-翌日-
音楽室に来ると、久美子に説明された通りに動く。
「部活前の机の運び出しは一年生の役割なの。終わったらまた元に戻す。吹奏楽部の基本だよ。ねっみどりちゃん」
「聖女は専用のホールがあったのでやったことないです」
「さすがお嬢様学校だね」
やっぱり、そういう所は専用の場所があるんだ。
言われてみれば、野球も強豪校は専用のグラウンドがあるからね。
「ま、身体を動かしますかねー」
そう言いながら音楽室を入ろうとしたら
『あっ』
机を持った麗奈とぶつかりそうになった。
「ごめんごめん麗奈。邪魔しちゃって」
僕は麗奈に謝りながら、麗奈の前を開ける。
「ううん、大丈夫」
麗奈はそう言って、机を運んでいった。
代わりに持った方が良かったんだろうか。
「高野さん、それ貰うよ」
「工藤君、ありがとう助かる」
その後もせっせと机の運び出しを行い、大方準備が整った。
「おや?準備できましたか?」
そう声を掛けてきたのは、眼鏡を掛けた男性の先生だった。
「始めまして。顧問の滝です。よろしく」
「はいっ!よろしくお願いします!」
「良い返事ですね」
「ありがとうございます」
吹奏楽部顧問の先生だった。
そういえば、松本先生が今日来るって言ってたわ。
「新入部員が23名ですか。これで欠けていた楽器も埋まりますね」
「はい。コントラバスは聖女でやっていた子が入部してくれました」
「それは良かった。では部活を始めるに当たって、最初に私から話があります。私は生徒の自主性を重んじるというのをモットーにしています。ですので、今年一年指導していくにあたって」
先生が黒板に何かを書いていく。
その時、キーーと人類の天敵である黒板を引っ掻く音がした。
「おおっと失礼。まず皆さんで今年の目標を決めてほしいのです。これが昨年度の皆さんの目標でしたよね」
黒板には綺麗な文字で『全国大会出場』と書かれていた。
「頑張ってはいるんだけどねー」
先輩からそんな声が聞こえてきた。
「あの、先生。それは目標と言うか、スローガンみたいなもので」
「なるほど、ではこれは無かったことにしましょう」
先生はそう言って、『全国大会出場』に×を上から書いた。
「では決めてください。私はそれに従います」
「決めるって言うのは?」
「そのままの意味ですよ。皆さんが全国を目指したいと決めたら練習も厳しくなります。反対に楽しい思い出を作るだけで十分というなら、ハードな練習は必要ありません。私自身はどちらでもいいと考えていますので、自分達の意思で決めてください」
この先生…自分の意思で動くのではなく、生徒に決めさせるタイプの先生か。
悪くはないね。うんうん。しかし…この場でいきなり決めろというのは、またハードな事をしたもんだ。
「私たちで決めるんですか?」
「そういったつもりですが」
小笠原先輩は困惑の表情を浮かべていた。
無理もない。
「分かった。私、書記やるから多数決で決めよ」
「多数決?」
「こんだけ人数が居て他に決めようないじゃない?いいですよね、先生」
あすか先輩の言う通り、こんだけ人が居たら一人ずつに聞いていくなんて事は出来ないに等しい。
ならば多数決が正解かもしれない。
「どうぞ。みなさんの納得の行くようにしていただければ」
先生は、あすか先輩の意見に賛同した。
「じゃあ、それでは多数決で決めたいと思います。えーと、まず、全国大会出場を今年の目標にしたいという人」
小笠原先輩がそう聞くと、あちらこちらから手が上がり、大半以上が手を挙げたと思う。
もちろん僕も手を挙げた。理由なんてやるからにはなぁなぁで終わらせたくはない。やるなら一番いい形で終わりたいから。
「では次に、全国まで目指さなくていいと思う人」
小笠原先輩がそう聞くと、葵さんが手を挙げていた。
葵さんは…受験とかあるし無理もないか…
「はい多数決の結果、全国大会を目標に活動していくことになります」
「ご苦労様。反対の人もいましたが、今決めた目標は皆さん自身が決めたことです。私はその目標に向かって力を尽くしますが、努力するのは皆さん自身。そのことを忘れないでください。わかりましたか?」
先生にそう聞かれ、返事を僕は返した。
『はい」
うん…僕と麗奈しか返してないな…
「何をぼーっとしているのです。返事は?」
『はい』
さっきよりは増えた。しかし…先生は手を叩く。
それにびくっとする僕達。
「もう一度いいます。みなさんわかりましたか?」
『はい!』
今度こそは部員みんなから返事の声が上がった。
******
「基本は挨拶からって言いますし」
「それは分かるけどっ!だとしても!いきなりあそこで全国かそうじゃないかって聞く!?普通!?」
「先輩…荒れてますねぇ…」
あの後、パート練習になり、僕はクラリネットのパートリーダーである鳥塚ヒロネ先輩と話していた。
「まぁまぁ…ヒロネ先輩…工藤君困ってますからほどほどに…」
島先輩はあわあわとしながらも鳥塚先輩を必死に慰めてくれようとしてる。
「むぅ…私の機嫌は治りそうにない…」
「えっと…?」
島先輩まで困惑してしまった。
と言いますか…鳥塚先輩と会ったの昨日が初めてなのになんでこんなに優しくしてくれるんだろう…
「鳥塚先輩」
「うん、何か良い案でも思いついた?」
「いや…そうじゃなくて…なんで昨日会ったばかりなのに、僕とこんな話してくれるんです?」
「う~ん…工藤君って有名人じゃない?北中の精密機械だっけ?なんか凄いピッチャーが居るって聞いた事があってさ」
「あーそんな異名で呼ばれていた事もありましたねー」
今となっては過去の話だけども。
「でしょでしょ!名前だけは知ってたの。顔は知らなかったんだけど。それで昨日。自己紹介をしてもらったじゃん」
「はいはい」
「その時にピーンって来ちゃってさ。家帰った後に調べたら、ビンゴだった訳」
「ふむふむ………えっ、それだけ…?」
「後、私が個人的に気に入ったっていうのもあるかも」
鳥塚先輩がそう言うと、今度は島先輩が慌てだす。
「ちょっと先輩っ!工藤君の事、教えたの私ですよね!なんで気に入ってるんですか!」
「元々有名人で、昨日の練習でも上手だった。これは…お近づきになっておいた方が良さそうと思ったからだよっ!」
人差し指を立てて言う鳥塚先輩。可愛い。
「な、なるほど…?」
その時、下校の予鈴が鳴った。
「そろそろ帰らないとですね」
「もうそんな時間。工藤君、この後時間ある?」
「まぁ…時間はありますけど…」
「良かった。ここに居るみんなで歓迎会でもやろうかなってね」
「あーなるほどー!」
「そういう事だからよろしくね」
「はいっ!」
こういった事もあったのではないのかなと思って書いてみました。
次回もまたよろしくお願いします。