U.C.0096。
《ヘリオス事件》終結から、二週間後――。
地球圏は、静かな混乱の中にあった。
巨大兵器《ヘリオス》の崩壊。
そして戦場全域で確認された、謎の紫色の発光現象。
人々はそれを“奇跡”と呼び始めていた。
だが連邦政府は違った。
「危険だ」
「サイコフレームは、人類には早すぎる」
そう判断した地球連邦上層部は、全サイコフレーム関連技術の封印を決定。
アナハイム各施設への強制査察も開始されていた。
宇宙世紀は再び、“ニュータイプ”という存在を恐れ始めていたのだ。
――月面都市グラナダ。
アナハイム・エレクトロニクス極秘工廠。
格納庫には静寂が漂っていた。
そこには、一機の白紫の機体が眠っている。
ハイニューガンダム・レイ。
だが以前とは違う。
全身を覆っていたサイコフレームの輝きは、今はほとんど消えていた。
まるで長い眠りについているようだった。
その前へ、一人の男が立つ。
ヤマト・シンラ。
「……静かですね」
シンラは苦笑する。
戦いから二週間。
彼は奇跡的に生還した。
だが後遺症は大きかった。
極限までサイコフレームと同調した影響で、彼のニュータイプ能力は著しく低下していた。
以前のような強烈な感応は、もう感じられない。
医師たちは口を揃えた。
『生きているだけ奇跡です』
だがシンラは後悔していなかった。
あの時、確かに感じたのだ。
人の心は、兵器ではない。
誰かを想う力だと。
その時。
格納庫へ足音が響く。
「やっぱここにいたか」
振り返る。
そこには、
リディ・マーセナスが立っていた。
「見舞いならもう十分ですよ」
「誰が見舞いだ」
リディは呆れたように笑う。
「連邦が動き始めた」
その一言で、空気が変わる。
シンラの瞳が細くなる。
「……サイコフレーム狩りですか」
「ああ」
リディは壁へ寄りかかった。
「ヘリオス事件でビビったんだろうな」
「また同じことが起きるのを恐れてる」
実際、すでに各地でサイコフレーム搭載機の接収が始まっていた。
ユニコーンタイプの封印。
研究データの抹消。
ニュータイプ研究所の閉鎖。
それは“可能性”そのものを否定する動きだった。
シンラは静かにハイニューガンダム・レイを見る。
「人は……変われないんですかね」
その時だった。
別の声が響く。
「変わるさ」
ゆっくりと現れたのは、
アムロ・レイ。
シンラが目を見開く。
「アムロさん」
アムロはハイニューガンダム・レイを見上げる。
「時間はかかる」
「でも、人は少しずつ前に進む」
シンラは苦笑する。
「随分楽観的ですね」
「昔よりな」
アムロは笑った。
かつて、誰よりも人類へ失望しかけた男。
その彼が、今は未来を信じている。
その事実が、シンラには少し嬉しかった。
だが。
その瞬間。
基地全域へ警報が鳴り響いた。
《警告》
《所属不明機接近》
《高熱源反応多数》
リディが顔をしかめる。
「チッ、早すぎる!」
モニターへ映し出されたのは、黒い艦隊だった。
所属コードなし。
だが全員が理解した。
連邦正規軍ではない。
「強硬派か……!」
アナハイム技術者たちが青ざめる。
彼らの目的は一つ。
ハイニューガンダム・レイの破壊、あるいは接収。
通信回線が強制接続される。
『こちら地球連邦特務部隊』
『危険兵器ハイニューガンダム・レイを引き渡せ』
冷たい声。
その背後では、モビルスーツ部隊が展開されていく。
ジェスタ。
ジェガン。
さらにはサイコジャマー搭載機まで確認できる。
完全武装だった。
リディが舌打ちする。
「本気で来やがったな」
シンラは静かに目を閉じる。
戦争は終わっていない。
人はまだ恐れている。
可能性を。
理解し合うことを。
その時。
格納庫奥から足音が響く。
「だったら、見せればいい」
現れたのは、
バナージ・リンクス。
その背後には、
ユニコーンガンダム。
さらにリディも笑う。
「俺も出るぞ」
格納庫の別区画が開く。
そこには、
バンシィ。
そしてアムロが静かに言う。
「俺たちは、力を振りかざしたいわけじゃない」
「だが、守らなきゃいけない未来はある」
その言葉に、シンラはゆっくり頷く。
「……ですね」
彼はハイニューガンダム・レイへ歩き出す。
だが。
機体の前で立ち止まった。
以前のような強烈な共鳴がない。
サイコフレームは沈黙している。
技術主任が叫ぶ。
『駄目です!』
『もう機体出力が安定してません!』
『戦闘なんて無理です!』
シンラは静かにコックピットへ乗り込む。
「それでも行きます」
起動。
だが――。
反応なし。
コックピット内に沈黙が広がる。
リディが焦る。
「おい、動かねぇのか!?」
その時だった。
シンラは静かに機体へ触れる。
「……もう一度だけ」
「力を貸してくれ」
その瞬間。
微かに。
本当に微かに。
ハイニューガンダム・レイのサイコフレームが発光した。
紫色の淡い光。
まるで機体が応えるように。
アムロが目を細める。
「まだ終わっちゃいないか」
次の瞬間。
敵部隊が突撃を開始した。
無数のモビルスーツが月面基地へ迫る。
戦いが、再び始まる。
だが今度の敵は、宇宙人でも怪物でもない。
同じ人間だ。
シンラは静かに呟く。
「それでも――」
ハイニューガンダム・レイの瞳が発光する。
「俺は、人を信じたい」
紫色の光が、再び宇宙を照らした。