月面都市グラナダ――。
静寂だった基地に、無数の警報音が響き渡る。
《所属不明部隊接近》
《MS部隊、侵入予測ライン突破》
《第一防衛ライン損傷》
赤い警告表示が格納庫全域へ投影される。
アナハイム技術者たちの顔には、隠し切れない恐怖が浮かんでいた。
「連邦が……本気で来た……」
「サイコフレームを全部消す気だ……!」
外宇宙では、黒い艦隊がゆっくりと月面基地を包囲していた。
艦影は十数。
だが問題は数ではない。
展開されているモビルスーツ部隊――その全てが対ニュータイプ戦を前提とした特殊仕様機だった。
ジェスタ高機動仕様。
サイコジャマー搭載ジェガン。
さらにはニュータイプ感応阻害フィールド発生機まで確認されている。
完全な“狩り”だった。
格納庫で、
リディ・マーセナスが顔をしかめる。
「やり方が露骨すぎるだろ……」
その隣で、
バナージ・リンクスは静かにモニターを見つめていた。
「怖いんですよ」
「サイコフレームも……ニュータイプも」
リディが鼻を鳴らす。
「だからって武力で潰すのかよ」
その時。
通信回線が強制接続される。
『こちら地球連邦特務部隊司令、グレイヴス准将』
低い男の声。
モニターへ映し出されたのは、冷徹そうな壮年の軍人だった。
『繰り返す』
『危険兵器ハイニューガンダム・レイを引き渡せ』
『抵抗した場合、本施設を武力制圧する』
格納庫内がざわめく。
技術者の一人が叫ぶ。
「ふざけるな!」
「こっちはヘリオス事件を止めたんだぞ!」
だがグレイヴスは表情一つ変えない。
『だから危険なのだ』
『人の意思が兵器になるなど、あってはならない』
その言葉に、
ヤマト・シンラは静かに目を閉じた。
否定したいわけではない。
理解できるのだ。
ヘリオスで人々は見てしまった。
感情が世界を破壊しかける光景を。
だから恐れる。
人は、理解できないものを。
アムロが静かに前へ出る。
アムロ・レイ。
『一つ聞きたい』
『あんたたちは、何を恐れている?』
グレイヴスの眉が僅かに動く。
『……ニュータイプだ』
『人を超える力など、いずれ必ず暴走する』
『歴史が証明している』
アムロは静かに笑った。
「違うな」
『何?』
「恐れてるのは、“分かり合う可能性”だ」
空気が凍る。
グレイヴスの目が険しくなる。
『理想論だ』
『人類は分かり合えない』
『だから秩序が必要なのだ』
その瞬間。
通信が切断された。
同時に警報。
《敵MS部隊、侵攻開始》
月面が震える。
無数のモビルスーツが降下してくる。
その光景を見ながら、シンラは静かにハイニューガンダム・レイへ振り返った。
ハイニューガンダム・レイ。
だが以前のような圧倒的な共鳴はない。
サイコフレームの光も弱い。
技術主任が叫ぶ。
『本当に出る気か!?』
『今の機体じゃ出力が安定してない!』
『最悪、起動途中で停止するぞ!』
シンラはコックピットへ乗り込む。
「それでも行きます」
起動シークエンス開始。
だが反応は鈍い。
警告表示が並ぶ。
《サイコミュ同期率低下》
《フレーム出力不足》
《戦闘非推奨》
リディが通信を入れる。
『おい、大丈夫なのか!?』
シンラは苦笑した。
「正直、全然大丈夫じゃないです」
「でも――」
彼は静かに操縦桿を握る。
「逃げたくない」
その瞬間。
格納庫外壁が爆発した。
敵MS部隊侵入。
ジェスタ隊が一斉突撃してくる。
『制圧しろ!』
『サイコフレームを破壊するんだ!』
ビームが飛び交う。
格納庫が爆炎に包まれる。
だが次の瞬間。
白い機体が飛び出した。
ユニコーンガンダム。
虹色のサイコフレームが輝き、敵ビームを弾き飛ばす。
『やらせない!!』
バナージが叫ぶ。
続いて黒き獅子。
バンシィ。
リディが笑う。
『来いよ!』
『相手してやる!』
さらに。
白いモビルスーツが静かに前へ出る。
νガンダム。
アムロのフィン・ファンネルが展開される。
『シンラ、準備を急げ』
『ここは俺たちが抑える』
「……ありがとうございます」
外では激戦が始まっていた。
ユニコーンがサイコフィールドを展開。
敵部隊のサイコジャマーを無効化していく。
バンシィが高機動戦を仕掛け、敵陣を切り裂く。
νガンダムは冷静に敵隊長機を撃破していく。
だが敵も精鋭だった。
『対象はユニコーン!』
『集中攻撃!』
大量のワイヤービットが展開される。
感応阻害ネット。
ユニコーンの動きが鈍る。
バナージが呻く。
『ぐっ……!』
その隙を狙い、敵ジェスタが突撃。
だが。
紫色の閃光が走った。
敵機がまとめて吹き飛ぶ。
全員が振り返る。
格納庫から、ゆっくりと歩き出す機体。
ハイニューガンダム・レイ。
だが以前とは違う。
光が弱い。
発光は不安定。
まるで今にも消えそうだった。
リディが目を見開く。
『そんな状態で出てきたのかよ……!』
シンラは静かに答える。
「まだ……動けます」
その瞬間。
敵部隊全体へ奇妙な動揺が走る。
『あれが……』
『ヘリオスを止めた機体……!』
恐怖。
警戒。
敵兵たちの感情が伝わってくる。
だがシンラは武器を構えなかった。
ハイニューガンダム・レイは、ただ静かに前へ出る。
グレイヴスから通信。
『何故武器を向けない?』
シンラは静かに答える。
「あなたたちと戦いたくないからです」
『……何?』
「俺たちは敵じゃない」
「怖かったのは分かります」
「でも、力を消しても、人は変われない」
グレイヴスが怒鳴る。
『黙れ!!』
『理想論で世界が守れるか!!』
その瞬間。
敵艦隊から巨大砲門が展開された。
「なっ……!」
リディが驚愕する。
対拠点殲滅砲。
基地ごと消し飛ばす気だ。
グレイヴスは冷酷に告げる。
『危険因子は、ここで消す』
発射シークエンス開始。
バナージが叫ぶ。
『まずい!!』
だが。
シンラは静かだった。
「……やっぱり」
「人は簡単には変われないか」
ハイニューガンダム・レイのサイコフレームが微かに発光する。
それは以前のような圧倒的な光ではない。
弱々しい光。
だが優しい光だった。
「それでも――」
シンラは前を向く。
「信じたいんです」
その瞬間。
紫色の光が、静かに宇宙へ広がっていった――。