買い出しから数日後、私は大きな水筒と教典を携えてキャリアー君のエンジンにサンドフィルターを取り付けていた。
シスターフッドの教会は、トリニティ自治区だけではない。これから向かうのは、アビドス自治区の教会だ。
かつてはそれなりに信徒もいた教会だが、人口の減少と砂漠化によってミサの規模も頻度も縮小しつつある。が、信徒がいる以上、月1度はミサが行われている。
今回は、アビドス自治区にある教会でのミサと、先月発覚した教会の物品の破損の対応と、保守点検のために必要な物品を運ぶのだ。
ミサのためにあと2人シスターが向かうが、彼女らはミサで使うぶどうジュースと共に電車でアビドスへ向かう。
「砂漠は暑いそうですから、気を付けてくださいね!」
ヒナタさんが持ってきた荷物をキャリアーに積み込む。
ミサで使う聖書やその写しであったり、補修、点検のための物品など、積荷は様々だった。一応電気が止まっていた時のために発電機まで積み込んである。
「…よいしょ!これで全部ですかね。シオンさんが無事にたどり着けますように。」
ヒナタさんはそうして祈りを捧げてくれる。
健気で力持ちな彼女は、力仕事に関して八面六臂の活躍をして手伝ってくださるし、私のことも気にかけてくれる。
「ありがとうございます。ヒナタさんも平穏でありますように。」
そんなやりとりをしていると、サクラコ様がやってくる。
「アビドス自治区は遭難すら起こりうると聞きます。方位磁石は持ちましたか?地図は?」
「流石に地図がありますから大丈夫なはずです。」
いくら砂漠であっても、学校が存在する以上大丈夫なはずだ。
実際、前にも行ったことがありますからね。
「それでは、行ってきます。」
サクラコ様とヒナタさんに見送られて、私はキャリアーでアビドス自治区へ向かった。
…
……
………
ダメだった。
前の地図と明らかに地形が違う。
ゴーストタウンを進みながら、私は方角を見失い、圏外の携帯をなんとかならないかと叩く。
特設した幌は砂嵐に飛ばされ、直射日光にジリジリと灼かれたことで判断力は鈍り、迷う中で水が尽きた。
「……。」
このままでは死ぬ。この近辺に人がいない以上、用事も達成出来ず干からびた駄犬の死体もしばらくは発見されないだろう。
拾ってもらっておきながら…申し訳ありません。何も出来ずに…野垂れ死ぬことを…お赦しください…サクラコ様………。
チョロロロロ…
「………!」
「ん、やっぱり生きてた。」
み、水だ…!
「シスターさん、熱射病だから、とりあえず冷やしてるね。」
空家か廃墟内の日陰で、私は寝かされていた。首や股関節の辺りに冷たい何かが当ててあるのがわかる。
……?
それにしてもやけに涼しいので顔を上げる。
…背が高いだけで貧相な下着姿の私が見える。
「……。……?」
…?下着姿?
「!?」
「ん、冷やすために少し剥いた。」
!?!?!?!?!?
「ま、まだサクラコ様にも見せたことないのに!!」
「…ん、でも干からびかけてたのをこれで助かったから私に感謝すべき。」
……まぁそれもそうか。
なによりまだ頭が茹だってるみたいでこれ以上騒ぐ気力も無い。
私を介抱してくれたのは、私と同じような耳が生えた生徒だった。
聞けば私と同じ2年生で、アビドス高等学校の生徒らしい。
「私は砂狼シロコ。シスターさんは、教会へ?」
「はい、駅で別の2人を拾ってそこへ。」
ふと時計を見ると、おそらく2人は到着しているだろう時間帯だった。
ギョッとする私を見てか、シロコさんは案内すると申し出てくれた。
制服を着直した私を、シロコさんがロードバイクで先導する。
自転車にしては結構な巡航速度だが、砂で塞がれた道や荒れた経路を避ける熟知ぶりだった。
まもなく正確に2人がいる駅まで辿り着いた。
「いやー助かりました。今度改めてお礼を…。」
「ん。待ってる。案内が必要ならまた連絡して。」
そんなやりとりをして別れた私たちは、シスター3人でサクラコ様の良さを語り合いながら教会へ向かった。
「?あれ、鍵開いてる…?」
シスターの1人がそうつぶやいて開けると、中はヘルメット団の巣窟となっていた。
「なんですか貴女たちは!?」
一緒にいたシスター達が問いただすも、ヘルメット団員たちは改める様子は無い。
「あぁわりぃわりぃ!ちょっと借りてるわ!」
「そーそー、うちら行くとこねぇからさ!」
ヘルメット団はそう言ってギャハハ!と笑う。
彼女らの足元には大量の空き缶や包装のゴミが散らかっていた。
ここは祈り場で、主の家だ。確かに行く当ての無い人を入れることもあるが…。
「…にしては、随分と元気な様に見えますね?」
砂嵐も起こる環境、確かに多少のことには目をつぶりましょう。遭難したから緊急避難として鍵を破ったり、ここで一夜二夜過ごす位は良いでしょう。
「なんだ?やろうってのか?」
「迷える子羊がここを使おうってんだから良いだろ!?」
そう言って彼女らが手持ちの武器を取り出す。
私も反射的に、スリングで背に掛けていたマシンガンを取り出す。
避難だったとしても、この様に荒らすことは許されない。そして、いささか傲慢だ。
「主のご加護のあらんことを。」
引き金を引く。
先ほどまでの砂漠の環境にも関わらず、この子は問題なく銃弾を撃ち出した。
…良かった。噛んでいないということは、この子も、主の判決も私と同じだった様だ。
スムーズに吐き出される弾丸の雨が、即座にヘルメット団員に襲いかかる。
「うわっ!?」
「ギャッ!?」
統制の取れていない相手には、薙ぐ掃射で事足りる。一緒に来たシスター2人も自身のアサルトライフルで戦闘に加わり、あっという間にヘルメット団は制圧出来た。
「…!ミサまであと数十分です!」
「ま、まずいですわ!」
気絶したヘルメット団は外に放り出したが、来るのに時間を取られた挙句に仕事が増えてしまった。
「急ぎましょう!」
とりあえずゴミと砂を全部捨てて、汚れとかは頑張って掃除、頑固そうなのはなんとかして隠して、あとは…祭壇とかも準備して…
「あと10分ですわ!」
うおぉ間に合っ…た!
