MF……GODの継承者   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十話「ラインとは何か?(2)」

 

 

セクター2でランボルギーニに追いついた赤羽と城島。しかし、セクター2は芦ノ湖畔と元箱根から国道1号最高地点まで続く登り区間。

 

ストレートでは圧倒的なパワーを誇るランボルギーニが有利だ。

 

ここで無理に追い抜こうとすれば、どうしてもタイヤへ余計な負担を強いることになる。

 

それにレースはまだ一周目。全長40キロのコースを二周する長丁場だ。ここでタイヤを削るのは、終盤の重要な局面で切るべきカードを先に使うのと同じ。

 

プッシュを仕掛けて失敗すれば目も当てられない。

 

だからこそ二人は動かない。

 

動けないのではなく、動かない。

 

それが神15に名を連ねるドライバーたちのレースだった。

 

(どうした。ずっと後ろについてきて……思ったよりもクレバーなレース運びじゃないか)

 

赤羽はバックミラーに映るR34を見る。

 

予選で見せた派手な走りで、しかも話題性抜群のルーキー。もっと無茶な仕掛けをしてくると思っていた。

 

しかし違う。仕掛けるべき場所と、我慢するべき場所を理解している。少なくとも今のところは。

 

(レースはまだ一周目。今はまだ〝モード〟は切り替えない。一周目はあくまでスマートに走るだけだ)

 

和也もまた冷静だった。

 

赤羽のフェラーリ。その前を走る大石のランボルギーニ。二台の挙動を観察しながら、自分のタイヤの状態を確認する。

 

ランボルギーニを追う赤羽と城島。

 

赤羽はどこか後ろにいる城島を警戒するような走りをしていたが、二人ともタイヤを温存する走りであった。

 

だが前を走り……逃げる形となっている大石のランボルギーニは苦しさを隠しきれていない。

 

ランボルギーニの膨大なパワー。それを不用意に解放すればタイヤは空転し、グリップを失う。

 

余計な熱が入り、消耗も加速する上に、ペースも上がらない。セコンドブースからも「もっとペースを上げろ」とプレッシャーをかけられていた。

 

「ペースが上がってないのは、単純に俺が踏めてないだけだろ!忌々しいぜ……MFGのグリップウェイトレシオ……!」

 

苛立った大石の声が車内に響く。

 

車のパワーやスペックではなく、車重によって使用可能なタイヤサイズが決まる。

 

それがMFG独自のレギュレーション、グリップウェイトレシオだ。

 

ランボルギーニは強大なパワーを持つが、同時に車重が重く、代償としてタイヤの自由度を奪われる。

 

軽量化という選択肢もあるがそうすれば今度は電子制御システムを削らなければならない。

 

つまり。

 

ランボルギーニという猛獣を、人間の腕だけで飼い慣らさなければならなくなる。

 

大石 代吾は、それを自分には無理だと割り切れる男だった。

 

それは潔さであり。

 

同時に限界でもあった。

 

「せっかくならもう少し太いタイヤを履いて、もっとアクセルをスカッと踏ませろや……!」

 

そう毒づきながらも車を前へ運ぶ。ふらつきながらも必死に踏ん張る。後ろの二台を前に行かせまいと。

 

その執念だけで。

 

その姿は後ろから見ても伝わってきた。

 

(大石、まだそんなところにいるのか)

 

赤羽は冷めた目で前を走る白いランボルギーニを見る。

 

(俺はとっくにMFGとグリップウェイトレシオの謎に気づいてるぜ)

 

抜けるならいつでも抜ける。

 

そう確信していた。

 

かつて強敵だった男。

 

だが今は違う。赤羽の中で大石はライバルから障害物へと変わり始めていた。

 

しかし、城島和也だけは違った。

 

(必死だな)

 

率直にそう思った。

 

前を走るランボルギーニには、不安定な挙動があった。パワーのある車をアクセルワークで何とか手懐けようとする姿。

 

それはどこか懐かしかった。

 

かつて、祖父の背中を追いかけていた頃。

 

ただ速くなりたくて。ただ上手くなりたくて。カートでも、車でも、ステアリングとアクセルと格闘していた頃の自分に重なる。

 

勝ちたい。

 

負けたくない。

 

もっと先へ行きたい。

 

そんなむき出しの感情が、大石の走りにはあった。

 

その時だった。

 

「こちらブース。もう少しでセクター2が終わるわ!その先のセクター3にはデスエリアがある!勝負をかけるなら最終のカマボコストレートよ!」

 

雫の声がインカムから響く。

 

「雫」

 

「な、なによ」

 

