『大丈夫ですか?…顔色がすぐれない様ですが。』
えぇ…まぁ。…少し行き違いが。
『もしよろしければ、お話を聞かせては頂けませんか?』
…そうですね。お願いします。
『はい。それでは中へどうぞ。』
にっこりと笑いかけて案内してくれる銀髪のシスター。そうだった、確かこんな出会いだったな…。
*****
「…!」
ステンドグラスから注ぐ陽の光が、静かな教会内を優しく照らしている。
思わずうたた寝してしまっていた私は、その懐かしい雰囲気を感じていた。
大聖堂の荘厳さも好きだが、静かなここも好きだ。そして同時に、私にとってここは…
「動くな!全員両手を挙げろ!」
そんな静寂は、ドアを蹴破る音と怒声によって破られた。
「そこのシスター!金出せ!金!!」
……入ってきた数は4人、フォーメーション、銃も安物なのか、手練れとは言えなさそうだ。
きっと食い詰めての犯行なのだろうか。
「……私はお赦しいたします。」
生きていれば時に、理不尽に襲われることも多分ある…もしかするとここで銭を得なければ今日のご飯にもありつけないかもしれない。
「しかしこの子が赦しますかね!!」
…とはいえ、だからといって教会を襲うのは許せない。
相手のスケバン達が持っているSMGより重厚な射撃音、そして彼女らのARより安定した弾幕。
薙ぐ様に繰り出された火箭が、前に出ていた2人を即座に叩きのめす。
暴力に訴えるのは、きっと良くないことだ。
しかし、今の私に思い付くことは、これしかない。
……よそう。もし主やサクラコ様が咎められるのであれば、この子はこうして弾丸を吐き出してはいないだろう。
無慈悲な射撃が空気を切り裂く音、床に転がり落ちた空薬莢が跳ねる音が響き、硝煙の匂いが充満する。
そんな独奏が終わったときには、土煙に包まれていた相手は全員気絶して倒れ伏していた。
「……。」
気絶させたスケバン達はとりあえず無事な長椅子へ寝かせる。
「……。主の家で暴れたことをお赦しください。」
赤熱した銃身と対照に、教会で暴れたことへの罪悪感が先ほどまでの興奮状態を急速に冷ます。
銃撃戦自体は良くある。それに話しても通じない状況はある。しかし、相手に火力を押し付けて圧倒することに、どこかで楽しみを感じている私が嫌いだ。
「ここにいましたか、シオン。」
そんな声に入り口を振り返ると、白銀の長髪にアメジストのような目のシスター、サクラコ様が立っていた。
少し言葉足らずだったりセルフレジの使い方が分からなかったりするけど、聡明で優しくて、迷える子羊だった私を導いてくださるサクラコ様
「さ、サクラコ様。これは…」
「大丈夫です。シオンを信じていますから。」
(私欲のために暴れたのでは無いと)信じている…か。
確か、ここで最初にお会いした時も、そんなことを言って下さったっけ。
「…シスター・シオン。突然で申し訳ありませんが、少しお仕事をお願いしても良いでしょうか?」
改まった様子のサクラコ様に、背筋が伸びる。
「連邦生徒会長が失踪された件で、連邦生徒会が解決方法として先生と呼ばれる方を呼んだ、と報告を受けました。」
「そ、そうですか。」
「しかしD.U地区では同時に治安が悪化しているとも聞いています。貴女には、現状の調査、あわよくば、その連邦生徒会の切り札と接触をして頂きたく。…シオンの力をあてにしてのことです。頼まれてくださいますか?」
私にはそんな大層なことができるのだろうか。…いや、やらねばならない。敵を撃つのは得意なのだ。それを活かさずにどうするか…!
