宇治市外なのかな。
西中と北中はないだろうし。
東中か南中?なんですかね。
次の朝、起きると既に梓は居なくなっていた。
母さんに聞くと、学校に向かったとのことだった。
重たい身体を起こし、朝ごはんを食べて、すぐさま学校に向かった。
「おはよーございますー」
「おはよう」
音楽室に向かうと、部長である小笠原先輩が居た。
「工藤君、来るの早いね」
「名前覚えるの早くないですか?部長」
「うん、記録力には自信あるし、それにヒロネがね。ずっと話題にしてたから」
「あーなるほど」
鳥塚先輩、あの後、三年生達に何かを言ったんだろうなとこの時思った。
それから、吹奏楽部員達がちょっとずつ集まってきて、音楽室の椅子運び、机運びを毎日のように行う。
「こんにちはー」
「こんにちはー」
「あ、そこ椅子置くところ違うよ!」
「す、すみません」
こういう事も起こる事もあった。
滝先生が、合奏できるクオリティーになったら呼んで欲しいと言い、『海兵隊』を練習曲として出してきたのだ。
-クラリネットパート教室-
「なんなの…!あの先生!海兵隊とか初級の曲じゃん!」
「荒れてますね…先輩…」
他のパートは分からないが、絶賛鳥塚先輩ご乱心であった。
先輩と会って、一週間経ってないのに、先輩の愚痴をずっと聞いてるような気がする。
「ヒロネ先輩」
「うん?」
「海兵隊でサンフェスに出るつもりなんですかね?」
島先輩は鳥塚先輩にそう聞く。
「う~ん…私にも分からない」
「違うとしたら早めに決めないと間に合わないのでは…」
「そうなんだけど…」
島先輩の言葉に、鳥塚先輩はなんとも歯切れの悪い返答だった。
そんな先輩に僕は思った事を伝える。
「もしかしたらですけど…合奏の時に上手に出来なければサンフェスに出ないと言いそうですよ」
『!?』
僕がそう呟いた言葉に、先輩2人はハッとした表情を浮かべたが、すぐにいつもの表情に戻り。
「そんな訳ないよ…ね~」
「そ、そうですよ~去年も出ましたしねー」
先輩方…声が震えてますよ…だって滝先生。言いそうだもん。
中学の時の野球部の顧問となんか雰囲気似てるし…だからといって、それを先輩達に言っても仕方ない話ではある。
因みにサンフェスとは、サンライズフェスティバルの略称である。
五月の初めに各校の吹奏楽部が行進して演奏するイベントである。
なんで知ってるかは、久美子と梓の影響だけれども。
それから数日後。毎日海兵隊練習してもしょうがないって先輩が言った事により、滝先生に来てもらって演奏を行う事になった。
-音楽室-
「いい? 先生、よろしくお願いします」
「ではみなさんよろしいですか? 今日が初めてになりますね。宜しくお願いします。では最初から一度通してやってみましょうか。さん しっ」
滝先生の言葉に合わせて、演奏を始めたが_テンポも合ってなければ音も外れていた。
その為、滝先生は演奏を途中で止めた。
「なんですか?これ。部長、私言いましたよね。合奏できるクオリティーになったら集まってくださいって」
「はい」
「その結果がこれですか?」
「あっ……すみません」
部長が悪い訳ではないが、トップをしている以上、責任はトップに向かってしまうものだ。
「みなさん。合奏ってなんだと思います? 塚本君、どう思います?」
秀一に飛び火が飛んだ。
「あ、はい。えーと、それはその。みんなで音を合わせて演奏する」
秀一はそう答えた。
「そうですね。しかし各パートあまりに欠陥が多すぎてこれでは合奏になりません。みなさんパート練習やってたんですか?」
僕が言える立場ではないが、練習をしていれば吹けるらしい。
初心者はまだしも。
そんな滝先生にトロンボーンパートリーダーの野口先輩が『やっていた』と答えた。
しかし、先生は見抜いていたのか、彼らにメトロノームに合わせて吹くように言い、案の定。全員バラバラだった。
「はい、そこまで。 みなさんこの演奏を聞いてどう思いました?」
先生は僕達にそう聞いて来た。
答えなんて決まっているのに。もちろん、みんながみんな良くない方に手を挙げた。
「私はトロンボーンだけじゃなく、他のパートも同じだと思いました。パート単体でも聞くに耐えないものばかりだと。でもそれでは困るのです。あなた達は全国に行くと決めたんです。だったら最低基準の演奏はパート練習の間にクリアしておいてもらいたい。この演奏では指導以前の問題です。私の時間を無駄にしないでいただきたい」
随分とはっきりと言ってきたものだ。
でも、大正論なので何も言い返せないのだ。言い返す気もないが。
「今日はこれまでにして、来週の水曜に再度合奏の時間を取ります。以上です」
滝先生はそう言って、音楽室から立ち去ろうとした時、中世古先輩が呼び止めた。
「サンライズフェスティバルの曲は?」
「あなた達はそういうことを気にするレベルにはありません。来週まともなレベルになってなかったら参加しなくていいと私は思っています。失礼」
滝先生の言葉に、音楽室に異質な空気が流れる。
あまりにも衝撃発言だった。
*******
「工藤君は、滝先生のやり方ってどう思う?」
帰り道。植田さんに一緒に帰ろうと誘われて、帰っている最中に、彼女からそう聞かれた。
「僕は、滝先生みたい先生の元で野球やってたからなんとも」
「そうだったー!聞く人間違えたー!!高野さんはどう思う」
これに関しては聞く人を間違えたと思う。
植田さんは、隣に居た高野さんに話題を振った。
「ええっ!?私っ!?」
「なんでそんなに驚く必要があるの」
「だって…私、初心者だし…でも、サンフェスに出ないって言うのはどうかと思う」
「高野さんの意見に同意」
「じゃあさ!明日、鳥塚先輩に言おうよ!」
「…何を?」
「サンフェスに出たいですって!」
「分かるけど…」
植田さんの意見も分かる。
そして、次の日。
「パートリーダー会議が終わるまでは練習は休みにすることになって、本当にごめん」
部長による言葉によって、暗雲が漂うのだった。