サイド4宙域。
戦場は混沌へ沈みつつあった。
巨大兵器《ヘリオス》周囲から放出された無数の無人兵器――《ゴーストビット》。
黒い機械群はまるで群れを成す亡霊のように宇宙空間を埋め尽くし、敵味方の区別なく襲いかかっていた。
ビームが飛び交う。
爆炎が咲く。
撃墜されたモビルスーツの残骸がデブリ帯へ散っていく。
「数が多すぎる……!」
連邦艦隊オペレーターの悲鳴。
通常部隊では対応不可能。
しかもゴーストビットはサイコミュ波に反応し、パイロットの恐怖や焦りを感知して攻撃を最適化していた。
まるで“感情”そのものを喰らう兵器。
「ふざけた兵器だ……!」
ヤマト・シンラは歯を食いしばる。
その瞬間。
複数のゴーストビットがスタークジェガン・ライズへ殺到した。
「来る!」
スラスター全開。
スタークジェガン・ライズが急加速する。
通常機体なら空中分解しかねない推力。
ゴーストビットの包囲網を紙一重で突破する。
だが敵は止まらない。
背後。
上方。
死角。
全方向からビームが迫る。
「チィッ!」
シンラは機体を強引に反転。
右腕部《ブレイクナックル》を展開。
炸裂打撃。
接近したゴーストビットをまとめて粉砕する。
しかし次の瞬間。
別方向からのビームが機体を掠めた。
警告音。
左肩部損傷。
「まだ来るか!」
だが、その時だった。
虹色の光が宇宙を照らす。
ユニコーンガンダム。
サイコフレームが眩く発光し、周囲空間へ巨大な感応波を放出する。
すると暴走していたゴーストビットの一部が動きを止めた。
「止まった……!?」
シンラが驚愕する。
通信回線が開く。
『完全停止までは無理です!』
バナージ・リンクスの声。
『でも、サイコミュ制御を乱せば動きは鈍る!』
その直後。
漆黒の機体が高速突撃する。
バンシィ。
黄金のサイコフレームを輝かせながら、敵陣へ一直線に突っ込んでいく。
『だったら叩き壊すだけだ!』
リディ・マーセナスが叫ぶ。
アームド・アーマーVNがゴーストビット群を引き裂き、次々と爆散させていく。
リディは笑う。
『まったく……どいつもこいつも面倒な兵器ばかり作りやがって!』
バナージが苦笑する。
『リディさん、前出すぎです!』
『うるせぇ! 後ろは任せた!』
二機の連携。
それはかつてラプラス戦争を駆け抜けたコンビそのものだった。
その様子を見ながら、シンラは静かに息を吐く。
「……頼もしいな」
だが、安心したのも束の間だった。
戦場全域へ再び異常な感応波が走る。
《ヘリオス》中央部。
赤黒い光がさらに増大していた。
アムロの声が響く。
『まずい……出力が上がっている!』
νガンダムが前進。
フィン・ファンネル展開。
ゴーストビット群を次々と撃ち落としていく。
だが敵の数は減らない。
むしろ増殖しているようにすら見えた。
シンラはモニターを睨む。
「何をする気だ……!」
その時。
巨大モニターへ再び仮面の男が映し出された。
『諸君』
『見えるだろう』
『これが人類の本質だ』
戦場で暴走する機体群。
恐怖に呑まれる兵士たち。
混乱する艦隊。
男は静かに笑った。
『人は感情に支配される』
『だからこそ統制されねばならない』
シンラが怒鳴る。
「黙れ!」
『貴様らは自由を美化する』
『だが自由は争いしか生まなかった』
男の背後で、《ヘリオス》中心部がさらに発光する。
『ならば我々が導く』
『全人類を、一つの意思へ』
その瞬間。
ヘリオスから巨大な衝撃波が放たれた。
「ぐあぁっ!!」
全機体へ強烈なサイコミュ干渉。
シンラの脳へ感情が流れ込む。
悲鳴。
怒号。
憎悪。
絶望。
それはもはや戦場全体の心の叫びだった。
スタークジェガン・ライズが激しく振動する。
警告表示。
フレーム限界。
サイコミュ負荷上昇。
「くっ……!」
意識が飲まれそうになる。
その時だった。
暖かな感覚。
誰かの意思が流れ込む。
『シンラさん!』
バナージだった。
ユニコーンガンダムのサイコフレームが優しく発光している。
『飲まれちゃ駄目です!』
『人の心は……こんなものじゃない!』
さらに別方向から力強い感応波。
アムロだった。
『シンラ!』
『感情に呑まれるな!』
その声で、シンラの意識が戻る。
「……っ!」
周囲を見る。
暴走しかけていた機体が、少しずつ安定を取り戻していた。
ユニコーンのサイコフィールド。
νガンダムの感応波。
二人が周囲の精神干渉を抑え込んでいる。
だが。
その時だった。
リディの声が響く。
『おい、避けろ!』
巨大な影。
《ヘリオス》後方ハッチが開き、一機の巨大MAが出現する。
黒い装甲。
全身へ組み込まれた赤いサイコフレーム。
異様な威圧感。
「新型……!?」
アムロの声が低くなる。
『あれは……』
MAの瞳が赤く発光。
直後。
周囲空間へ凄まじい感応波が放たれた。
バナージが苦しそうに呻く。
『ぐっ……これは……!』
リディも歯を食いしばる。
『頭の中に……直接……!』
シンラは驚愕する。
この感覚を知っていた。
「まさか……サイコフレーム暴走機……!」
巨大MAがゆっくりと前進する。
その姿はまるで、人の負の感情そのものを具現化した怪物だった。
仮面の男が笑う。
『紹介しよう』
『“ネメシス”だ』
『人類の絶望を動力とする、最強のサイコミュ兵器』
次の瞬間。
ネメシスの全身サイコフレームが赤黒く発光。
無数のビームが一斉掃射される。
「散開!!」
アムロが叫ぶ。
νガンダムがフィン・ファンネルを展開し防御壁を形成。
ユニコーンがサイコフィールドを展開。
バンシィが高速機動で敵弾を回避する。
だが。
スタークジェガン・ライズだけが遅れた。
「しまっ――!」
直撃。
凄まじい爆発。
シンラの機体が吹き飛ばされる。
「シンラさん!!」
バナージの叫び。
スタークジェガン・ライズはデブリ帯へ激突し、大破寸前となる。
警告音が鳴り響く。
左腕部損失。
スラスター半壊。
出力低下。
シンラは血を流しながらも笑った。
「はは……やってくれる……!」
その時だった。
彼の脳裏へ、ある機体の姿が浮かぶ。
白紫の機体。
全身へ埋め込まれたサイコフレーム。
未完成のまま封印された“禁忌”。
アナハイム極秘工廠に眠る機体。
ハイニューガンダム・レイ。
シンラは静かに呟く。
「……必要になるかもしれないな」
その瞳の奥で、紫色の光が微かに揺れていた――。