「レースをする以上、上を目指さなきゃならないのは……わかってる」

 

雫は眉をひそめる。何を当たり前のことを言っているのだろう、と。

 

レースとはそういうものだ。

 

相手より速く。誰より前へ。そして勝つ。

 

そのために命懸けのドライビングで0.1秒という時間を削り、心臓が飛び出そうな一瞬を掻い潜って戦う。

 

「けど、俺はまだ、上位にいきたいとか賞金が欲しいとか、そんな野心をMFGには持ってない」

 

前を走るランボルギーニを見る。

 

必死にもがくその背中を見る。

 

そして思う。

 

MFGには速いドライバーはいる。

 

「もっと魅力的なドライバーが必要なんだ。MFGには!」

 

だが、速さだけじゃコンテンツとしては足りない。

 

もっと見ている人間が胸を熱くするような。

 

思わず応援したくなるような。

 

魔性の女性のような男を虜にするような。

 

そんな走りをするドライバーが必要なんだ。

 

このとき。

 

懇意にしている星野好造の頼みでレースに出ていた城島和也の中で、このレースの意味が少しだけ変わり始めていた。

 

順位のためだけじゃない。

 

賞金のためだけでもない。

 

自分が何を見せるためにここへ来たのか。

 

その答えを、彼もまた探し始めていた。

 

 

 

 

「一周目、セクター3を出走車すべてが投入しています!」

 

セコンドブースに響く実況席の声。ここまでレースの大きな変動としては、相葉瞬が3位へ浮上したこと。

 

そしてベッケンバウアーが二連覇王者・石神風神をパスし、トップへ躍り出たこと。

 

さらに86番……片桐夏向が最後尾から一つ順位を上げ、ヤジキタ兄妹へ迫りつつあることだろう。

 

だが全体的に見れば、まだ大きな順位変動は少ない。

 

誰もが二周目へ向けて力を温存している。

 

「順位に大きな変化が出るのは、やはり二周目からだな」

 

モニターを眺めながら隆之が言うし、それに雫も頷いた。

 

「うん。みんなまだタイヤを温存してるって感じ」

 

そう言いながらモニターの一角を指差す。

 

「……相葉さんのR35を除いて」

 

「あれだけアウディにプッシュをかければそうもなるか」

 

苦笑する隆之。実際、相葉のR35だけは明らかにタイヤへ負担をかけていた。勝負所を前倒しにしているような走りだ。

 

(それにしても意外だな)

 

隆之はモニターの中の白いR34を見る。

 

(和也くんなら、もっと前へ出ると思っていたんだが)

 

先ほど無線越しに聞こえた言葉が脳裏をよぎる。

 

〝もっと魅力的なドライバーが必要なんだ。MFGには〟

 

(彼の心を動かす何かがあったということなのかな)

 

レース中にドライバーの考え方が変わることは珍しくない。

 

神15のドライバーの走り。

 

憧れた誰かの背中。

 

ほんの些細なきっかけで、走りは変わる。

 

……隆之自身にも覚えがあった。

 

走りとは得てしてそういうものだ。

 

自分もかつてはそうだった。

 

悪魔のZに魅入られた。

 

あの深いブルーの車体。

 

圧倒的な速さ。

 

そして何より、その背中を追いかける人間たちの熱量に。

 

ただ速いだけではなかった。

 

誰もがその姿を目で追い。

 

誰もがその名前を口にし。

 

誰もが心を奪われた。

 

走りというコンテンツは、純粋な速度を競う側面もある。

 

コンマ1秒を削り取る世界。

 

勝者と敗者が明確に分かれる世界。

 

だが、それだけではない。

 

誰かを魅了し。

 

誰かを虜にし。

 

そして決して忘れられない記憶になる。

 

そんな力も持っている。

 

MFGという競技。

 

世界中に三千万人のファンを抱える巨大なレース。

 

そこに本当に必要なものは何なのか。

 

速いドライバーか。

 

強いドライバーか。

 

もちろんそれも必要だろう。

 

だが。

 

それだけでは足りない。

 

人の心を揺さぶる存在。

 

人を熱狂させる存在。

 

画面越しですら目を離せなくなる存在。

 

MFGに必要なのは、きっとそういうドライバーなのだ。

 

そして、もし和也が目指しているものがそこにあるのだとしたら。

 

隆之は小さく笑う。

 

かつて湾岸で多くの人間を魅了した、あの伝説のように。

 

 

 

 

 




基本的に夏向の走りとかはテレビでやってるので、ほかのキャラをクローズアップしてます。

あと個人的にランボルギーニの大石が大好き。

「はぁ!?なにしてくれとんねん!」が好き。
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