夜明け前の影の国 〜TS転生した影の女王は、死んだはずの者たちを拾い続ける〜   作:姉御肌っていいよね

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第5話 誕生日の前夜

 

 

 羊の家での日々は、少しずつ形を持ちはじめた。

 

 朝、起きる。

 

 寝台を壊していないか確かめる。

 

 隣で眠るロージーが無事か見る。

 

 ゆっくり立つ。

 

 床を踏み抜かないように歩く。

 

 食堂へ行く。

 

 皿を壊さないように持つ。

 

 匙を曲げないようにスープを飲む。

 

 野菜も食べる。

 

 肉は少ないけれど、文句を言わない。

 

 甘いものが出た時は、すぐに掴まない。

 

 まず、食べていいか聞く。

 

 それから、そっと持つ。

 

 潰さずに口へ運ぶ。

 

 リンリンは、そういうことを一つずつ覚えていった。

 

 ハンセルは、それを見てよく笑った。

 

「リンリン、菓子食う時だけ顔が真剣すぎるんだよ」

 

「潰したら、食べられない」

 

「そりゃそうだけどさ」

 

「だから真剣」

 

 リンリンがそう言うと、グレーテがくすくす笑う。

 

「リンリンちゃん、えらいね」

 

「えらい?」

 

「うん。ちゃんと我慢してるもん」

 

 我慢。

 

 それはリンリンにとって、まだ少し苦い言葉だった。

 

 お腹が空いている時。

 

 甘い匂いがする時。

 

 誰かに優しい言葉をかけられた時。

 

 すぐに欲しくなる。

 

 すぐに近づきたくなる。

 

 すぐに手を伸ばしたくなる。

 

 けれど、我慢する。

 

 走らない。

 

 掴まない。

 

 壊さない。

 

 そのたびに、胸の奥が熱くなる。

 

 でも、少しずつ分かってきた。

 

 我慢すると、後で手に入るものがある。

 

 誰かが怖がらずに近づいてくれること。

 

 皿が割れずに残ること。

 

 ロージーが隣で笑ってくれること。

 

 ハンセルが「また壁やろうぜ」と言ってくれること。

 

 そして、カルメルが頭を撫でてくれること。

 

「リンリンちゃんは、本当にいい子ね」

 

 そう言われるたびに、リンリンの胸はふわりと浮いた。

 

 いい子。

 

 その言葉は、ずっと欲しかったものだった。

 

 父と母に言ってほしかった。

 

 置いていかれる前に。

 

 船が遠ざかる前に。

 

 自分は悪い子ではないと、誰かに言ってほしかった。

 

 カルメルは、それを言ってくれる。

 

 優しい声で。

 

 温かい手で。

 

 だから、リンリンはカルメルを見ていると、胸の奥がきゅっとなった。

 

 嬉しいのに、苦しい。

 

 近づきたいのに、少し怖い。

 

 優しい顔を見ると安心する。

 

 でも、ふとした時、あの言葉が戻ってくる。

 

 商品。

 

 価値。

 

 提出。

 

 聞き間違いだと、カルメルは言った。

 

 リンリンは信じたかった。

 

 信じたいと思った。

 

 けれど、スカディアの声も消えない。

 

 見る。

 

 聞く。

 

 覚える。

 

 だから、リンリンは忘れないようにした。

 

 忘れたくなくても、カルメルに笑いかけられると、忘れてしまいそうになるから。

 

 

 

 その日の昼、羊の家はいつもより騒がしかった。

 

 カルメルが大きな籠を持ってきたのだ。

 

 中には、小麦粉の袋。

 

 卵。

 

 バター。

 

 砂糖。

 

 それから、甘い匂いのする果物。

 

 子どもたちは目を輝かせた。

 

「マザー! お菓子作るの!?」

 

 ハンセルが真っ先に聞いた。

 

 カルメルはにこりと笑った。

 

「ええ。明日は特別な日ですからね」

 

「特別?」

 

 ロージーが首を傾げる。

 

「リンリンちゃんのお誕生日でしょう?」

 

 部屋の中が、一瞬静かになった。

 

 リンリンは、ぽかんとした。

 

「……リンリンの?」

 

「ええ」

 

 カルメルは微笑む。

 

「あなたがここへ来てくれた時に、教えてくれたでしょう。お名前と、誕生日のこと」

 

 リンリンは少し考えた。

 

 誕生日。

 

 そういえば、自分の誕生日のことを話した気がする。

 

 父と母が、昔、甘いものをくれた日。

 

 大きくなったねと言われた日。

 

 でも、その記憶はぼんやりしていた。

 

 捨てられた日の海の色が強すぎて、それより前の温かさは、少しずつ薄くなっている。

 

「明日……リンリンの誕生日?」

 

「そうよ」

 

 カルメルは優しく言った。

 

