「では今日は、これで終わります」
『ありがとうございました』
ここ北宇治高校に大きな話が振ってきた。
京都駅で行われる駅ビルコンサートに北宇治高校吹奏楽部は招待をされたのだ。
「これって僕と高野も演奏するんですか?」
ちょっとした休憩の時間に、疑問に思った事を鳥塚先輩に聞くと
「うん、もちろん」
先輩からはそう返ってきた。
鳥塚先輩と一緒に吹く事はないと思っていたが、先輩と一緒に吹ける機会がやってきた。コンクールで吹けなかった僕にとっても高野にとっても嬉しい機会であるのは間違いない。
「良かったね」
高野に、植田がそう話しているのが聞こえた。
高野は感動のあまり涙を浮かべていた。
「鳥塚先輩ー私、一緒に吹けて良かったですぅぅぅ……!!」
「あはは…高野さん、落ち着いてね…」
取り乱す高野に、鳥塚先輩はあやしていた。
なんだかんだで、先輩に対して思いを持っていたのは高野だったので、こうなるのは想定内だった。
「あと、まだ秘密ですが、駅ビルコンサートには清良女子高校も出演します」
「ウソ…」
清良女子……福岡にある吹奏楽の全国常連の強豪校の筈。
そんな所からも来るんだ…へぇ……上手い高校から何か盗めないかなと考えていた。
「可愛い女の子とかいるのかな?」
「なんでそれを僕に聞くんですか…」
耳元で囁く様に聞いてきた鳥塚先輩。
臼井先輩が言うならまだしも…なんで鳥塚先輩が言うんだ。
「ちぇっ…浩輔君はつまらないね」
「なんでですか…」
先輩の対応に困惑した。
つまらないとか関係ないでしょと思った。
パート教室に戻り、帰り支度をしていると臼井先輩に声を掛けられた。
「工藤、何か考え事か?」
「強豪校が来るって聞いて是非とも演奏を聴きたいなって思いまして」
「あーそれ分かるな」
僕の言葉を聞いて、臼井先輩はそう返してきた。
先輩も意識している事が分かる。
「で、本題なんだけど…」
先輩は耳元で小さくそう呟いてきた。
「分かってますよ…帰った後ですよね?」
「うん」
「了解ですよ」
この教室には、高久と加瀬先輩、鳥塚先輩が居る。
すると、こちらの様子に気付いた鳥塚先輩が声を掛けてきた。
「男子二人で何の話してるの」
「な、何も話してないよな」
「えっ、は、はい」
明らかに、何かを隠していると思われかねない対応ではあるが、臼井先輩に乗っかる。鳥塚先輩は、明らかにこちらの事を疑っていた。
「まぁ、いいや。駅ビルコンサート頑張ろうね」
「それはもちろんですっ!」
鳥塚先輩は、「鍵閉めよろしくね」とだけを僕らに伝えて、教室を後にして、加瀬先輩と高久も続く様に帰っていった。
そして残ったのは僕と臼井先輩だけに…
「それで…恋愛相談でしたっけ…」
「うん」
実はというと、臼井先輩に恋愛相談を持ち掛けられたのだ。
なんでも鳥塚先輩の事が好きなんだとか。
「そこに座ってください」
机を一つ挟んで、互いに椅子に座る。
「鳥塚先輩は、そのまま気持ち言った方が良いと思うんです僕は」
「そうは言ってもさ…」
「分かりますけど…じゃあ、全国のコンクール終わった後に告白したらいいんじゃないですか」
「いきなりそんな…!」
「思った時に即行動!すぐ判断ですっ!」
野球部時代の教訓を臼井先輩にぶつける事にした。
臼井先輩、引いてるんだもん。逆に当たって砕けろだと思うんだ
「それで上手くいくものなのか…」
「知りません」
「おい…」
だって事実だし…鳥塚先輩が幼馴染とかならまだしも、先輩と会って半年だもん。
臼井先輩の方がよく知ってるはずでしょうに…
「ともあれ、告白するタイミングは先輩次第なんじゃないですか」
「そうだけどよ…」
「早めに告白しないと取られるかもですよ。香織先輩、晴香先輩が居るんで目立ってないですけど、先輩も人気らしいんで」
これは事実。
吹部以外の男子にも聞いたのが、香織先輩と晴香先輩の名前は上がっていた。後は…鳥塚先輩、姫神先輩に麗奈とか……って何の話をしているんだろう……
「分かってるよ…」
先輩の恋愛相談に乗った次の日、事件が起きた。
「あすか先輩が退部!?」
「うん、昨日、先輩のお母さんがやってきて、教頭先生、滝先生と言い合ってたんだって」
「それはまた、大きな事件な事で…」
秋子から、とんでもない事を聞かされた。
久美子は、その現場を見ていたらしく、先輩のお母さんが先輩に手を出す所も見てしまったらしい。
久美子に精神的ダメージが行ってなければいいんだけど。
その事件の話は瞬く間に広まり吹奏楽部にも動揺が広がっていった。
気になった僕は、久美子に声を掛けて、一緒に居た麗奈と帰る事になった。
「それであすか先輩は本当に辞めるの?」
「辞めないでしょ…」
あの先輩が辞めるなんて思わないが
「わかんない…でも、何であんなに言ってくるんだろ…」
「あすか先輩のお母さん?」
「うん」
「部活なんて親が決めるもんじゃないし、受験だって進路だって、最終的には自分で決めるものなのにね」
「自分の子供が心配っていうのはあるんだろうけど…」
麗奈と久美子の話を聞いて、僕が思っている事を話す。
「そっちの方が強いと思うけど…他に理由がありそうだよね」
「例えば…?」
「例えば…か……」
麗奈に聞かれて、答えようとするけどパッとは浮かんでこなかったが、
「あるとしたらトラウマとか苦手とか…」
「トラウマ?」
「そう、お母さんがトラウマを持ってるとかね」
「あり得ないでしょ…」
「だから例えばって言ってるのに…」
例えの話に、正論をかましてこないで…麗奈よ
「どうかした?」
「ううん…」
「でも、あすか先輩って、どうして部活続けてるんだろ?3年生で受験もあって、お母さんにまで反対されているんでしょ?」
「部活が好きだから…?」
「そう?あの先輩とてもそんなふうには見えなかったけど、どちらかと言うと、自分が吹ければいいみたいな感じだったし…」
「麗奈じゃん…」
「浩輔?」
「ごめん…」
「あすか先輩は分からないよ…」
「まぁ…時間が解決してくれるを待つしか無さそう…」
だからといって、僕らに何かが出来る訳でもない。こればかりは時間が解決してくれる事を願うしか出来ない。
「そうだね…」