機動戦士ガンダム 地球に幽閉され去勢工作に囚われたアムロ・レイ、錆び付いた魂の檻を振り切り、ベルトーチカとのドッキングで野生の獣へと覚醒する 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
地球の重力という名の、絶対に脱出不可能な暗黒のブラックホール。その最深部で、僕の男としてのメインジェネレーターは、ついに完全な臨界電圧(完全な機能停止)を迎えていた。
その男の名はアムロ・レイ。
かつて一年戦争において、圧倒的な反応速度と超絶的な直感でジオン公国軍のモビルスーツを紙クズのようにスクラップに変え、宇宙のすべてから「白い悪魔」と恐れられた人類史上最強の撃破王。
しかし。現在の状態を、最新のサイコ・プロファイリングの測定器を用いて無慈悲に開示するならば。
大人の女性が仕掛けたハニートラップの嘘に絶望して重度の機能不全(EDモード)を発症。さらに現実逃避のために開通させた「脳内ララァ妄想」にすら、自分自身の罪悪感が作り出したララァの幽霊(本物)にガチでドン引きされてベッドから転げ落ち、新しくやってきたティターンズの冷酷な看守たちの「悪意のプレッシャー」によって脳内のララァまでが軍服を着て鞭を振るうハイパーSM拷問室に変貌。
外の世界も怖い、連邦の女も怖い、ララァの幻影にも怒られるという地獄の三重苦のなかで、精神を完全に磨り潰され飼い殺されている、23歳のウジウジ引きこもりニートである。
時は流れ宇宙世紀0087年、初頭。
ティターンズによる冷酷な監視体制(サイコ・コントロール)は、日を追うごとにその残忍さを増していた。
娯楽をすべて没収され、真っ白な壁だけに囲まれた無菌室のような寝室。1日3回、栄養素のみを計算されたディストピア感溢れる味のないグレーのペースト状の食事。そして、耳が痛くなるほどの「完全な孤独」。
僕の過敏すぎるニュータイプ・センサーは、逃げ場を失った結果、ついに自分自身の精神の奥底(暗黒面)へとその触手を伸ばし始めていた。
「もう嫌だ……。外の世界を見るのも、何かを考えるのも嫌だ……。僕が何かを妄想すれば、すぐにティターンズの軍服を着たララァが現れて僕を冷たく罵るんだ……!」
シーツを頭からすっぽりと被り、ベッドの上で完全に膝を抱えて丸くなっていた。
カタカタと震える右手は、かつてガンダムの操縦桿を握り、宇宙を救った手だというのに、今のその右手には、もうおもちゃの飛行機(模型)のバリを削るヤスリすら握られていない。完全に牙を抜かれ、魂まで地球の重力に引かれた、ただの肉の塊。
どこからか、宇宙の彼方からシャア・アズナブルが「アムロ! 私が見込んだお前という男が、自室のベッドのなかで自分自身のウジウジした妄想のビーム・サーベルに貫かれて自滅しているだと!? ガチで情けなさすぎて涙も出んわッ!」と、頭を抱えて絶望しているような強烈なプレッシャー(精神波)が伝わってくる気がするが、今の僕にはそれをパージするエネルギーすら1ミリも残されていない。
「もう……何も見えない……。何も聞こえない……。僕のガンダム(意味深)は、二度と起動することはないんだ……」
絶倫ジェネレーターは、この宇宙世紀0084年の極寒の夜、完全なる「凍結(コールドスリープ)」を迎えた。
性的リビドーも、戦う意志も、生きる気力すらも、すべてが地球の重力の檻のなかに吸い込まれ、消滅していく。その瞬間、脳内のすべての幻影は一瞬で漆黒の闇へとフェードアウトし、凄まじいまでの虚無感(永続賢者タイム・ディザスター)が精神を完全に支配した。
「人間のクズだな、僕は……」
ウジウジとした魂の呟きは、ティターンズが設置した高感度マイクに拾われ、地下の監視ルームへと筒抜けになっていた。
ジャミトフらが仕掛けた、かつての「白い悪魔」を去勢する計画は、今まさに完全なる「絶望の終着駅(デッドエンド)」へと到達したはずだった。
ガチャン。
重々しい電子ロックが解除され、部屋の扉が開く音がした。
また味のないグレーのペーストを持ってきた看守か……そう思ってシーツの隙間から虚無の瞳を向けた瞬間。
ピキィィィィィン!!!
