U.C.0098――
地球圏全体が騒然としていた。
グラナダ外宙域へ現れた謎の巨大構造物。
全長推定三百キロメートル以上。
黄金色に輝く外殻。
既知のいかなる文明とも一致しない技術体系。
しかも。
敵意を示していない。
それが逆に不気味だった。
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地球連邦軍統合司令部。
緊急会議が開かれていた。
巨大モニターには黄金構造物の映像。
誰もが険しい顔をしている。
「攻撃意思なし」
「通信妨害なし」
「武装反応なし」
参謀の報告に司令官が顔をしかめる。
「だからこそ分からん」
敵なら分かる。
戦えばいい。
だが。
相手はただそこに存在しているだけだった。
その時。
新たな報告が届く。
オペレーターが震えた声を上げる。
「通信です!」
全員が立ち上がる。
「内容は!?」
「……一文だけです」
モニターへ表示された文字。
そこにはこう書かれていた。
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《ヤマト・シンラとの対話を要求する》
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会議室が静まり返る。
「……は?」
誰も理解できなかった。
なぜ。
宇宙規模の超文明が。
たった一人の人間を指名するのか。
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同時刻。
グラナダ。
アナハイム工廠。
「嫌な予感しかしない」
シンラは頭を抱えていた。
その隣で、
リディ・マーセナスが即答する。
「奇遇だな」
「俺もだ」
さらに、
バナージ・リンクスも苦笑する。
「でも行くしかないですよね」
それは全員分かっていた。
逃げるという選択肢はない。
なにより。
シンラ自身が感じていた。
あれは敵ではない。
少なくとも今は。
だが。
それ以上に危険な何かだった。
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二日後。
調査隊出発。
地球連邦。
アナハイム。
ロンド・ベル。
合同調査チーム。
護衛機として。
ユニコーンガンダム。
バンシィ。
ハイニューガンダム・レイ リバース。
三機が出撃する。
黄金構造物までの距離。
約三時間。
宇宙空間を進みながら誰も喋らない。
重苦しい沈黙。
その時。
リディが通信を開く。
『なぁ』
『なんです?』
『お前、本当に心当たりないのか』
シンラは苦笑する。
『あったら困ります』
『宇宙創世級文明の知り合いとか嫌ですよ』
『それもそうだ』
珍しく全員笑った。
緊張が少しだけ和らぐ。
だが。
目的地へ近付くにつれ。
誰も笑えなくなった。
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巨大だった。
想像を遥かに超えていた。
黄金構造物。
いや。
もはや都市だった。
恒星間移民船。
あるいは人工惑星。
そう呼ぶ方が正しい。
表面には無数の建造物。
巨大なリング。
未知のエネルギー施設。
その全てが黄金色に輝いている。
バナージが呆然と呟く。
『これを作れる文明があるのか……』
シンラも息を呑む。
観測者ですら人工物だった。
ならば。
これもまた。
誰かが作ったもの。
その事実が恐ろしかった。
その時。
構造物中央が発光する。
巨大なゲートが開いた。
そして通信。
《進入を許可》
《歓迎する》
《希望因子》
全員が凍りつく。
希望因子。
それは黄金観測機構がシンラを呼ぶ名称だった。
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調査隊は慎重に内部へ進入した。
内部はさらに異常だった。
重力がある。
大気がある。
人工太陽まで存在する。
まるで一つの世界。
巨大な都市だった。
しかも。
誰もいない。
無人。
生命反応ゼロ。
数千万人は暮らせる規模なのに。
完全な無人都市。
その静けさが逆に恐ろしい。
シンラが呟く。
「滅んだのか……?」
その瞬間。
声が響いた。
『違う』
全員が振り向く。
そこにいた。
黄金色の少女。
年齢は十五歳ほど。
長い金髪。
黄金の瞳。
そして。
人間離れした美しさ。
だが。
生命の気配がない。
リディが警戒する。
『誰だ』
少女は静かに頭を下げた。
『管理端末アルテア』
『黄金観測機構第七管理補佐』
『皆様を歓迎します』
誰も理解できなかった。
だが。
一つだけ分かる。
目の前の存在は。
観測者と同じ側の存在だ。
しかし。
少女の瞳には感情があった。
困惑。
興味。
そして。
僅かな期待。
アルテアは真っ直ぐシンラを見る。
『初めまして』
『ヤマト・シンラ』
シンラも見返す。
『初めまして』
『俺を知ってるんだな』
少女は頷く。
『当然です』
『現在の宇宙で最も異常な生命体ですから』
『酷くない?』
リディが吹き出した。
バナージも笑いを堪えている。
シンラだけが少し傷付いた顔をしていた。
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だが次の瞬間。
アルテアの表情が真剣になる。
『時間がありません』
『説明を開始します』
周囲の空間が変化する。
巨大なホログラム。
宇宙。
銀河。
そして。
無数の黄金構造物。
全員が息を呑む。
一つではない。
数万。
数億。
宇宙全域へ存在している。
アルテアは静かに語った。
『黄金観測機構は宇宙最古の文明です』
『存在期間は約一兆三千億年』
『現在確認されている宇宙より古い存在です』
誰も言葉を失う。
だが。
本当に恐ろしいのはその次だった。
アルテアは宇宙図を拡大する。
そして。
現在の宇宙の外側を映し出した。
そこには。
何もない。
空白。
虚無。
だが。
その向こうに。
何かがいた。
巨大。
無限。
理解不能。
観測すら困難な存在。
アルテアの声が震える。
初めてだった。
感情を持たないはずの管理端末が。
恐怖を見せた。
『我々は観測しました』
『宇宙の外側を』
『そして発見しました』
沈黙。
誰も呼吸を忘れる。
アルテアはゆっくり告げた。
『宇宙を喰らう存在を』
その瞬間。
宇宙全体が微かに震えた。
遠く。
本当に遠く。
銀河の果て。
何かが目覚めた。
そして。
シンラの瞳が紫色に輝く。
彼だけが聞いていた。
宇宙の彼方から届く声を。
それは。
観測者ですら恐れる存在の目覚めだった。