サイド4宙域――。
暴走していた巨大MA《ネメシス》は、静かに崩壊を始めていた。
赤黒いサイコフレームが砕け、無数の光粒子となって宇宙へ溶けていく。
先程まで戦場を覆っていた憎悪と恐怖の感応波も、少しずつ薄れていた。
静寂。
誰もが、その光景を呆然と見つめていた。
そしてその中心には、一機の白紫の機体。
ハイニューガンダム・レイ。
全身サイコフレームを淡く輝かせながら、まるで宇宙そのものと同化しているかのように漂っていた。
通信回線が開く。
『……シンラさん?』
バナージ・リンクスの声。
だが返事はない。
『おい、応答しろ!』
リディ・マーセナスが叫ぶ。
しかしハイニューガンダム・レイは動かない。
コックピット内部。
ヤマト・シンラは、静かに目を閉じていた。
意識が遠い。
だが不思議と苦しくはない。
無数の“声”が聞こえる。
戦場で怯えていた兵士。
家族を待つ子供。
宇宙に生きる人々。
その全ての感情が、サイコフレームを通じて流れ込んできていた。
悲しみ。
怒り。
希望。
祈り。
そして――願い。
「これが……人の心……」
シンラは静かに呟く。
その時。
誰かの声が響いた。
『聞こえるか、シンラ』
懐かしい声。
アムロだった。
シンラがゆっくり目を開く。
モニター越しに、
νガンダムが並んでいる。
『よくやった』
シンラは苦笑する。
「無茶させたのは、アムロさんでしょう」
『違いない』
アムロも笑った。
だが、その表情はすぐ真剣になる。
『まだ終わってない』
シンラの瞳が細くなる。
その瞬間。
戦場全域へ警告音が鳴り響いた。
《超高熱源反応確認》
《ヘリオス炉心暴走》
オペレーターたちが悲鳴を上げる。
『ま、まずい!』
『ネメシス崩壊の影響でヘリオスが制御不能です!』
巨大兵器《ヘリオス》。
ネメシスと直結していたサイコフレーム制御炉が暴走を始めていた。
このまま臨界へ到達すれば――。
「宙域ごと吹き飛ぶ……!」
バナージが青ざめる。
リディが舌打ちした。
『最後まで面倒かよ……!』
だがアムロは冷静だった。
『ヘリオスを止めるしかない』
『だが通常攻撃じゃ間に合わん』
その時。
シンラはある感覚を覚える。
ヘリオス内部。
中心炉。
そこから微かに聞こえる“声”。
苦しみ。
悲鳴。
まるでサイコフレームそのものが暴走しているかのようだった。
「……助けを求めてる」
『シンラ?』
「ヘリオスのサイコフレームです」
「人の負の感情を流し込み続けられて、壊れかけてる……!」
アムロが目を見開く。
『まさか……』
シンラは静かに前へ出る。
「俺が行きます」
『駄目だ!』
アムロが即座に叫ぶ。
『今のお前は限界を超えてる!』
『それ以上サイコフレームと同調したら――』
「分かってます」
シンラは優しく笑った。
「でも、放っておけない」
その言葉に、誰も返せない。
バナージが震える声で言う。
『俺も行きます』
『ユニコーンなら――』
しかしシンラは首を振る。
「これは俺が始めた戦いです」
「だから最後まで、俺がやります」
その時。
リディが笑った。
『まったく……』
『ほんとお前らは自己犠牲好きだな』
バンシィが前へ出る。
『だが、一人で行かせる気はねぇ』
続いてユニコーン。
νガンダム。
三機がハイニューガンダム・レイの隣へ並ぶ。
アムロが静かに言う。
『忘れるな』
『ニュータイプは、一人で戦うものじゃない』
その瞬間。
四機のサイコフレームが共鳴を始める。
紫。
虹。
黄金。
白。
四つの光が宇宙で交差する。
ヘリオス中心部が赤黒く脈動する。
発射シークエンス再起動。
《照準設定》
《対象――地球》
バナージが叫ぶ。
『まずい!!』
ヘリオス砲門展開。
巨大な赤い閃光が地球へ向けられる。
もし発射されれば、地球圏そのものが消滅しかねない。
その瞬間。
シンラは静かに呟いた。
「皆の力を……貸してください」
ハイニューガンダム・レイの全身サイコフレームが最大発光。
紫色の光が宇宙全域へ広がる。
すると――。
地球。
コロニー。
艦隊。
あらゆる場所で微弱なサイコフレーム反応が共鳴を始める。
人々の意思。
願い。
祈り。
その全てが、光となって集まっていく。
アムロが目を細める。
『これが……人の可能性……』
バナージの瞳に涙が浮かぶ。
『こんなに……暖かい……』
リディは呆れたように笑った。
『ほんと、とんでもねぇな』
その時。
ヘリオス発射。
超巨大レーザーが宇宙を裂く。
だが。
四機は退かない。
νガンダムのフィン・ファンネル。
ユニコーンのサイコフィールド。
バンシィの共振波。
そして。
ハイニューガンダム・レイの全身サイコフレーム。
四つの光が重なる。
シンラが叫ぶ。
「人の心を!!」
「兵器になんかさせるかぁぁぁ!!」
宇宙が発光した。
紫色の巨大光輪が広がる。
レーザーが停止する。
いや――押し返されていた。
仮面の男が絶叫する。
『馬鹿な!!』
『人の意思が……こんな力を!!』
シンラは涙を流しながら叫ぶ。
「人は争う!」
「でも!」
「それでも誰かを想えるんだ!!」
その瞬間。
ヘリオス中心部が崩壊を始める。
赤黒い光が砕け、浄化されるように消えていく。
巨大兵器が静かに崩れていく中、ハイニューガンダム・レイのサイコフレームもまた、粒子化を始めていた。
バナージが叫ぶ。
『シンラさん!!』
リディも叫ぶ。
『戻れ!!』
だがシンラは穏やかに笑う。
「大丈夫です」
「皆がいるなら……未来は続く」
アムロが震える声を出す。
『シンラ……!』
その時だった。
ハイニューガンダム・レイから放たれた紫色の光が、宇宙全体へ広がる。
暖かい光。
優しい光。
まるで人の想いそのもののような輝き。
そして――。
ヘリオスは完全停止した。
静寂。
誰も言葉を発せない。
ただ宇宙には、無数の光粒子だけが漂っていた。
後に人々は、この事件をこう呼ぶ。
――“逆襲の残光”。
それは、人の心が兵器ではなく、未来を守る力になった日だった。