U.C.0098――
グラナダ宙域に出現した黄金観測機構の巨大構造物。
人類史上初の異星超文明との接触は、地球圏全体を揺るがしていた。
しかし、その中心にいる当人――
ヤマト・シンラ
は現在。
巨大モニターの前で頭を抱えていた。
「情報量が多過ぎる……」
目の前には黄金観測機構から提供された技術資料。
一つ読むだけで革命が起きる。
十個読めば宇宙世紀の技術体系が崩壊する。
そんな代物だった。
アナハイム技術者達も顔色が悪い。
「理解できない……」
「理論は分かる」
「分かるけど作れない」
「何で恒星を電池みたいに扱ってるんだ……」
全員が限界だった。
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その頃。
黄金構造物内部。
アルテアが静かに歩いていた。
黄金観測機構第七管理補佐。
人類で言えば案内役。
だが彼女は今困惑していた。
『質問があります』
「なんだ?」
シンラが振り向く。
『何故人類は休憩を必要とするのですか』
「またそれ?」
アルテアは真剣だった。
『作業効率が低下します』
『睡眠は非合理です』
『食事も非合理です』
『恋愛はさらに非合理です』
最後の一言で周囲が静まる。
シンラは嫌な予感がした。
アルテアは続ける。
『先日ミツキ・カンザキとの行動記録を――』
「待て」
『はい』
「その話はやめよう」
アルテアは首を傾げる。
『機密事項ですか?』
「そういう問題じゃない」
周囲の技術者達は必死に笑いを堪えていた。
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その時。
警報が鳴った。
全員が表情を変える。
オペレーターが叫ぶ。
「重力異常発生!」
「座標は!?」
「木星圏です!」
シンラが立ち上がる。
木星。
現在の人類圏外縁部。
そこに何かが現れた。
モニターへ映像が表示される。
全員が息を呑む。
そこには巨大な影があった。
惑星サイズ。
銀色の外殻。
生物なのか機械なのかも分からない。
そして。
ただ漂っているだけなのに周囲の小惑星が崩壊している。
アルテアの瞳が揺れる。
『観測成功』
『星喰い先遣個体』
会議室が静まり返る。
シンラが低く呟く。
「先遣……?」
アルテアは頷いた。
『本体ではありません』
『観測用端末です』
誰も言葉を失う。
観測者の時もそうだった。
端末。
管理者。
補佐。
そして今度は先遣個体。
つまり。
目の前の化物ですら本体ではない。
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緊急会議が始まった。
地球連邦軍。
ロンド・ベル。
アナハイム。
そして黄金観測機構。
人類史上最大規模の会議だった。
だが結論は出ない。
攻撃するべきか。
様子を見るべきか。
誰も分からない。
その時。
シンラが口を開いた。
「まず接触します」
全員が振り向く。
軍人達が顔をしかめる。
「危険だ」
「分かってます」
「相手は未知の存在だぞ」
「だからです」
シンラは真っ直ぐ前を見る。
「観測者とも話せた」
「アルテアとも話せた」
「なら星喰いとも話せるかもしれない」
アルテアが静かに言う。
『成功確率三・七%』
「意外と高いな」
『高くありません』
シンラは笑った。
「十分だ」
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数日後。
作戦開始。
木星圏。
暗い宇宙。
そこに三機のモビルスーツがいた。
ハイニューガンダム・レイ リバース
ユニコーンガンダム
バンシィ
パイロットはもちろん、
バナージ・リンクス
と
リディ・マーセナス
だった。
通信が開く。
『本当に行くのか?』
リディが聞く。
『行きます』
『馬鹿だな』
『よく言われます』
バナージが苦笑する。
いつものやり取りだった。
だが今回は違う。
相手は未知。
誰も保証できない。
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やがて。
先遣個体へ到達する。
近付くほど巨大だった。
コロニーが豆粒に見える。
モビルスーツなど塵同然。
圧倒的な存在感。
その瞬間。
シンラの脳へ声が響いた。
『発見』
低い声。
感情はない。
だが観測者とも違う。
もっと原始的。
もっと巨大。
『希望因子確認』
『興味深い』
シンラは息を呑む。
「話せるのか」
『会話可能』
『質問』
『何故存在する』
いきなりだった。
シンラは苦笑する。
「それ俺も知りたい」
沈黙。
数秒後。
『回答不能』
『理解不能』
『興味深い』
どうやら本当に会話しているらしい。
後方で見ているバナージ達も驚いていた。
そして。
その時。
シンラは気付く。
星喰いは敵意を持っていない。
ただ。
人類を観察している。
まるで観測者と同じように。
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帰還後。
アルテアは静かに告げた。
『結論』
『星喰いは侵略者ではありません』
会議室がざわつく。
『正確には』
『宇宙の終焉を観測する存在です』
全員が息を呑む。
宇宙を喰らう怪物。
その正体は。
宇宙の終わりを見届ける観測者だった。
だが。
アルテアの表情は険しい。
『問題があります』
「何だ」
シンラが聞く。
アルテアはゆっくり答えた。
『星喰いが活動を開始したということは』
『宇宙寿命が近付いています』
静寂。
誰も言葉を発せない。
宇宙そのものの終わり。
それは戦争など比較にならない規模の話だった。
しかし。
シンラは不思議と冷静だった。
「なら」
全員が振り向く。
「終わらないようにすればいい」
アルテアが固まる。
リディが頭を抱える。
バナージが笑う。
そして全員思った。
やっぱりこの男はおかしい。
だが。
だからこそ。
人類はここまで来られたのかもしれない。
宇宙の終焉すら前にして。
ヤマト・シンラは未来を諦めていなかった。