駅ビルコンサートの日がやってきた。
イベントするには持ってこいと言わんばかりの雲ひとつない青空が広がっていた。
「いよいよだねー」
「どうなるかと思っていたけど、なんとかなりそうで良かった」
「私もみんなの前で吹くのは初めてだから、緊張する…」
演奏前の待機時間、秋子と誓の二人と話をする。
秋子にとっては、大きなステージで演奏するのは初めてだからこっちまで緊張が伝わってくる。僕も同じくステージに立つのは初めてだが……緊張していないのは、野球から経験なんだろうなと自己完結する。
「秋子、それは僕も同じ気持ちだよ」
僕が秋子にそう話すと、彼女はホッとした表情を浮かべていた。
これでちょっと緊張がほぐれてくれればと思う。
「ともあれ、晴れて良かったよ」
「それはそう」
「うん」
二人とそう話していると、会場がざわめき出した。
ざわめいている方を見ると納得した。そこには_
「清良女子だ…」
「流石、常連校…」
「私たちと違うね」
「うん…」
二人が言うように、清良女子の部員達は歩いているだけで様になっていた。
これが全国常連校の高校か……姿を見せるだけで会場の雰囲気まで変えてしまった。
「私たちも全国だよ」
そんな僕達を見て、晴香先輩が声を掛けてきた。
あの日から、先輩は大きく変わった気がした。率直に言えば部長らしくなったとも言える。
「ですね。気持ちで負けたらだめですよね」
「そうそう」
晴香先輩は、僕達にそれだけ言って香織先輩達の方に向かっていった。
「晴香先輩って良い人だよね」
「浩輔君も気付いちゃった?」
同じパートで、僕よりも接する時間が多い誓は、晴香先輩の魅力にとっくに気づいてる筈。
「うん、部長はあの人で良かったよ僕は」
晴香先輩は、魅力に溢れている人だよ。
「そのとおり!!」
『!?』
いきなり声が聞こえてきたかと思って、誓と振り向くと、そこにはあすか先輩が居た。
「あすか!?」
いきなりの登場に、香織先輩も驚いていた。
「何よーオバケ見るような顔して」
「あすか先輩…」
「来れたんだね」
「言ったでしょー迷惑はかけないって」
あすか先輩がそう話す間にも、低音パートを中心に先輩の元に集まっていく。
「あすか、私ソロ吹くことになったから、しっかり支えてね」
「もちろん」
その後、僕達は『宝島』を演奏して、駅ビルコンサートは無事に終了した。
晴香先輩のソロはかっこよかった事をこの場で言わせてもらう。
「では、本日は解散となりますが__」
楽器をトラックに詰め込んで、滝先生の言葉を皮切りにこのまま街の中に消えて行く者、他の高校の演奏を聴く者、それぞれに散っていく。
清良女子の演奏を聴きたいと思ったが、既に終わっていたので聞けなかった。それだけは残念だった。ならば、僕がする事は、
「臼井先輩、今こそ鳥塚先輩を誘うチャンスですよ」
臼井先輩の助けをする事。
鳥塚先輩がこのまま市内に行く事は知っていたので臼井先輩にそうアドバイスを送る。
「えっ!?今!?」
先輩は驚いていた。
鳥塚先輩は、僕と臼井先輩のちょっと先に居た。
「丁度、一人みたいですし声を掛けるべきですよ」
「お、おう…そうだな…ちょっと行ってくる」
「はい、頑張ってください」
僕は、臼井先輩を応援して、先輩の事を見る。
しばらくして、先輩は鳥塚先輩と二人で歩き出したので、こちらの作戦も成功に終わっていた。
「そのままくっ付いてくださいな先輩方」
先輩方が見えなくなるまで見て、僕は駅の方へと戻っていく。
「どこに行ってたの」
戻ると、声を掛けてきたのは麗奈だった。
「先輩達のフォロー…かな?」
「何それ」
僕の言葉を聞いて、理解できていない麗奈はそう返してきた。
「麗奈には分かんないよ」
「何それムカつく」
「あははは」
頬を膨らませて言う麗奈を見て笑う僕なのであった。
「麗奈も…久美子と一緒に回りなよ」
「浩輔は?」
「用事を済まして、宇治に帰るよ」
「そう…」
その時の麗奈の表情はちょっと寂しそうにしていた。
僕がやってきたのはデパート。
普段お世話になってる先輩方や麗奈、久美子達へのプレゼントを買いに来たのだ。
だからこそ、麗奈が一緒だとまずかったんだけど、良かった。
みんなへのプレゼントを買って、駅の方に向かっていると目の前からやってきた女性とぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい」
女性がすぐに謝ってきたので、僕もすぐさま彼女に謝る。
「こちらもすみません…怪我とかありませんか…」
「大丈夫ですよ」
その時、気付いたがその女性は清良女子の制服を着ていた。
「清良女子…」
「えっ?」
僕の呟きに彼女はそんな反応をしていた。
「あっ、すみません…」
「もしかして吹奏楽部好きなんですか?」
「えっと…好きっていうか…僕も吹奏楽部だから…」
僕が彼女にそう言うと、彼女のテンションが高くなったのが分かる。
「もしかして!今日のコンサート出てたの!?」
「うん、北宇治っていう所なんだけど知ってるかな?」
清良女子の彼女が知っているかはさておいて、気になったので彼女にそう聞いてみる事にした。
「知ってるよー秀塔大学附属を倒してきた所だから」
「あっ…なるほどね」
僕の反応を見て、彼女は「ごめんね気を悪くさせちゃったら」と言ってくれたが、全然気にならない。
「じゃあ、全国でも会えるかもね」
「うん、順番次第だけどね」
「あーそうだね…」
全国は、確か午前の部、午後の部とあったはずだ。
別れたらどちみち会えない。
「キミって面白いね」
「そう?言われた事あんまりないんだけど」
「それは嘘だよ~」
彼女はそう言っていた、何故か嫌な気持ちにならない。
これが彼女が持ってる物なんだろうか。
「そうだ、せっかくだから名前聞いてもいい?」
「僕の名前?」
「うん」
「僕は、北宇治の一年生の工藤浩輔」
「浩輔君、うん良い名前だね。そして同級生だね」
「そうだったの!?」
「うん」
びっくりだった。大人の女性だと思っていたので、てっきり三年生だと思っていた。
そして、僕に向かって彼女は自分の名前を告げた。
「私は、黒江真由です」
「黒江さんも良い名前だね」
彼女の名前を聞いて、僕はそう返した。
「そんな事ないよ〜じゃあさ、お近くの印に、私のこと真由ちゃんで呼んで」
「えっ…?いいの?出会ったばっかりなのに」
「うん。浩輔君とはまたどこかで会える気がするから」
「そっか、じゃあ真由ちゃんって呼ぶね」
「うん」
その後、彼女とは互いの吹奏楽部の話をして。
「あっ…私、そろそろ行かないと」
「分かった。今日は話が出来て良かった」
「私も、そうだ」
彼女は何かを思い出したのように、携帯を操作して
「これ、私の連絡先」
と言って、連絡先を書いた紙を渡してきた。
「うん、また連絡するよ」
僕がそう言うと、彼女は、僕に手を振って僕の前から立ち去っていった。
「真由ちゃんか…また会えるといいな」
そう呟いた言葉は、現実となるが、この時の僕はまだ知らなかった。
まさかのまさかの…です。
真由ちゃんは最初からこの回で出すつもりではいました。
まぁ、今となって出来る展開ですよねと。今後は度々出せたらと思います。以上閉廷ー