「みんなでお祝いしましょうね」

 

 お祝い。

 

 その言葉に、リンリンの胸が大きく跳ねた。

 

 食卓の匙が、かたりと揺れる。

 

 リンリンは慌てて手を押さえた。

 

 壊さない。

 

 まだ何も壊していない。

 

「リンリンの誕生日!?」

 

 ハンセルが声を上げた。

 

「じゃあ、ごちそうだな!」

 

「お菓子もある?」

 

 グレーテが聞く。

 

「もちろん」

 

 カルメルは籠の中から、甘い香りのする袋を少し持ち上げた。

 

「リンリンちゃんのために、とびきり甘いものを作りましょう」

 

 甘いもの。

 

 リンリンの目が輝いた。

 

 喉が鳴る。

 

 腹が鳴る。

 

 心まで鳴ったような気がした。

 

 甘いものが好きだ。

 

 大好きだ。

 

 お腹がいっぱいでも、甘い匂いがすると欲しくなる。

 

 手が伸びそうになる。

 

 でも、伸ばさない。

 

「リンリン、待つ」

 

 小さく言った。

 

 カルメルが笑う。

 

「まあ、えらいわ」

 

「明日?」

 

「ええ。明日のお楽しみ」

 

「うん」

 

 リンリンは頷いた。

 

 大きく頷きすぎないように。

 

 ゆっくり。

 

 ハンセルが隣で肩を叩こうとして、途中で止める。

 

 リンリンが驚かないように、という顔をしていた。

 

 それが嬉しかった。

 

「よかったな、リンリン」

 

「うん」

 

「俺たちも手伝うからさ!」

 

「リンリンも手伝う」

 

「お前が手伝ったら、台所壊れるんじゃね?」

 

 ハンセルは笑って言った。

 

 リンリンは少しだけ真剣に考えた。

 

「台所は、たぶん壊す」

 

「そこは否定しろよ」

 

「壊したくない」

 

「じゃあ、材料運ぶ係だな」

 

「運ぶ」

 

「でも全部持つなよ」

 

「うん。少しずつ」

 

 ハンセルは満足そうに頷いた。

 

 リンリンは、少しだけ笑った。

 

 一緒に持つ。

 

 全部を自分で持たない。

 

 それも少し覚えた。

 

 

 

 午後、子どもたちは誕生日の準備を始めた。

 

 部屋に飾る布を出す。

 

 小さな花を集める。

 

 食卓を拭く。

 

 薪を運ぶ。

 

 リンリンは、重いものを少しだけ持った。

 

 全部ではない。

 

 大きな鍋も持てる。

 

 粉の袋も全部持てる。

 

 水の樽も軽い。

 

 でも、全部は持たない。

 

「リンリンちゃん、それ一つだけでいいの?」

 

 グレーテが聞いた。

 

「うん」

 

「もっと持てそうなのに」

 

「持てる。でも、みんなの分なくなる」

 

「そっか」

 

 グレーテは少し考えてから笑った。

 

「じゃあ、一緒に運ぼ」

 

「うん」

 

 リンリンは水の入った小さな桶を持った。

 

 軽い。

 

 軽すぎて、手の中で揺れる。

 

 でも、こぼさないように歩く。

 

 グレーテは隣で桶を抱えている。

 

 少し重そうだった。

 

 リンリンは手を出しかけて、止める。

 

 グレーテは自分で持っている。

 

 手伝いをしている。

 

 それを奪わない。

 

「重い?」

 

「ちょっと」

 

「持つ?」

 

「大丈夫。リンリンちゃんはそっち持ってて」

 

「うん」

 

 リンリンは頷く。

 

 不思議だった。

 

 全部持ってあげる方が楽なはずなのに、そうしない方が、なぜか一緒にいる感じがする。

 

 それが少し嬉しかった。

 

 台所の近くでは、カルメルが材料を確認していた。

 

 粉。

 

 卵。

 

 砂糖。

 

 果物。

 

 そして、大きな器。

 

 リンリンは甘い匂いに釣られて、そちらを見てしまう。

 

 カルメルが気づいて笑った。

 

「明日まで待てるかしら?」

 

「待つ」

 

「本当に?」

 

「待つ」

 

「えらいわ、リンリンちゃん」

 

 カルメルはそう言って、リンリンの頬に手を伸ばした。

 

 リンリンは動かなかった。

 

 カルメルの手が、頬に触れる。

 

 小さくて、温かい手。

 

「あなたのために、みんなでお祝いするのよ」

 

 あなたのため。

 

 その言葉に、リンリンの目が少し潤んだ。

 

 自分のために。

 

 誰かが何かをしてくれる。

 

 それは、胸がいっぱいになることだった。

 

 リンリンは、カルメルの手に頬を寄せそうになった。

 

 でも、止まる。

 

 寄せすぎたら、押してしまうかもしれない。

 

