MF……GODの継承者   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十一話「ラインとは何か?(3)」

 

 

 

レースは怒涛の追い上げを見せる片桐夏向と、彼の来歴に驚愕するMFGの面々や、視聴者の反応で話題となっている中で、8位、9位、10位は連なってセクター3。

 

その区間内のデスエリアを走り抜けていく。

 

カメラに映ることのないデスエリア。

 

そこでは大石を先頭にした集団が形成されていた。

 

だが、火山性ガスが立ち込める異様な空間を走り続けた代償は確実に現れていた。

 

大石の額には汗が滲み、呼吸も荒い。

 

視界は悪く、わずかなミスが即クラッシュに繋がる区間。

 

集中力を削られ続けた結果、そのドライビングには目に見えない疲労が積み重なっていた。

 

一方で、その後方。

 

赤羽のフェラーリは変わらぬ距離を保ち続けている。

 

決して仕掛けない。決して無理をしない。

 

ただ静かに獲物を追い続ける猟犬のように前方を見据える。

 

(勝負所はもうすぐ来る)

 

そしてセクター3を抜けた先にあるのは、勾配が一気に緩やかになる千歳橋からターンパイク入口までの区間……セクター4。

 

その中でも最大の勝負所が待っていた。

 

入生田駅付近の西湘バイパスとの分岐から東風祭交差点まで続く約1.9km。

 

通称、カマボコストレート。

 

この8位争いの勝負が動いたのは、まさにここだった。

 

「軽々と速度を上げていく2台と、それに追従するスカイラインGT-R!イタリアンマッチョに、日本の怪物が殴り込みだぁ!」

 

実況の田中も思わず声を張り上げる。

 

カマボコストレート。

 

その名の由来は、小田原市風祭にある名店「鈴廣かまぼこの里」。その周辺に伸びる長い直線道路であることから、いつしかそう呼ばれるようになった。

 

下り勾配による重力加速。そこへ各車が持つエンジンパワーが加わる。速度計の針は瞬く間に上昇していった。

 

車体が安定した瞬間だった。

 

ランボルギーニの後方から、赤羽のフェラーリが右へ飛び出す。

 

スリップストリームを最大限に利用した一撃。V8ツインターボが咆哮を上げる。

 

「赤羽のフェラーリが大石のランボルギーニをオーバーテイク!」

 

(んなろぉーっ、赤羽ぁ!)

 

大石の顔が歪む。抜かれた事実以上に腹立たしい。かつて何度も競い合ったライバルに先行を許したことが。

 

(どうした?乗れてないぜ、大石)

 

赤羽はミラー越しに後方を見た。

 

(前より下手になったか?)

 

挑発するようにフェラーリが離れていく。その姿に意識を奪われた。

 

ほんの一瞬。レースでは致命的な一瞬。

 

そして前方には東風祭交差点、ストレートの終端が迫る。

 

ブレーキング。フェラーリが減速し、ランボルギーニも続く。

 

その瞬間だった。

 

「大吾!右だ!」

 

セコンドブースから飛んだ叫び。

 

ほぼ同時。純白のR34が視界へ飛び込んできた。

 

「んなにぃ!?」

 

大石の目が見開かれる。わずかに空いた右側。普通なら誰も飛び込まないし、飛び込めない。

 

だがR34は違った。

 

ギリギリまで残した制動距離で、ノーズが滑り込む。

 

「あぁーーーっ!!ここでランボルギーニに日本の怪物が襲いかかったぁ!!」

 

実況席が沸く。

 

「ブレーキング競争から交差点コーナーでインを差し込む!!」

 

R34のフロントが先に向きを変える。

 

ATTESA E-TSが立ち上がりを補助し、四輪へ最適な駆動力が配分される。

 

そしてアクセル全開。RB26DETTが吠えた。

 

一気に前へ。ランボルギーニを置き去りにするように立ち上がる。

 

「抜いたぁぁぁぁ!!」

 

セコンドブースでは、データと映像を見ていた雫が思わず拳を握る。

 

「決まった……!」

 

黒木隆之も静かに息を吐く。

 

「和也くんは、最初からここを狙っていたな」

 

(くそ!やられた!)