と同時に、早めに来た第1信徒さんが入場してきた。
「「「…♪」」」
共に走り回って飛び回って準備した2人と互いに無言でハイタッチする。
こういうの良いですよね。私は好きです。
しばらくして、時間になったのでミサを執り行う。今回は3人による持ち回りで進行する。
……。
「すみません、少し外します。」
外に気配を感じたので、聖歌を2人に任せて正面へ向かう。
…コッキングの音。少なくとも友好的な相手では無い。規模は…さっきのヘルメット団とプラスα。
聖歌が始まった。パイプオルガンは不調だったので音源を流す形だが、音量は十分。
「ミサはご自由に参加出来ますよ。いかがですか?」
こちらから出てきたことに一瞬面食らったヘルメット団。
なおも引き金から指を離さなかったので扉を閉め、セーフティを外す。
多少の銃声ならかき消してくれるだろう。
「なら、やりましょう…か!」
ぼーっとハンドガンを構えていた相手に飛び掛って、膝蹴りを入れる。
ひるんだところで拳銃を奪い取り、他のヘルメットのバイザーを狙う。
最初のヘルメットを盾にしているので射撃は散発的。
…お、この人手榴弾持ってる。
「ちょっと失礼。」
ピンを抜いてベルトから抜き取ると安全レバーが外れる。
それをセーラー服に放り込んで、密集してるヘルメットの方へ蹴り出す。
蹴られた方は自分の服に入れられた手榴弾を思い出すも、受け止めようとした仲間らと共に爆破されて気絶。
あとは少し離れているのでマシンガンで片付ける。砂漠や暑熱も想定されて作られたらしいそれは、期待通りの働きをした。
とりあえず彼女らを干からびないように日陰に並べて、私はミサに戻った。
「最近はカタカタヘルメット団だかカイザーだかで物騒になったわね。」
「もう皆いなくなっちゃうし、そろそろ潮時かねぇ…」
「これだよこのぶどうジュース!これであと…」
「まーた始まったよ、ぶどうジュース談義。」
ミサが終わると、集まった皆さんの井戸端会議が始まる。
あまり人混みは得意では無いが、こういう様子を見ているのは嫌いでは無い。
実際、絶賛人口減少中のアビドスではここは貴重な集まりだったりするのかもしれない。
そんな井戸端会議も、「柴んとこ行くか」だとか普通に帰るかとかでお開きになり、皆さんは配布しているぶどうジュースを貰って帰っていった。
「いやー、終わりましたね。」
「なんとか間に合いましたわ!」
「シオンさんありがとうございました。」
そんな風にシスター同士でも話していると、サクラコ様から着信がきた。
「はい。」
《無事終えられましたか、シオン。》
「えぇ。大丈夫です。居座り強盗がいましたが、たたき出しました。」
《そうですか。お疲れでしょうが、もう1つお仕事を頼んでよろしいでしょうか?》
…?何だろうか。
《教会へ献金強盗が入る事件がありました。犯行グループはブラックマーケットへ逃げ込んだとの情報もあります。》
「…なるほど。襲撃した上に、信仰心とチャリティーの精神で集められた献金の盗難。シスターフッドの一端として、少しばかり許せませんね。」
《シスターフッドとしては独自行動は避けたいところですが、また余計な波風を立てられても困ります。》
「わかりました。二度とそんな真似できないようにしてやります。…ブラックマーケットガードと遭遇した場は?」
《交戦はなるべく避けてください。しかし避けられない場合のみ、自衛に関しては許可します。》
「…!はい。主と精霊の御名において。」
ビッグ・ブラザーってデュ○リンゴみたいな見た目だよね(唐突)
シオンは補修授業部に…
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入れられる
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少しは関わる
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特に関係ないまま
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傍観席