凍結していたはずの僕のニュータイプ・センサーが、突然、過電圧で焼き切れんばかりの強烈なプレッシャーを緊急キャッチした。
入ってきたのは、黒い軍服を着たティターンズの白衣の科学者たち。そしてその中央に、周囲の大人たちに怯え、今にも泣き出しそうな表情でボロボロのパイロットスーツを着た一人の少女が立っていた。
「……検体SB-9号(ロザミア)、前方ベッドの男を見ろ。彼がお前の『新しいお兄ちゃん』だ。お前をすべての恐怖から守ってくれる存在だ。脳波同調プロセス、開始」
科学者が冷酷に告げる。それは、オーガスタ研究所でアムロの脳波を基準に調整され、重度の幼児退行を起こした17歳の強化人間――ロザミア・バダムを、アムロの脳波と直接共鳴させるという最悪の接触実験(リアル邂逅)だった。
ロザミアは怯えた瞳で、ベッドの上でシーツを被り、ウジウジと丸くなっている22歳の僕を見た。
「……お、お兄ちゃん……?」
ロザミアの口から、100%の純度と依存を含んだ言葉が漏れた瞬間、僕の脳髄へとダイレクトに、あまりにも異質で、あまりにも強烈なサイコ・パルスが突き刺さった。
『……こわい! 空が落ちてくる! お兄ちゃん……どこなの!? お兄ちゃん、助けてぇぇぇぇッ!!』
「な……なんだ、この圧倒的な精神波は……!? 連邦のプロ美女たちの『嘘の愛』とも違う、ララァの『冷徹な正論』とも違う……! 激しい恐怖とトラウマ、だけど目の前の僕という存在を本能的に『お兄ちゃん』と呼んで、100%盲目的に求めてしがみついてくる……! 17歳の大人の肉体を持った【精神的幼児(駄々っ子ロリ属性)】の超巨大な生エネルギーが、すぐ目の前から僕に向かって放射されているぞ……!?」
ティターンズがアムロを完全に壊すために送り込んだ、最後の実験動物。しかしそれが、全肯定を渇望していたアムロの壊れかけた脳内回路に、最強の電流を流し込んでしまったのだ。
「お兄ちゃん! お兄ちゃんなのね!? あたしを置いていかないでぇっ!」
科学者たちの制止を振り切り、ロザミアが僕のベッドへと飛び込んできた。
17歳の、まだ少女の柔らかさを残した肉体がシーツ越しに激しく僕を押し包み、涙を流しながら僕の胸ぐらに顔を埋めて、全力で甘え、おねだりしてくる。
嘘をつかない。僕を責めない。ただ僕の庇護だけを100%の無垢さで待っている、巨大な精神の苗床が、今、僕の腕の中にリアルに存在する。
22歳のウジウジニート少尉の精神のなかで、まったく新しい「救済の回路(シスコン・バースト)」が爆速で開通した。
ロザミアの絶望と甘えのサイコ・パルスが、アムロの錆び付ききったガンダム(意味深)を、実に数ヶ月ぶりに激しく、そして凶悪なまでに起立させる。
地下の監視ルーム。
「……待て! アムロ少尉のバイタルが急上昇している!? 凍結していたサイコ・フレームの数値が、ロザミア検体とリアル接触した瞬間から異常数値を叩き出しているぞ! なんだこの『お兄ちゃん・モード』とでもいうべき未知の防衛反応は!?」
「バカな、去勢は完了したはずだ! なぜ『人間のクズ』と呟いていた男の瞳に、こんな禍々しいまでの活力が戻っているんだ……っ!」
ティターンズの指揮官たちが驚愕に目を見開く。
アムロはロザミアをその細い両腕でしっかりと抱き締め、ギラギラとした、かつての「白い悪魔」とは全く違う、何か一線を越えてしまった男の目で、部屋のカメラを睨みつけていた。
「(まだだ……まだ僕のジェネレーターは死んでいない。ティターンズめ、僕を檻に閉じ込めたまま、あんな極上の全肯定セーフティエリアを僕のベッドに直接放り込んでくるとはな……っ。この子は僕の妹だ。僕が守る。そのためなら、僕はもう一度ガンダムにだって乗ってやる……っ!)」
精神の暗黒回路は、目の前のロザミィという名の「奇跡の燃料」によって完全に再点火された。
ティターンズの科学者たちは、実験の「成功」とアムロの「想定外の復活」に怯えながら、大急ぎでロザミアをアムロから引き離し、再びオーガスタの奥深くへと連れ戻していった。だが、その一瞬のリアル邂逅こそが、語られざるもう一つの「変態サイコ戦のミッシングリンク」だったのだ。