 カルメルの細い腕を壊してしまうかもしれない。

 

 だから、動かない。

 

「ありがとう、マザー」

 

 そう言うと、カルメルの笑みが深くなった。

 

「どういたしまして」

 

 その笑みは優しかった。

 

 けれど、リンリンはふと、カルメルの後ろに置かれた帳面に気づいた。

 

 台所の棚の端。

 

 布で隠されている。

 

 昨日、夜に見たわけではない。

 

 でも、昼間の客が来た後、カルメルが何かを書いていたのを遠くから見た。

 

 あの帳面だろうか。

 

 リンリンは、じっと見てしまう。

 

「リンリンちゃん?」

 

 カルメルが声をかけた。

 

 リンリンははっとする。

 

「なあに?」

 

「……なんでもない」

 

「そう」

 

 カルメルは微笑む。

 

 でも、その手がさりげなく帳面の上の布を直した。

 

 隠すように。

 

 リンリンは、それを見た。

 

 覚えた。

 

 

 

 夕方になる頃、羊の家の外にまた人影があった。

 

 昨日の男たちとは違う。

 

 一人だけ。

 

 大きな外套を着た男だった。

 

 顔の半分を布で隠している。

 

 旅人にも見える。

 

 だが、リンリンは昨日の男たちを思い出した。

 

 歩き方が似ている。

 

 足音を消すような歩き方。

 

 カルメルは、子どもたちには家の中へ戻るように言った。

 

「もう寒くなってきましたからね。みんな、暖炉のそばへ」

 

「はーい」

 

 子どもたちは素直に戻る。

 

 リンリンも戻ろうとした。

 

 けれど、甘い材料の袋を抱えていたので、台所の横へ回った。

 

 その時、窓の外から声が聞こえた。

 

「明日か」

 

 男の声だった。

 

 カルメルが答える。

 

「ええ。誕生日ですから」

 

「騒ぎになるのでは」

 

「子どもたちだけです。問題はありません」

 

「例の新入りは」

 

 リンリンの足が止まった。

 

 例の新入り。

 

 たぶん、自分のことだ。

 

「まだこちらを疑っています」

 

 カルメルの声は、いつもの温かさより少し低い。

 

「だが、甘いものと祝福には弱いでしょう。あの年頃の子どもは、愛されたいものですから」

 

 愛されたい。

 

 リンリンの胸がぎゅっとなった。

 

 その通りだった。

 

 愛されたい。

 

 いい子だと言われたい。

 

 ここにいていいと言われたい。

 

 それは、リンリンの中にある本当の気持ちだった。

 

 でも、それを外から言われると、なぜか裸にされたようで怖かった。

 

「情をかけすぎるな」

 

 男が言った。

 

「もちろん」

 

 カルメルは笑った。

 

「情をかけているように見せるのが、私の仕事ですもの」

 

 リンリンは、桶を落としかけた。

 

 水が少し跳ねる。

 

 でも、桶は落ちない。

 

 床も割れない。

 

 リンリンは両手で桶を持ったまま、動けなかった。

 

 情をかけているように見せる。

 

 意味は、全部分からない。

 

 でも、分かったことがある。

 

 今の言葉は、子どもたちに聞かせる声ではない。

 

 リンリンに向ける「いい子ね」とは違う。

 

 ロージーに髪を直してあげる声とも違う。

 

 カルメルは、別の声を持っている。

 

「明日はよく見ておきます」

 

 カルメルは続けた。

 

「あの子が、どこまで感情で動くか。どこまで抑えられるか。甘いものへの執着も含めて」

 

「暴れるようなら?」

 

「その時は、その時です」

 

「価値が落ちるぞ」

 

「いいえ」

 

 カルメルは静かに言った。

 

「制御できない力も、使い道はあります」

 

 リンリンの指に力が入った。

 

 桶の縁が、少し歪む。

 

 水面が揺れる。

 

 だめ。

 

 壊すな。

 

 リンリンは息を吸う。

 

 ゆっくり吐く。

 

 桶を支える。

 

 壊さない。

 

 聞く。

 

 覚える。

 

「ただ」

 

 カルメルの声が、また柔らかくなった。

 

「できれば、あの子には私を母だと思ってほしい。そうすれば、扱いやすい」

 

 母。

 

 リンリンの胸に、その言葉が刺さった。

 

 母。

 

 お母さん。

 

 戻ってこなかった人。

 

 船で去っていった人。

 

 そして、今、優しい手で頭を撫でてくれる人。

 

 カルメルは、母になってくれるのではないのか。

 

 母だと思ってほしい。

 

 扱いやすいから。

 

 リンリンは、桶を持ったまま、動けなかった。

 

 やがて男の足音が遠ざかる。

 

 カルメルも家の奥へ戻っていく。

 

 リンリンは、しばらくそこに立っていた。

 

