MF……GODの継承者   作:紅乃 晴@小説アカ

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MFゴーストの小説が少なかったのでカッとしてやりました。
面白かったらお気に入りお願いします。


◾️ プロローグ

 

 

202X年。

 

世界から、ガソリン車が消えた。

 

環境問題とエネルギー政策の転換により、化石燃料を動力とする自動車は各国で生産を終了し、街を走る車の大半は、自動運転機能を備えた電気自動車、あるいは燃料電池車へと置き換わっていた。

 

人がハンドルを握る時代は終わった。速さを競うという文化さえ、過去のものになりつつあった。

 

そんな時代に、日本で誕生した異端のモータースポーツがある。

 

その名は、MFG。

 

富士山噴火災害からの復興支援を目的として始まった、公道封鎖型レースイベントである。

 

舞台となるのは、箱根、熱海、小田原といった実在の峠道や観光道路。

 

一般公道を完全封鎖し、内燃機関を搭載したスポーツカーのみで争われる、世界でも類を見ないレースだった。

 

参加条件はただひとつ。

 

“ガソリンエンジン車であること”。

 

電気モーターによるアシストは禁止。ハイブリッド車ですら、モーター機能を停止しなければ参戦できない。

 

さらにMFGでは、《グリップウエイトレシオ》という特殊ルールが採用されている。これは、車重に応じてタイヤ幅が制限されるこのレギュレーションだ。

 

そのレギュレーションゆえ、MFGのレースの上位入賞者の駆る車両や、馬力と高度な電子制御を備えた欧州車が大半を占め、MFGファンからは「リッチマンズレギュレーション」と揶揄されることもある。

 

だが、そのグリップウェイトレシオという、一見単純そうなレギュレーションの裏には、緻密に計算された奥深さと……そして、走るとは何かという〝原点〟を教えてくれるものがあった。

 

MFG。

 

AI搭載ドローンによる世界同時配信。

 

三千万人を超える有料視聴者。

 

優勝賞金一億円。

 

絶滅したはずの走り屋という存在は、この時代に再び蘇ったのである。

 

そして今。

 

そのMFGへ、一人の青年が挑もうとしていた。

 

駆るのは、かつて峠と湾岸線を席巻した日産の伝説であり、第二世代GT-R最後の到達点。

 

BNR34 スカイラインGT-Rを駆って。

 

 

 

茨城県、筑波市に産まれた城島 和也は、転生者である。

 

どうも、唐突に俺です。

 

これは昨今筍のようにポコジャガと生えている転生ものの物語。転生した理由も交通事故に巻き込まれたそうな子供を助けるため、というありきたりなものだ。

 

死後の世界は天国だか、地獄だかに行くと世界の大多数の人は信じているだろうが、極東の島国では死後は異世界転生するものという倫理観が定着しつつあるのではないだろうか。

 

剣と魔法の世界に転生し、神様から授かったチート能力で無双する。

 

あるいは滅んだ未来を救う英雄になる。

 

最近では悪役令嬢だの追放だの婚約破棄だの、ジャンルも細分化されていて、もはや一つの文化圏を形成しているレベルだ。

 

だから、事故で死にかけた時の俺もほんの少しだけ期待した。

 

もしかしたら、異世界に行くのではないか。

 

魔法とか使えるのではないか。

 

人生やり直し特典とかあるのではないか、と。

 

……まぁ、結果としてはそんな都合のいいものはなかった。

 

さて、俺はこの世界では人生二週目の転生者であるが……別に痛快な万能チートができるような転生特典はなく、かといって転生したからといって愉快な冒険譚を語るわけでもない。

 

ステータス画面もなければ、便利スキルもない。

 

未来予知みたいな能力があるわけでもなく、せいぜい「前世の記憶がある」程度だ。

 

しかもその記憶も、世界をどうこうできるほど便利ではない。

 

株価を完璧に覚えていたわけでもなければ、未来の技術革新を知っているわけでもない。

 

だから結局のところ、俺は普通に勉強して、普通に生活して、普通に人生を送るしかなかった。

 

筑波市のごくごく一般的な家庭で育ち、ごくごく一般的な人生二週目を歩んでいる。

 

とはいえ、人生を一度経験しているというのはやはり大きい。

 

子供の頃から「勉強をする」ということへの抵抗感が薄かったし、感情に任せて無茶をすることも減った。

 

