
修復された一機のモビルスーツがあった。
白い装甲。
紫色のサイコフレーム。
六基のフィン・ファンネル。
だが以前とは違う。
全身に新たなフレーム構造が追加されている。
機体名。
**RX-94R ハイニューガンダム・レイ リバース**
アナハイム技術主任が呟く。
「まったく……」
「帰ってきたと思ったら、また出番か」
紫色のサイコフレームが微かに輝く。
まるで主の帰還を待つように。
同じ頃――。
銀河の遥か外縁。
誰も到達したことのない領域。
そこで。
黄金色の巨大な瞳が静かに開いた。
観測者を遥かに超える存在。
その瞳が映しているのは。
ただ一人。
ヤマト・シンラ。
『希望』
『確認』
『接触準備開始』
宇宙が微かに震える。
新たな物語。
新たな戦い。
そして。
ヤマト・シンラの真実へ至る旅が、今始まろうとしていた。