 

一方で大石は歯を食いしばる。

 

赤羽へ意識を向けた一瞬。その隙を完璧に突かれた。

 

前を走るR34。特徴的な四つの丸いテールランプが遠ざかっていく。

 

ZFCSJ型ランボルギーニ・ウラカンLP610-4のV10エンジンが唸りを上げる。

 

まだ終わっていない。レースはまだ半分だ。

 

(旧車風情が……)

 

アクセルを踏み込む。

 

(このランボ様から逃げ切れると思うなよ!)

 

 

 

 

早川三丁目交差点を越え、再び箱根小田原本線料金所へ。

 

急勾配を駆け上がり、大観山から芦ノ湖麓へと下るセクター1へ突入する。

 

先頭には赤羽のフェラーリ。その数台分後方に城島和也のR34。さらにその背後へ、大石のランボルギーニが食らいついていた。

 

(ここから二周目。少しモードを切り替えるか)

 

急勾配で真価を発揮するランボルギーニ。

 

だが、そこは日産スカイラインGT-Rだ。

 

R34のボンネットに収まるRB26DETTも伊達ではない。

 

追従は許す。だが、追い抜きだけは許さない。

 

いや、それ以前に……。

 

城島のR34の後ろを走る大石は、得体の知れない違和感に戸惑っていた。

 

(な、何だよ……これは!)

 

上り勾配の左コーナーへ進入する。

 

すでにいくつもの高速コーナーを経験してきた大石は、前を走るR34の異様さに気づいていた。

 

(俺の思っている……いや、MFG公式が出している攻略動画のレコードラインと違う……!?)

 

グワッ。わずかに車体を揺らしながら、高速コーナーを抜けるR34。

 

そして次の右高速コーナーへ。同じようなペースで進入したはずの大石だったが、その目には信じられない光景が映っていた。

 

(明らかに膨らんでる!ブレーキングだって遅い!)

 

なのに、離される。

 

思わずアクセルをパタパタと調整する。電子制御が過剰介入してタイヤを削る最悪の事態は避けられている。

 

だが、そのせいでランボルギーニは思うように速度が伸びない。

 

コーナー出口では、わずかにR34が前へ出る。

 

立ち上がり後の直線でその差は詰められる。だが次のコーナーへ入れば、また理解不能なラインで距離が開いていく。

 

(追いつくどころか……ついていくのもしんどい!)

 

ここも違う。

 

あそこも違う。

 

自分が理想だと思っていたラインとはまるで別物だ。

 

なのに、コーナー出口では必ず相手の方が前にいる。

 

なぜだ、どうしてだ。

 

(くそっ……タイヤが逃げる!扱いづらい!)

 

追いつこうとして進入速度を上げる。

 

するとフロントタイヤがわずかにアンダーを出す。それを消そうとアクセルを踏み込み、車体を引っ張る。その操作そのものが大石に余計な負担を強いていた。

 

知らず知らずのうちに肩へ力が入り、呼吸が荒くなる。

 

そして、その負荷こそが、大石自身を変え始めていた。

 

(ついてきてるか。なら……これならどうかな)

 

グオン、とR34のコーナー進入速度が、さらに一段上がる。

 

(ペースが上がるだとぉ!?何やらかしてんだ、こいつ!)

 

大石は思わず目を見開く。

 

そのライン。速度。進入角度。どれを取っても危険領域にしか見えない。

 

胃の奥がヒヤリと冷える。

 

だが赤羽のフェラーリに置いていかれ、そして、自分の乗る最新鋭のランボルギーニよりもはるかに時代遅れなGT-Rに離されるなど。

 

そんなことを大石のプライドが許さなかった。

 

(やってやるよ……!)

 

突っ込めるところまでは同じ速度で突っ込む。あとは電子制御と四輪駆動に祈るだけだ。

 

アクセルを踏み抜く。ランボルギーニのリアがわずかに流れる。ヒヤリとした感覚が背筋を走るが、それでも大石は必死にカウンターを当て、車体を立て直す。

 

涙目になりながらも食らいつき、高速コーナーを駆け抜ける。

 

その様子を見ていた実況の田中は、セクター1を終え、セクター2に入ったところで何かに気づいたように声を上げた。

 

「9位争いですが……ちょっと大変なことになっています!」

 

モニターに表示された二台のテレメトリー。

それを見た田中と解説席の小柏は、揃って目を見開く。

 

「スカイラインGT-Rをランボルギーニが追い立てる展開ですが、二台ともペースが上がっている!」

 