親に反抗期らしい反抗期もなく、先生に怒鳴られるようなことも少なく、周囲からは「妙に落ち着いた子供」と思われていたらしい。

 

まぁ中身が一度社会を経験した人間なのだから当然といえば当然だろう。

 

これが有名な作品の特定キャラへの憑依とかではなかったことは、この世界にきて心底安堵した。それまで歩んできた当人の尊厳や人生を踏み躙るような真似はごめんである。

 

前世で読んでいた作品でも、原作知識を使って運命を変える、みたいな展開は人気だった。

 

だが実際に自分がその立場になるとしたら、正直かなり気が重い。

 

誰かの人生を知っている状態で、その人間として振る舞えと言われても困る。

 

家族や友人との思い出を、自分ではない誰かが引き継ぐのだ。

 

そんなのは、少し怖かった。

 

だから俺は、「城島 和也」として普通に生きていけることに安心していた。

 

今年で20歳となった今の俺は、生まれ育った茨城県を離れ、神奈川県にある麻布大学に通っていた。

 

大学近くのアパートで一人暮らしをしながら、講義とレポートに追われる学生生活を送っている。

 

あこがれでもあり、医師である祖父の影響や、人生二週目で勉強に打ち込むのが楽しいという点からか……将来の仕事は医療系がいいとぼんやりと考えていた。

 

前世では、「勉強」というものをどこか義務感でやっていた部分があった。

 

だが、一度人生を終えたあとにもう一度学び直してみると、不思議と知識を得ることそのものが楽しかった。

 

人間の身体の仕組み。

 

薬理学。

 

生物学。

 

そういったものを知るたびに、「人間ってよくできてるな」と感心することが増えた。

 

そして、決定打になったのは妹が飼っていた猫が亡くなったこと。

 

病気にかかり、手厚くケアをしていたものの亡くなってしまった愛猫を思ってワンワンと泣く妹をみて、俺は動物の医師になることを志した。

 

あの日のことは今でも覚えている。

 

普段は明るい妹が、目を真っ赤にして猫を抱きしめながら泣いていた。

 

「もっと早く気づいてあげればよかったのかな」

 

「苦しかったのかな」

 

そんな言葉を聞きながら、何もできなかった自分に少しだけ無力感を覚えた。

 

人間の医者にはなれなくても、動物を助ける側にはなれるかもしれない。

 

そう思ったのが始まりだった。

 

祖父や両親、そして妹も賛成してくれていて、俺は獣医になるために勉強をしている。

 

4月も後半。2年目となる大学生活で、これから夏に向かっていく。

 

キャンパスの木々も少しずつ青さを増し、昼休みになると中庭には学生達の賑やかな声が響いていた。

 

必要な単位は充分に取っていて、夏休みはレポートを出さなければならないが、ある程度は休めるという……華の大学生生活をエンジョイできる準備は整っていた。

 

海に行くやつ。

 

旅行に行くやつ。

 

バイト漬けになるやつ。

 

大学生の夏休みというのは、人によって過ごし方が極端に違う。

 

そんな夏の計画を同学年の友人と話していると、一本の電話が俺のスマホを震わせた。

 

画面に表示された名前を見た瞬間、俺は小さく苦笑する。

 

「おお、和坊!元気にモテているか?」

 

聞こえてきたのは、やたらと声のでかい老人の声だった。

 

「いや、モテるとか全然ないよ。好じいちゃんも元気?」

 

「元気だぞ!まぁお前の祖父には怒られてるけどな!」

 

「相変わらずそうで安心したよ」

 

電話の主は祖父の親友であり、今は検査入院をしている星野 好造だ。

 

昔から豪快という言葉をそのまま人にしたような人物で、酒と煙草とラーメンを愛し、医者に怒られても一切生活習慣を改善しない筋金入りの不良老人でもある。

 

今回の検査入院は、定期検診で数値が高いものがあったゆえだ。長年の不摂生のせいだと祖父は言っていたが、そういうたびに好じいちゃんは「太く短くが俺のモットーだからな!」と笑っていた。

 

ちなみに祖父はそのたびに「本当に短くなるぞ」と呆れている。

 

「で、どうしたの?まだ検査入院中でしょ?」

 

「そうなんだが、暇で暇で仕方ないんだよ。美人な看護師さんもいないし、周りは俺より爺さん達ばっかりだからな」

 

