機動戦士ガンダム 逆襲の残光 ―RAY―   作:ガーディアス

6 / 16
逆襲の残光

サイド4宙域――。

 

暴走していた巨大MA《ネメシス》は、静かに崩壊を始めていた。

 

赤黒いサイコフレームが砕け、無数の光粒子となって宇宙へ溶けていく。

 

先程まで戦場を覆っていた憎悪と恐怖の感応波も、少しずつ薄れていた。

 

静寂。

 

誰もが、その光景を呆然と見つめていた。

 

そしてその中心には、一機の白紫の機体。

 

ハイニューガンダム・レイ。

 

全身サイコフレームを淡く輝かせながら、まるで宇宙そのものと同化しているかのように漂っていた。

 

通信回線が開く。

 

『……シンラさん?』

 

バナージ・リンクスの声。

 

だが返事はない。

 

『おい、応答しろ!』

 

リディ・マーセナスが叫ぶ。

 

しかしハイニューガンダム・レイは動かない。

 

コックピット内部。

 

ヤマト・シンラは、静かに目を閉じていた。

 

意識が遠い。

 

だが不思議と苦しくはない。

 

無数の“声”が聞こえる。

 

戦場で怯えていた兵士。

 

家族を待つ子供。

 

宇宙に生きる人々。

 

その全ての感情が、サイコフレームを通じて流れ込んできていた。

 

悲しみ。

 

怒り。

 

希望。

 

祈り。

 

そして――願い。

 

「これが……人の心……」

 

シンラは静かに呟く。

 

その時。

 

誰かの声が響いた。

 

『聞こえるか、シンラ』

 

懐かしい声。

 

アムロだった。

 

シンラがゆっくり目を開く。

 

モニター越しに、

νガンダムが並んでいる。

 

『よくやった』

 

シンラは苦笑する。

 

「無茶させたのは、アムロさんでしょう」

 

『違いない』

 

アムロも笑った。

 

だが、その表情はすぐ真剣になる。

 

『まだ終わってない』

 

シンラの瞳が細くなる。

 

その瞬間。

 

戦場全域へ警告音が鳴り響いた。

 

《超高熱源反応確認》

 

《ヘリオス炉心暴走》

 

オペレーターたちが悲鳴を上げる。

 

『ま、まずい!』

 

『ネメシス崩壊の影響でヘリオスが制御不能です!』

 

巨大兵器《ヘリオス》。

 

ネメシスと直結していたサイコフレーム制御炉が暴走を始めていた。

 

このまま臨界へ到達すれば――。

 

「宙域ごと吹き飛ぶ……!」

 

バナージが青ざめる。

 

リディが舌打ちした。

 

『最後まで面倒かよ……!』

 

だがアムロは冷静だった。

 

『ヘリオスを止めるしかない』

 

『だが通常攻撃じゃ間に合わん』

 

その時。

 

シンラはある感覚を覚える。

 

ヘリオス内部。

 

中心炉。

 

そこから微かに聞こえる“声”。

 

苦しみ。

 

悲鳴。

 

まるでサイコフレームそのものが暴走しているかのようだった。

 

「……助けを求めてる」

 

『シンラ?』

 

「ヘリオスのサイコフレームです」

 

「人の負の感情を流し込み続けられて、壊れかけてる……!」

 

アムロが目を見開く。

 

『まさか……』

 

シンラは静かに前へ出る。

 

「俺が行きます」

 

『駄目だ!』

 

アムロが即座に叫ぶ。

 

『今のお前は限界を超えてる!』

 

『それ以上サイコフレームと同調したら――』

 

「分かってます」

 

シンラは優しく笑った。

 

「でも、放っておけない」

 

その言葉に、誰も返せない。

 

バナージが震える声で言う。

 

『俺も行きます』

 

『ユニコーンなら――』

 

しかしシンラは首を振る。

 

「これは俺が始めた戦いです」

 

「だから最後まで、俺がやります」

 

その時。

 

リディが笑った。

 

『まったく……』

 

『ほんとお前らは自己犠牲好きだな』

 

バンシィが前へ出る。

 

『だが、一人で行かせる気はねぇ』

 

続いてユニコーン。

 

νガンダム。

 

三機がハイニューガンダム・レイの隣へ並ぶ。

 

アムロが静かに言う。

 

『忘れるな』

 

『ニュータイプは、一人で戦うものじゃない』

 

その瞬間。

 

四機のサイコフレームが共鳴を始める。

 

紫。

 

虹。

 

黄金。

 

白。

 

四つの光が宇宙で交差する。

 

ヘリオス中心部が赤黒く脈動する。

 

発射シークエンス再起動。

 

《照準設定》

 

《対象――地球》

 

バナージが叫ぶ。

 

『まずい!!』

 

ヘリオス砲門展開。

 

巨大な赤い閃光が地球へ向けられる。

 

もし発射されれば、地球圏そのものが消滅しかねない。

 

その瞬間。

 

シンラは静かに呟いた。

 

「皆の力を……貸してください」

 

ハイニューガンダム・レイの全身サイコフレームが最大発光。

 

紫色の光が宇宙全域へ広がる。

 

すると――。

 

地球。

 

コロニー。

 

艦隊。

 

あらゆる場所で微弱なサイコフレーム反応が共鳴を始める。

 

人々の意思。

 

願い。

 

祈り。

 

その全てが、光となって集まっていく。

 

アムロが目を細める。

 

『これが……人の可能性……』

 

バナージの瞳に涙が浮かぶ。

 

『こんなに……暖かい……』

 

リディは呆れたように笑った。

 

『ほんと、とんでもねぇな』

 

その時。

 

ヘリオス発射。

 

超巨大レーザーが宇宙を裂く。

 

だが。

 

四機は退かない。

 

νガンダムのフィン・ファンネル。

 

ユニコーンのサイコフィールド。

 

バンシィの共振波。

 

そして。

 

ハイニューガンダム・レイの全身サイコフレーム。

 

四つの光が重なる。

 

シンラが叫ぶ。

 

「人の心を!!」

 

「兵器になんかさせるかぁぁぁ!!」

 

宇宙が発光した。

 

紫色の巨大光輪が広がる。

 

レーザーが停止する。

 

いや――押し返されていた。

 

仮面の男が絶叫する。

 

『馬鹿な!!』

 

『人の意思が……こんな力を!!』

 

シンラは涙を流しながら叫ぶ。

 

「人は争う!」

 

「でも!」

 

「それでも誰かを想えるんだ!!」

 

その瞬間。

 

ヘリオス中心部が崩壊を始める。

 

赤黒い光が砕け、浄化されるように消えていく。

 

巨大兵器が静かに崩れていく中、ハイニューガンダム・レイのサイコフレームもまた、粒子化を始めていた。

 

バナージが叫ぶ。

 

『シンラさん!!』

 

リディも叫ぶ。

 

『戻れ!!』

 

だがシンラは穏やかに笑う。

 

「大丈夫です」

 

「皆がいるなら……未来は続く」

 

アムロが震える声を出す。

 

『シンラ……!』

 

その時だった。

 

ハイニューガンダム・レイから放たれた紫色の光が、宇宙全体へ広がる。

 

暖かい光。

 

優しい光。

 

まるで人の想いそのもののような輝き。

 

そして――。

 

ヘリオスは完全停止した。

 

静寂。

 

誰も言葉を発せない。

 

ただ宇宙には、無数の光粒子だけが漂っていた。

 

後に人々は、この事件をこう呼ぶ。

 

――“逆襲の残光”。

 

それは、人の心が兵器ではなく、未来を守る力になった日だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。