R34は予選タイムをわずかに上回る程度。

しかし、大石のランボルギーニは予選時を超えるペースで走行していた。

 

「もともと034号車の城島選手は、セクター2を非常にハイスピードで抜けています」

 

小柏が冷静に分析する。

 

「一方で大石選手は、パワーの強いランボルギーニに振り回されている印象がありました」

 

「その振り回されている感覚が、034号車を追い立てる執念に変わっているのでしょうか!」

 

田中も興奮気味に続ける。

 

「ペースが上がっています!しかも車のふらつきが減っている!目に見えて走りが安定してきています!」

 

まるで見えない教師に引っ張られるように。大石のドライビングは、確実に研ぎ澄まされつつあった。

 

その時だった。

インカム越しにセコンドブースから声が飛ぶ。

 

「大吾!いいペースだ!このままいけばまだ勝負できるぞ!」

 

その言葉を聞いた大石は、思わず怒鳴り返しそうになる。

 

(そのままだとぉ!?)

 

額に汗を浮かべながらステアリングを握り締める。

 

(こちとら喰らいつくので必死なんだっつーの!!)

 

そして前方では何事もないように白いR34が次のコーナーへと吸い込まれていった。

 

まるで後ろで誰かが悲鳴を上げながら限界走行していることなど、知りもしないと言わんばかりに。

 

ランボルギーニのステアリングを握る手に力が入る。

 

目の前を走るのは十年以上前の旧車。しかもGT-R。今どき博物館にでも置いてありそうな旧車だ。

 

数字だけ見れば、自分のランボルギーニの方が速い。

そうであるはずだった。

 

(追いついて追い抜けるのか!?ラインがバラバラでこっちはペースが乱されまくってるつーの!)

 

ランボルギーニのステアリングを握る手に力がこもる。

 

左。右。左。

 

高速コーナーが続く。そのたびに大石は違和感を覚えていた。

 

R34は理想ラインを走っていない。

 

MFGが公開しているレコードライン。

 

何度も自分に叩き込んだ、その最適解のどれとも違う。

 

なのに……速い!

 

(なんでだよ……!そのラインじゃ失速するだろ普通!)

 

コーナー進入で膨らむし、ブレーキングも深いし、クリップポイントも微妙にズレている。

 

だが出口になると車体は綺麗に向きを変え終わっている。

 

そして猛然と加速する。まるで路面に見えないレールでも敷かれているかのように。

 

(おかしいだろ!!)

 

大石はアクセルを踏み込むと、電子制御が介入する。ランボルギーニの四輪駆動システムが車体を安定させる。

 

だが次のコーナーでまた少し離される。

 

(くそっ!!)

 

さらに踏む。さらに追う。無意識のうちに、大石は普段のブレーキングポイントから数メートル奥まで踏み込んでいた。

 

アクセルを開けるタイミングも早い。普段なら怖くてできない速度域だが、今は考える暇がない。 前のGT-Rを見失わないことだけで精一杯だった。

 

「おっと!」

 

実況席で田中が声を上げる。

 

「大石選手、またセクタータイムを更新しています!」

 

解説の小柏もモニターを見ながら頷いた。

 

「本人は気付いていないでしょうが。今の彼は予選より速いですね。城島選手に引っ張り上げられている形です」

 

「引っ張り上げられている?」

 

「ええ」

 

小柏は静かに続ける。

 

「速いドライバーの後ろを走ると、自分でも知らないうちに限界を更新することがあります。今の大石選手は、まさにそれですね」

 

その頃。当の大石は。

 

(ふざけんなぁぁぁ!!)

 

涙目だった。

 

(なんで離れねぇんだよ!なんで追いつけねぇんだよ!!)

 

もうとにかく必死である。

 

だが、その必死さこそが彼を予選以上の領域へ押し上げていた。

 

そして前を走る城島和也は、そんなことなどまるで気付いていない。

 

ただ淡々と次のコーナーへ向けてGT-Rを走らせていた。

 

(んー……まだついてくるかなら、もう少しだけ上げてみようかな)

 

その一言は、大石 代吾にとっては悪夢だった。

 

 

 

 

 




次回はパープルシャドウの神様たちと、主人公の来歴紹介に行きたい

大石?彼はこれから伸ばします(強制)
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