サイド4宙域――。
絶望が宇宙を覆っていた。
巨大MA《ネメシス》の砲撃によって、連邦艦隊は壊滅寸前に追い込まれている。
無数の艦が爆散し、戦場には残骸と炎だけが漂っていた。
その中心で、
ユニコーンガンダムが虹色のサイコフィールドを展開している。
『ぐぅぅっ……!!』
バナージ・リンクスの額から血が流れる。
限界だった。
ネメシスから放たれる赤黒い砲撃は、人の負の感情そのもの。
怒り。
恐怖。
絶望。
それらを圧縮したエネルギーが、ユニコーンのフィールドを侵食していく。
さらにその横では、
バンシィが高出力スラスターを噴射しながら砲撃を押し返していた。
『まだだぁぁぁっ!!』
リディ・マーセナスが叫ぶ。
黄金のサイコフレームが激しく明滅する。
だが押されている。
ネメシスの出力が高すぎるのだ。
その後方で、
νガンダムがフィン・ファンネルを展開していた。
アムロは歯を食いしばる。
『まだだ……!』
『ここで終わらせるか!』
フィン・ファンネル最大出力。
防御フィールド展開。
三機のサイコミュが共鳴し、ようやく砲撃を押し止める。
だが、それでも限界は近い。
仮面の男は冷たく笑っていた。
『無意味だ』
『人類は争いから逃れられない』
『ゆえに我々が統一する』
ネメシスの赤黒いサイコフレームがさらに発光する。
感応波増大。
その瞬間。
戦場全域へ強烈な精神干渉が走った。
「うあぁぁぁっ!!」
兵士たちの悲鳴。
敵味方関係なく、人々の感情が暴走を始める。
怒りに飲まれ、味方へ銃口を向ける者。
恐怖で動けなくなる者。
宇宙そのものが狂気へ沈んでいく。
バナージが震える声で呟く。
『こんなの……間違ってる……!』
その時だった。
戦場の奥。
暗黒の宇宙に、一筋の紫光が走る。
最初は誰も気づかなかった。
だが次第に、その光は巨大な存在感を放ち始める。
暖かい。
優しい。
それでいて圧倒的。
アムロが目を見開く。
『来たか……!』
次の瞬間。
紫色の閃光が戦場を貫いた。
無数のゴーストビットが一瞬で消滅する。
さらにネメシスの砲撃そのものが弾き飛ばされた。
仮面の男が初めて動揺する。
『何……!?』
宇宙の中心へ現れたのは、一機の白紫のモビルスーツ。
ハイニューガンダム・レイ。
全身サイコフレーム発光。
まるで機体全体が“光”そのものだった。
通信回線が開く。
『遅くなりました』
静かな声。
ヤマト・シンラだった。
バナージが息を呑む。
『これが……』
リディも言葉を失う。
『冗談だろ……サイコフレームの塊じゃねぇか……』
アムロだけが静かに笑った。
『やはり乗りこなしたか』
ハイニューガンダム・レイが前進する。
その動きは、従来のモビルスーツとは完全に別次元だった。
推進剤を吹かしていない。
まるで“意思”だけで空間を滑っているかのようだった。
シンラはネメシスを見据える。
「人の心を利用する……」
「そんなこと、絶対に許さない」
次の瞬間。
ハイニューガンダム・レイのフィン・ファンネルが展開。
通常のファンネルではない。
全基がサイコフレーム結晶化構造。
紫色の光を放ちながら、空間そのものへ干渉を始める。
仮面の男が叫ぶ。
『撃てぇ!!』
ネメシス砲撃。
赤黒い閃光が宇宙を裂く。
だが。
ハイニューガンダム・レイの前で、光が止まった。
「なっ……!?」
仮面の男が絶句する。
シンラは静かに呟く。
「感じる……」
「皆の意思を」
その瞬間。
周囲のサイコフレーム搭載機が共鳴を始める。
νガンダム。
ユニコーン。
バンシィ。
三機の光がハイニューガンダム・レイへ繋がっていく。
さらに――。
戦場の兵士たち。
避難民。
地球圏にいる人々。
無数の意思が、微弱な光となって集まり始める。
バナージが震える声を出す。
『これ……みんなの想い……!?』
アムロが静かに答える。
『ああ』
『サイコフレームは、人の心を繋ぐものだ』
ネメシスが再び砲撃。
しかし今度は違った。
ハイニューガンダム・レイの周囲へ、巨大な紫色の光輪が展開される。
その光は優しかった。
包み込むような暖かさ。
恐怖を消し去るような光。
赤黒い砲撃が、その光へ触れた瞬間。
浄化されるように消滅していく。
仮面の男が叫ぶ。
『馬鹿な!!』
『感情エネルギーを……打ち消しているのか!?』
シンラは静かに答える。
「違う」
「否定してるんじゃない」
「受け止めてるんだ」
その瞳には涙が浮かんでいた。
怒りも。
悲しみも。
恐怖も。
人の感情は消せない。
だが、それでも。
人は分かり合える。
シンラの感応波が宇宙へ広がる。
その瞬間。
暴走していた機体群が停止した。
錯乱していた兵士たちが正気へ戻る。
恐怖に支配されていた感情が、静かに鎮まっていく。
バナージが微笑む。
『すごい……』
リディが呆れたように笑う。
『ほんと規格外だな、お前らニュータイプは』
だが。
その時だった。
ネメシス中央部が赤黒く暴走を始める。
警告音。
エネルギー逆流。
仮面の男が動揺する。
『な、何故だ!?』
アムロが叫ぶ。
『まずい!』
『ネメシスが耐えきれない!』
暴走した負の感情エネルギーが臨界へ到達していた。
このままでは周囲宙域ごと消滅する。
バナージが叫ぶ。
『止めないと!』
だが方法がない。
その時。
シンラは静かに前へ出た。
「俺が行きます」
アムロが目を見開く。
『シンラ!』
「大丈夫です」
ハイニューガンダム・レイが加速する。
紫色の光を放ちながら、暴走するネメシスへ接近。
無数の感情が流れ込む。
絶望。
憎悪。
怒り。
それでもシンラは受け止める。
「苦しかったんだな……」
その瞬間。
ハイニューガンダム・レイの全身サイコフレームが最大発光した。
宇宙そのものを包み込むような紫色の光。
そして――。
ネメシスの赤黒い光が、静かに消えていく。
仮面の男は呆然と呟く。
『人の……心が……』
シンラは静かに答える。
「人は争う」
「でも、それだけじゃない」
「人は……誰かを想える」
その言葉と共に。
ネメシスは崩壊を始めた。
赤黒い光が消え、静かな粒子となって宇宙へ溶けていく。
戦場に静寂が訪れる。
誰も言葉を発せない。
ただ紫色の光だけが、宇宙を優しく照らしていた――。