「…分かりました、やってみます。」
主とサクラコ様の望まれるままに。
「先生…かぁ。」
あの後愛車のユニバーサルキャリアでD.Uへ向かっていると、そこら中で銃声の音がする。連邦生徒会長の失踪以来、どこもかしこも治安の悪化がはなはだしい。
そんな連邦生徒会が切り札として投入する先生とやらはどのような人物なのだろうか。
「うわ!」
そんなことを考えていると、どこからかパンツァーファウストが飛んできた。なんとかハンドリングを維持しつつ路地に滑り込む。
「…ここからは歩きですかね。」
流石に愛車が大破炎上しているのは見たくないのでここに隠していくことに。流石に連邦生徒会の本部は安全でしょうし、足が必要になったらまたここまで取りにくればいいだろう。
皆表通りで暴れているからか裏路地にはほとんど人気はないが、念のためちゃんと隠して、徒歩で目的地へ向かう。こういうときに、車体の小さなキャリアー君(愛車のニックネーム)の比較的コンパクトなところは役に立つ。
「さて、行きますか。」
撃たれるまでは撃たずに。撃たれるまでは撃たずに……痛っ!撃ってきやがった!!
…なら、お望み通りいきましょうか。ねぇ!
***
「な、なにこれ!?」
ユウカを先頭にしてシャーレへ向かう先生一行。目的地への途上はスケバンと、破壊と暴力が満ちていた。
しかし正面に見えた数人のスケバンが、誰かと撃ち合っていたが、弾幕を浴びせられて倒れる。
「みなさん、前方に…シスターらしき人がいます。」
チナツの言う通り、掃射で巻き上がった砂ぼこりが落ちると、そこには黒いベールをまとった、シスターがいた。
「…シオンさん?」
スズミがそう呟くと、あちらも反応した。
「あっ。…スズミさん、ハスミ先輩…えっと、どうも。」
シオンと呼ばれたシスターは、どこか気まずそうに目を泳がせ、携えていた軽機関銃をそっと背中に隠そうとしている様に見えた。
「大丈夫です。シオンは信頼できます。」
そうハスミは銃口を下ろすが、その顔は晴れない。
気まずい沈黙に耐えかねて、シオンは話題を逸らす様に、目に留まった先生について尋ねる。
「えっと、その方は…?」
「この方はシャーレの先生です。…キヴォトスの外の方なので、護衛を。」
スズミが説明するが、お互い目を見ていない。
「…えっと、ではあなたがあの先生、ですか。」
絞り出す様にそう言ったシオンだが、続きは言葉にならず、そのアイスブルーの瞳が泳ぐ。
"よろしくね”
「あ、はい。よろしくお願いいたします…。」
敵意は無いが、どこか気まずい雰囲気が3人の間にあった。
がそれを突然銃撃が遮る。
「痛っー!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」
ユウカが先生との直線上に割り込み、先生方向への弾丸をシャットアウトするが、ホローポイントであった様だ。
「伏せて下さいユウカ、先生。それに、ホローポイント弾は違法指定されてません。」
「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょう!」
先生を遮蔽物へ動かすハスミとユウカが言い合う中、援護しているスズミとシオンは敵の火力源に制圧射撃をしていた。
互いに無言だったが、互いをカバーし合う様子は、先ほどのギクシャクした雰囲気が嘘の様だ。
「せ、戦術指揮を執るんですか!?…ま、まぁ先生だからそれはそうでしょうが…。」
一方先生は、この場の指揮を執ることを宣言していた。
「生徒が先生の指示に従うことは自然なことですからね。」
"シオン、君も手伝ってもらえる?"
突然訊かれたシオンは、逡巡する。…目的の先生はここにいる…ならば大丈夫なはずだ。
「…はい!わ、私で良ければ…!」
そうして、先生による初めての指揮による戦闘が始まった。
***
「なんだか、いつもより戦いやすかった気がします。」
「確かに。」
一団を蹴散らしたスズミの感想に、弾帯を交換していた私は思わず頷いた。
効果的な防御位置、制圧射撃の相手、より効果的な閃光手榴弾の投射位置などの指示によっていつもより制圧にかかった時間は短い。
遭遇したワカモとやらも、先生の的確な指示によって制圧射撃と閃光弾によって退かせることが出来た。
そんな矢先、無限軌道特有の音が聞こえる。
「…戦車です!」
それを警告すると、通りの向こうからクルセイダー巡航戦車が現れる。
「クルセイダー1型、トリニティ総合学園の制式戦車です。おそらく、PMCから流れたものでしょう。」
「なら、ガラクタだからぶっ壊しちゃっても良いってことね!いくわよ!」
私のマシンガンでは巡航戦車とはいえ正面を撃ち抜くには近付かなければならない。
"シオン、周りの相手を!"
