サイド4宙域――。
戦場は崩壊寸前だった。
巨大MA《ネメシス》の出現によって、戦況は完全に覆された。
黒い巨躯。
全身へ埋め込まれた赤黒いサイコフレーム。
そこから放たれる異常な感応波は、周囲の人間の精神を直接侵食していた。
恐怖。
絶望。
怒り。
負の感情そのものが空間へ染み出し、戦場を飲み込んでいく。
「くっ……!」
バナージ・リンクスは歯を食いしばる。
ユニコーンガンダムのサイコフレームが虹色に輝き、周囲へサイコフィールドを展開。
暴走しかけていた連邦機の精神干渉を抑え込む。
だが、それでも追いつかない。
ネメシスから放たれる感応波は、あまりにも巨大すぎた。
「このままじゃ……皆の心が……!」
その時。
黒き獅子が敵陣を切り裂く。
バンシィ。
黄金のサイコフレームを発光させながら、高速機動でネメシスへ突撃する。
『邪魔だぁぁっ!!』
リディ・マーセナスが叫ぶ。
アームド・アーマーVNが振り下ろされ、周囲のゴーストビットをまとめて粉砕する。
だが次の瞬間。
ネメシスの瞳が赤く発光。
空間そのものが震えた。
「なっ――!?」
バンシィの機体が強制停止する。
リディの脳へ、無数の感情が流れ込んでいた。
憎悪。
悲鳴。
殺意。
『ぐっ……あぁぁぁっ!!』
「リディさん!!」
バナージが叫ぶ。
その隙を狙うように、ネメシスの巨大砲門が展開される。
高出力メガ粒子収束。
狙いはバンシィ。
直撃すれば消滅は免れない。
だが。
紫色の閃光が走った。
ビームが弾かれる。
ネメシスの前へ滑り込んだのは、
νガンダム。
フィン・ファンネルによる防御フィールド。
アムロが叫ぶ。
『リディ! 意識を持っていかれるな!』
『感情に飲まれれば終わりだ!』
リディは震える声で返す。
『分かって……るっ!』
だがネメシスの精神干渉は止まらない。
周囲の兵士たちが次々と錯乱していく。
味方へ銃口を向ける者。
恐怖で操縦不能になる者。
戦場そのものが壊れ始めていた。
その光景を、仮面の男は静かに見下ろしていた。
『これが人類だ』
『感情に支配される愚かな生命』
巨大モニター越しに、冷たい声が響く。
『ゆえに我々が導く』
『感情を統一し、争いを終わらせる』
アムロが低く呟く。
「違う……」
『何?』
「人は感情があるから前へ進めるんだ」
νガンダムが前進する。
フィン・ファンネル展開。
ビームの雨がネメシスへ降り注ぐ。
だが。
ネメシスの周囲へ赤黒いフィールドが展開される。
ビームが掻き消えた。
「フィールドだと……!?」
シンラが驚愕する。
大破した
スタークジェガン・ライズのコックピットで、彼は戦況を見つめていた。
左腕部損失。
推力半減。
戦闘継続は困難。
それでもシンラは立ち上がろうとしていた。
「まだ……終われない」
だが機体が悲鳴を上げる。
限界だった。
その時。
通信が入る。
『シンラ』
アムロだった。
『もうその機体じゃ無理だ』
シンラは悔しそうに歯を食いしばる。
「分かってます……!」
だが。
アムロは静かに続けた。
『なら、“あれ”を使え』
シンラの瞳が揺れる。
「あれを……?」
脳裏へ浮かぶ。
白紫の機体。
全身サイコフレーム。
アナハイムが極秘裏に開発していた禁断の機体。
ハイニューガンダム・レイ。
だがシンラは首を振る。
「まだ未完成です!」
「下手をすれば俺の精神が……!」
アムロは静かに答える。
『それでも、お前なら制御できる』
『俺はそう信じてる』
シンラは言葉を失う。
一年戦争からずっと、自分を見てきた男。
そのアムロが迷いなく言った。
『人を繋げる力……それがお前のニュータイプだ』
『お前にしか止められない』
その瞬間。
ネメシスが再び砲門を展開する。
狙いは連邦艦隊。
もし撃たれれば艦隊は消滅する。
バナージが叫ぶ。
『まずい!!』
リディが突撃する。
『止めろぉぉぉ!!』
しかし間に合わない。
ネメシス砲撃。
赤黒い光が宇宙を裂いた。
だが次の瞬間。
虹色の光が展開される。
ユニコーンガンダム。
サイコフィールド最大出力。
ビームを押し止める。
『ぐぅっ……!!』
バナージの額から血が流れる。
限界だった。
さらにバンシィも加勢。
黄金のサイコフレームが共鳴する。
それでも押し切れない。
アムロが叫ぶ。
『シンラ!!』
その瞬間。
シンラは決断する。
「……分かりました」
静かな声。
だが、その瞳には強い光が宿っていた。
「俺が止めます」
彼は緊急脱出艇を起動。
スタークジェガン・ライズを捨て、アナハイム極秘ドックへ向かう。
その背後で、スタークジェガン・ライズが爆散した。
シンラは振り返らない。
向かう先は一つ。
封印された“禁忌”。
――アナハイム極秘工廠。
巨大格納庫の中央で、一機のモビルスーツが眠っていた。
白と紫の装甲。
全身へ刻まれた発光ライン。
通常サイコフレームとは比較にならない密度。
まるで機体全てが意思を持っているかのような存在感。
ハイニューガンダム・レイ。
フルサイコフレーム搭載機。
人の意思を極限まで増幅する“奇跡の機体”。
同時に、最も危険な兵器。
技術者たちが叫ぶ。
『駄目です!』
『まだ安定してません!』
『搭乗者の精神が耐えられない!』
だがシンラは迷わない。
「それでも行く」
コックピットへ乗り込む。
シートへ身体を預けた瞬間。
機体全体が脈動した。
まるで生き物。
紫色の光が全身を駆け巡る。
警告表示が並ぶ。
《精神同期率上昇》
《サイコミュ接続開始》
《危険領域》
《危険領域》
《危険領域》
技術主任が叫ぶ。
『止めろ! 暴走するぞ!』
その時だった。
シンラの意識へ、無数の“声”が流れ込む。
悲しみ。
怒り。
希望。
祈り。
宇宙に生きる人々の意思。
その全てを、機体が受信していた。
「これが……フルサイコフレーム……!」
通常のニュータイプでは耐えられない。
だがシンラは違った。
彼の能力は、“人と繋がる”力。
無数の感情が流れ込んでも、拒絶しない。
受け止める。
繋ぐ。
その瞬間。
ハイニューガンダム・レイの瞳が発光した。
紫色の光が格納庫全体を包み込む。
技術者たちが息を呑む。
『起動した……!?』
『完全同期だと……!?』
シンラは静かに目を開く。
「待たせましたね」
ハイニューガンダム・レイが立ち上がる。
全身サイコフレーム発光。
まるで宇宙そのものが共鳴しているかのようだった。
そして――
紫色の光が、戦場へ飛び立つ。