 水は少しこぼれていた。

 

 桶は歪んでいる。

 

 でも、割れていない。

 

 自分も、まだ暴れていない。

 

「リンリンちゃん?」

 

 グレーテが台所から顔を出した。

 

「どうしたの?」

 

 リンリンはゆっくり振り返る。

 

 グレーテは心配そうに見ていた。

 

「お水、重い?」

 

「……重くない」

 

「じゃあ、一緒に持つ?」

 

 リンリンは桶を見た。

 

 歪んでいる。

 

 けれど、まだ使える。

 

 グレーテに渡すには危ない。

 

「リンリン、持つ」

 

「そっか」

 

 グレーテは少し笑った。

 

「明日、楽しみだね」

 

「……うん」

 

「リンリンちゃんのお誕生日だもんね」

 

「うん」

 

 リンリンは頷いた。

 

 笑おうとした。

 

 でも、うまく笑えなかった。

 

 

 

 夜。

 

 羊の家では、子どもたちが明日の話をしていた。

 

「どんなお菓子かな」

 

「大きいやつがいい!」

 

「リンリンちゃん、大きいから、お菓子も大きくしなきゃ」

 

「みんなで食べるんだよ!」

 

 ロージーが言う。

 

 ハンセルが笑う。

 

「リンリンが全部食っちまうかもな!」

 

「食べない」

 

 リンリンはすぐに言った。

 

 子どもたちが驚く。

 

 リンリンは少し強く言いすぎたことに気づき、声を落とした。

 

「……みんなの分、なくなるから」

 

 ロージーがにこっと笑った。

 

「リンリンちゃん、優しいね」

 

 優しい。

 

 その言葉が痛かった。

 

 優しいと言われたい。

 

 でも、今日聞いた言葉が胸に残っている。

 

 情をかけているように見せる。

 

 母だと思ってほしい。

 

 扱いやすいから。

 

 リンリンは毛布を握りかけて、止めた。

 

 毛布が少し伸びた。

 

 でも、破れていない。

 

「リンリンちゃん?」

 

 ロージーが心配そうに覗き込む。

 

「眠い?」

 

「うん」

 

 嘘ではない。

 

 少し、疲れていた。

 

「明日、いっぱいお祝いしようね」

 

「うん」

 

「おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 子どもたちが眠っていく。

 

 リンリンは眠れなかった。

 

 目を閉じても、カルメルの声が聞こえる。

 

 あなたは、ここにいていいのよ。

 

 母だと思ってほしい。

 

 いい子ね。

 

 扱いやすい。

 

 たくさん食べて、もっと大きくなりましょうね。

 

 価値が落ちる。

 

 言葉が混ざる。

 

 優しい言葉と、冷たい言葉が同じ声で聞こえる。

 

 リンリンは、胸を押さえた。

 

 痛い。

 

 何かを壊したい痛みではない。

 

 何かが壊れそうな痛みだった。

 

 その時、足元の影が、ほんの少し揺れた。

 

 誰にも見えないくらい小さく。

 

 けれど、リンリンには分かった。

 

 影の中から、声がしたわけではない。

 

 でも、いる。

 

 スカディアが見ている。

 

 そう思った瞬間、リンリンは少しだけ息ができた。

 

「……ししょー」

 

 声は出さない。

 

 唇だけが動く。

 

 言ってはいけない名前。

 

 でも、心の中では呼べる。

 

 見る。

 

 聞く。

 

 覚える。

 

 リンリンは、もう一度その言葉を胸の中で繰り返した。

 

 商品。

 

 価値。

 

 提出。

 

 情をかけているように見せる。

 

 母だと思ってほしい。

 

 扱いやすい。

 

 そして、明日は誕生日。

 

 みんなが笑う日。

 

 甘いものが出る日。

 

 自分のために祝ってくれる日。

 

 それでも、忘れてはいけない。

 

 リンリンは、大きな身体を丸めた。

 

 誰かを潰さないように。

 

 毛布を破らないように。

 

 胸の中の痛みで、家を壊さないように。

 

 その夜、羊の家は静かだった。

 

 子どもたちは、明日の甘い匂いを夢見て眠っている。

 

 カルメルは別室で、帳面を閉じている。

 

 外では、冷たい風が吹いている。

 

 そして影の中で、スカディアは目を伏せた。

 

「よく聞いた」

 

 声は、誰にも届かない。

 

「なら、次は選べ」

 

 誕生日の前夜。

 

 リンリンはまだ知らない。

 

 明日、自分が何を欲しがるのか。

 

 何を失いかけるのか。

 

 何を食べ、何を手に入れ、何を二度と戻せなくなるのか。

 

 ただ、ひとつだけ分かっていた。

 

 優しい母の匂いの奥に、冷たいものがある。

 

 それを、忘れてはいけない。

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