「はい!」
随伴歩兵を射撃で薙ぎ祓い、戦車を孤立させる。
戦車がユウカさんを狙おうとしていたので砲塔正面へ制圧射撃。
こけおどしにしかならないが、砲身がこちらを向く。
………こっちに向いてくる?
「う…!」
砲身が黒い丸になる。撃たれ…
そこへ、閃光弾が投げられ、おそらく砲手の目を潰したのか、射撃は見当違いの方向へ飛ぶ。
"ハスミ!"
「はい。」
出た、ハスミ先輩の徹甲弾!
本来小銃や対戦車ライフルの徹甲弾でも戦車を無力化するのは難しい。
小口径故に内部の乗員やモジュールを撃ち抜かなければ意味が無いからだ。
しかしハスミ先輩の正確無比な狙撃は、のぞき窓や装甲の継ぎ目などの弱点を撃ち抜き、内部の相手をダウンさせられる。
少なくとも私には出来ないことを正確にやってのける!そこにしびれて憧れ、ていた…。
……いやいや、こんなことしてる場合じゃない。
射点を移して、まだやってくる敵の随伴歩兵を釘付けにする。先生の指示する場所は的確で、多くの敵を狙える位置だ。
スズミさんの閃光弾であぶり出された相手を無力化。
…主よ、シスターでありながら無力化されつつある者を更に撃ちのめす私をお赦しください。
シャーレの入り口広場に現れたクルセイダーに4つの穴が開いて逃げ出した1人も無力化すると、遅れて来た連邦生徒会の役員と共に先生は建物の中へ入っていった。
「…シオン。」
「え、あ、はい…!」
突然ハスミ先輩に呼ばれて背筋が凍る思いをする。今の私の耳はピンと立っているだろうか。
えっと、その、こんなところにノコノコ顔なんか出してすみま…「よく頑張っている様ですね。」
「…?」
「…ただし、射点の移動はきちんと頭に入れるべきです。」
「はい…。ありがとうございます…。」
しかしそこからは話題が見つからず、沈黙が訪れる。
でもなんだか、あの頃を思い出す様で、懐かしい気分になる。
そんなことを考えていたからか、つい、無限軌道が作った溝に足を引っ掛けてしまう。
「「!」」
私が咄嗟にもう片足でバランスを取り直すのと、スズミさんが私を受け止めようとするのはほぼ同時だった。
「「……」」
沈黙。私は少し怖くなって、でも折角会えたのだからと、私は無理やり舌を回した。
「何も無いところで転びそうになるのは、か、変わらないなぁ…あはは……。」
しょうもない話。とはいえあの頃の私もこんな話ばっかりだった気もする。
そう考えると自分でも耳が垂れてるのがわかる。
「こんな話するのも、変わってないや…私。」
なんだか怖くなって、思わず周囲を伺う。
「でも、その、スズミさんとの協働も、わ、悪く無かったかなー、なんて…。」
最後にそう伝えて、逃げるように去ろうとする。
「…そうですね。…さっきのシオンさん、動きは良くなっています。」
頭の片翼で顔を隠しながら、そうスズミさんが答えた。それは、私の顔を見たくないのか、それともこちらを伺っているのか。
「「その…」」
同時にそう言いかけた時、先生が戻って来て、結局話はそのまま流れてしまった。
……ハスミ先輩やスズミさんに「顔も見たくない」と突き放されたら…なんてことは少なくとも無くて、まだ友好的?でいてくれたことに、私は安堵を覚えていた。
自身の尻尾が横へ振れるのを感じつつ、私はキャリアーのエンジンをかけて、帰途についた。
あ、電話だ。
《シオン、先生とは、どのような方でしたか…?》
「…あ。」
…しまった。ハスミ先輩とスズミさんに気を取られて忘れていた。えっと…
「はい、まずは人畜無害そうで…、指揮能力はとても高く見えます」
《じ、人畜無害…!?》
サクラコがあまり出てない…出てなくない…?
続くかもしれないしそうでもないかも?
シオンは…
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狂信者
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ポンコツ
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不憫枠
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参謀
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鉄砲玉
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吹いたら消える
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情緒不安定
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その他