月面都市グラナダ宙域――。
宇宙は、静かに震えていた。
地球連邦特務部隊が展開した対拠点殲滅砲。
その巨大砲門は、アナハイム極秘工廠を完全に照準へ捉えている。
もし撃たれれば。
基地は消滅する。
中にいる技術者たちも。
未回収の民間人も。
全て。
「くそっ……!」
リディ・マーセナスが歯を食いしばる。
バンシィが前へ出ようとする。
だが敵部隊が立ちはだかる。
ジェスタ隊。
対ニュータイプ装備機。
さらに感応阻害フィールドが展開され、サイコミュ兵器の精度が落ち始めていた。
『リディさん! 前に出すぎです!』
バナージ・リンクスが叫ぶ。
虹色に発光する
ユニコーンガンダムが、敵部隊を押し返していく。
だが押し切れない。
敵は完全に“対ニュータイプ戦”を研究してきていた。
『サイコジャマー最大出力!』
『ユニコーンを封じろ!』
空間へ特殊粒子が散布される。
ユニコーンのサイコフレームが不安定に明滅した。
『ぐっ……!』
バナージの視界が歪む。
感応が乱されている。
一方で、
νガンダムは冷静だった。
アムロが次々と敵機を撃墜していく。
だが、その表情は険しい。
「時間がない……!」
対拠点殲滅砲のエネルギー充填率が上昇していく。
70%。
82%。
91%。
その時だった。
静かに前へ出る機体があった。
ハイニューガンダム・レイ。
だが、その光は弱い。
以前のような圧倒的な発光ではない。
サイコフレームは微弱な明滅を繰り返していた。
コックピット内で、
ヤマト・シンラは静かに息を吐く。
身体が重い。
感応能力も大きく低下している。
機体出力も不安定。
本来なら戦える状態ではない。
それでも。
「……まだ終われない」
シンラは前を向く。
通信回線が開く。
『最終警告だ』
グレイヴス准将の冷たい声。
『ハイニューガンダム・レイを放棄しろ』
『従わない場合、砲撃を開始する』
シンラは静かに答える。
「あなたたちは、何がそんなに怖いんですか」
沈黙。
グレイヴスは低く答える。
『力だ』
『人を超えた力は、必ず人を破滅させる』
「でも、人はその力で救われた」
『一時的にな』
グレイヴスの声には怒りが混じっていた。
『アクシズ・ショックも、ラプラス事変も、ヘリオス事件も!』
『奇跡など、人類に制御できるものではない!』
シンラは静かに目を閉じる。
その言葉も理解できた。
サイコフレームは危険だ。
人の感情を増幅する力。
一歩間違えば世界を滅ぼす。
だが――。
「それでも」
シンラはゆっくり目を開く。
「人は、誰かを想える」
その瞬間。
ハイニューガンダム・レイのサイコフレームが淡く発光した。
紫色の光。
暖かく、優しい光。
それは戦場全域へ静かに広がっていく。
敵兵たちが息を呑む。
『なんだ……この感覚……』
『怖く……ない……?』
怒りが薄れていく。
殺意が消えていく。
まるで誰かに優しく抱きしめられているような感覚。
グレイヴスが険しい声を出す。
『精神干渉か!?』
「違います」
シンラは静かに答える。
「これは“共感”です」
その時だった。
ハイニューガンダム・レイのコックピットへ、無数の感情が流れ込んでくる。
敵兵の恐怖。
失いたくない家族。
守りたい日常。
彼らもまた、戦いたいわけではない。
ただ恐れているだけなのだ。
シンラは苦しそうに顔を歪める。
「っ……!」
負荷が大きい。
今の彼には重すぎる。
警告表示が鳴り響く。
《サイコミュ限界》
《精神負荷危険領域》
《強制解除推奨》
アムロが叫ぶ。
『シンラ! やめろ!』
『今のお前じゃ耐えられない!』
だがシンラは止まらない。
「逃げたくないんです……!」
紫色の光がさらに広がる。
その時だった。
戦場の奥。
一人の敵パイロットが、ゆっくり武器を下ろした。
『……俺は』
『何のために戦ってるんだ……?』
それをきっかけに、次々と敵兵たちが動きを止めていく。
殺意が消えていく。
困惑。
戸惑い。
そして理解。
グレイヴスが怒鳴る。
『何をしている!!』
『撃て!!』
だが誰も撃てない。
その瞬間。
対拠点殲滅砲が臨界へ達した。
《発射シークエンス開始》
リディが絶叫する。
『まずい!!』
グレイヴスも顔色を変える。
『止めろ!』
だが遅い。
制御不能。
暴走。
巨大砲門が赤熱化を始める。
アムロが叫ぶ。
『砲そのものが暴走してる!』
『このままじゃ艦隊ごと吹き飛ぶぞ!』
グレイヴスが絶句する。
『そんな……』
自分たちの兵器が、自分たちを滅ぼそうとしていた。
その時。
シンラは静かに前へ出る。
「俺が止めます」
リディが叫ぶ。
『馬鹿! 今のお前じゃ!』
「大丈夫です」
シンラは穏やかに笑った。
「一人じゃないから」
その瞬間。
虹色の光。
黄金の光。
白い光。
ユニコーン。
バンシィ。
νガンダム。
三機のサイコフレームが共鳴する。
さらに。
敵部隊の中からも、微弱な感応波が生まれ始める。
“止めたい”。
その意思。
人々の願いが、紫色の光へ集まっていく。
シンラは涙を流しながら呟く。
「そうだ……」
「人は分かり合える……!」
ハイニューガンダム・レイが加速する。
対拠点殲滅砲へ一直線に突撃。
暴走するエネルギーが宇宙を焼く。
普通なら蒸発する。
だが。
紫色の光が、砲撃そのものを包み込んだ。
シンラが叫ぶ。
「止まれぇぇぇぇぇぇっ!!」
宇宙が発光する。
巨大な紫色の光輪が広がる。
暴走エネルギーが静かに分解されていく。
怒りが。
恐怖が。
憎しみが。
まるで浄化されるように消えていく。
グレイヴスは呆然と呟いた。
『これが……ニュータイプ……』
アムロは静かに答える。
「違う」
「これは、人の意志だ」
その瞬間。
対拠点殲滅砲は完全停止した。
戦場に静寂が訪れる。
誰も動けない。
ただ、紫色の光だけが宇宙を照らしていた。
そして。
ハイニューガンダム・レイのサイコフレームが、静かに砕け始める。
「シンラ!!」
バナージが叫ぶ。
だがシンラは穏やかに笑っていた。
「大丈夫……」
「これでいいんです」
紫色の粒子が宇宙へ溶けていく。
まるで星屑のように。
そして誰もが見ていた。
その光が、確かに“希望”だったことを。