「病院は大人しくしているものだよ、好じいちゃん」

 

「で、ものは相談なんだが、和坊、MFGに出てみないか?」

 

「ほんとに唐突だね!?相談の理由も碌でもないんでしょ」

 

嫌な予感しかしなかった。というか、この人が真面目な理由で電話してくることのほうがものすごーく珍しい。

 

「看護師の兄ちゃんから聞いたんだが、6月に看護師の合コンがあるらしくてな!そこでお前のことを自慢したいんだ」

 

「ほんとに碌でもない理由だった」

 

思わず額を押さえる。

この人、本当に入院患者なんだろうか。

 

「まぁまぁ、若い女の子と仲良くしたいおじさんを助けると思って!城ちゃんにも許可はとってるよ」

 

「そういうとこ、ほんとに根回し上手いですね」

 

「当たり前だ!そうじゃなきゃ建設会社の社長なんてできんよ」

 

妙に説得力があるから困る。昔から顔が広く、気づけば知らない相手と肩を組んで酒を飲んでいるような人だった。

 

「で、エントリーするにしてもマシンはどうするのさ」

 

「そこはお前さん、ツテはあるだろ?」

 

「まさか全振りとは思ってなかった」

 

「なに、大事な子供は旅をさせろとか、千尋の谷に突き落とすとかいうだろう?」

 

「旅させるのも突き落とすのも理由が低俗すぎる」

 

そういう俺の意見に全く聞く耳を持たないまま、電話の主は話をトントンと進めていく。

 

「じゃ、エントリーは俺も手を回しとくから、マシンの目処がたったら連絡してくれ。難しいならこっちでも手配はできるからな」

 

「はいはい、わかりましたよ。好じいちゃんもちゃんと検査入院中は大人しくしてね?また無断で外出してラーメンとか食べたらダメだよ」

 

「はっはっはっ!俺は太く短くがモットーだからな!あ、城ちゃんがきた。切るぞー」

 

通話が切れる。耳元からスマホを離し、俺は小さく息を吐いた。

 

「ほんとに適当なんだから……」

 

大学構内はいつも通り賑やかだった。中庭では学生達が騒ぎ、ベンチではカップルが談笑している。

 

そんな平和な光景の中で、“MFGに出る”なんて話をしていたせいか、妙に現実感が薄い。

 

「MFG、か……」

 

思わず呟く。危険で、金もかかって、走っている連中は変人ばかり。普通の大学生が軽々しく挑むような世界じゃない。それでも、心のどこかが少しだけ高揚していた。

 

前世から車は好きだったし、今世でも祖父や好じいちゃんの影響で自然と車に触れてきた。

 

特に、内燃機関の車。エンジン音や排気の匂いを感じるたび、妙に胸が熱くなる。

 

「マシンのアテか……。あるとしたら、ちょっと遠いけど……あそこだな」

 

脳裏に浮かぶのは、東京にあるチューニングショップ。昔から付き合いのある人物が関係している店だった。

 

俺はスマホを操作し、連絡先を開く。

 

『黒木 ミカ』

 

数回のコール音のあと、聞き慣れた女性の声が響いた。

 

『もしもし? 和也くん? 珍しいわね。また取材の依頼?』

 

「お久しぶりです、ミカさん。ちょっと相談がありまして」

 

『相談?』

 

「……MFGに出ようと思ってます」

 

電話の向こうが数秒止まる。

 

『…………え?』

 

「まぁ、そうなりますよね」

 

『いやいや待って!?あのMFG!?』

 

「そのMFGです」

 

『なにがあったの!?』

 

「好じいちゃんに頼まれました」

 

『好造さんが話に出るというなら絶対理由はろくでもないものよね?』

 

「正解です」

 

俺のスッパリしたものの良いように電話の相手は苦笑する。

 

『……で、マシンのアテ探してる?』

 

「まぁ、そんな感じです」

 

するとミカさんは少し考えたあと、あっさりと言った。

 

『じゃあ一回こっち来る? 旦那も工場にいるし』

 

「助かります」

 

『半端な気持ちなら、隆之は多分断るよ?』

 

「わかってます」

 

『ならいいわ。私も夜には戻るから晩御飯はみんなで食べましょ?』

 

そう会話を終え、通話が切れる。スマホをポケットへ戻しながら、俺は駅へ向かって歩き出した。

 

向かう先は──東京だった。

 

 

 

 

 

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