機動戦士ガンダム 地球に幽閉された英雄のRX-78(意味深)が限界突破のフルドライブ! 連邦軍上層部、アムロの夜のニュータイプ能力を恐れてハニートラップの仕込みを開始する   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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さよなら、ベルトーチカ。そして、すべての重力へ。

アウドムラの整備デッキ。夜。

 

ディジェのコクピットに腰を落ち着け、整備チェックのルーティンをこなしながら、静かに目を閉じていた。

 

アムロ・レイ23歳。

 

ケネディ基地の滑走路での「世紀の復活劇」から数週間、大人の女への恐怖(連邦の監視と幽閉生活によるトラウマ)というバグを完全にアンインストールし、ベルトーチカ・イルマという「外見19歳・中身は純度100%のわがまま幼児」という奇跡的な存在によってメインジェネレーター(意味深)を正常起動させることに成功した。今や、地球のどんな重力にも動じることのない「再起済みの白い悪魔」として、カラバの空に舞い戻っている。

 

そのはずだった。

 

「アムロ! コクピットで一人で何してんのよ! 私を置いて黄昏れないでちょうだい!」

 

バタンッ! と整備デッキのハッチが開き、タラップを踏み鳴らしながらベルトーチカが飛び込んでくる。金髪ショートカットが乱れ、明らかに走ってきた様子だ。

 

「……ベルトーチカ。こんな夜中に何しに来た」

 

「何しに来たって! 明日の作戦会議でカミーユが『アムロさんには最前線で囮を』とか言い出して、私がちゃんと反対しておいてあげたのに、あなたが全然感謝しないから文句を言いに来たのよ!」

 

ベルトーチカは金属製の整備台の上に仁王立ちし、膝に手を突いてコクピットのアムロを覗き込んだ。その瞳に、大人の女の計算など1ビットも存在しない。あるのは、「私の大事なおもちゃが傷ついたら誰が責任とるのよ!」という、幼児の直球すぎる所有欲だった。

 

ピキィィィィィン!

 

「(……この女のことが心配だ。それは確かだ。だが、その感情の出力がどこから来るのか、今の僕にはまだ正確に測定できていない)」

 

「ちょっと聞いてる!? あなたって人は! 私、あなたのことが心配だから……!」

 

ベルトーチカの声が、一瞬だけ、子供特有の甲高さを失って、奇妙に揺れた。

 

ピキィィィィィン!

 

「(……心配? 今の彼女の精神波に、わがままとは別の種類の波動が混じった。あれは……純粋な「恐怖」だ。失うことへの、原始的な恐怖)」

 

「……うるさいよ、ベルトーチカ」

 

コクピットから降り、彼女の目線に合わせてしゃがんだ。

 

「心配してくれるなら、ちゃんと休んでいてくれ。僕は必ず戻る。君の横に」

 

「……絶対よ!? 約束しなさいよ! もし死んで帰ってきたら、私、あなたの遺体に対して一年中文句を言い続けるんだから!」

 

ベルトーチカは唇を尖らせ、精一杯の強がりで僕を睨んだ。その目の奥に、透明な光が揺れていた。

 

「……ああ、約束する」

 

笑い返した。このわがまま金髪美女の存在が、今の僕にとっての一番のスラスターだ。

 

その夜、彼女は整備デッキの固い床に座り込み、僕の整備チェックが終わるまでずっと隣にいた。一度も「帰る」と言わなかった。

 

翌朝、アウドムラの作戦室。

 

ホログラム・マップの前に、カラバとエゥーゴの主要メンバーが集結していた。カミーユ・ビダン17歳(Zガンダム)、クワトロ・バジーナ(仮の名で通しているが、僕にはとっくにバレているシャア・アズナブルの百式)、ハヤト・コバヤシ館長、ファ、そして「お前が発言する場じゃないわ!」と今にも叫びそうな顔のベルトーチカが壁際で腕組みをしている。

 

「アムロさん、今回の作戦はシンプルです」とカミーユが言う。「ティターンズのキリマンジャロ基地周辺に、敵の防衛部隊が集結しています。アウドムラと地上のカラバ全戦力で連携し、今この包囲網を打ち破る。あなたにはディジェでの突破口の形成をお願いしたい」

 

「却下よ!」

 

ベルトーチカが壁際から瞬速で割り込んだ。

 

「アムロを囮になんかさせたら、誰が私のために最高の活躍をするのよ! カミーユ、あなたは自分のZガンダムで突っ込みなさい! アムロは私の隣で後方支援よ!」

 

「……ベルトーチカさん、これは戦略上の問題であって――」

 

「私の問題でもあるの!」

 

「ベルトーチカ、うるさい」とシャアが静かに言った。「アムロ、久しぶりだな」

 

シャアはその「クワトロ」フェイスモードを解除したわけではないが、僕に向ける目だけはいつも通りの「俺たちの因縁を知っているだろう」という密度だった。

 

「……久しぶりだな、シャア。相変わらず仮面をつけない仮面貴族のままか」

 

「相変わらず遠慮がないな、君は」とシャアは薄く笑う。「だが、それでいい。今日の作戦で必要なのは遠慮ではなく、今この戦場に全力で存在し続ける意志だ。君にはそれがある。かつてのア・バオア・クーで、僕が認めた通りにな」

 

ピキィィィィィン!

 

「(……シャアのやつ、珍しく素直に言う)」

 

カミーユが「では、決定でいいですね」と地図を指差した。僕は頷く。ベルトーチカが「認めてないわよ!」と叫んだが、ハヤト館長が「ベルトーチカさん、これは軍の会議です」とやんわり遮った。

 

「……行くよ、ベルトーチカ。必ず戻る」

 

「……約束、覚えてんでしょうね」

 

彼女は低い声で言い、視線を外した。その横顔に、いつものわがままの代わりに、なにか重くて静かなものが浮かんでいた。

 

地球の空。青と雲の境界線。

 

ディジェのコクピットに全身を沈め、スロットルを押し込んだ瞬間、全身の細胞が戦場の電圧で満ちていくのを感じた。

 

ティターンズの機影が、センサーの中で無数に踊っている。アッシマーの部隊、ガルバルディβ、ハイザック。そしてその中心に、異常な精神波を放つ存在があった。

 

ピキィィィィィン!

 

「(……強い。ニュータイプ、もしくはそれに近い強化人間か。あれだけの殺意と意志が、大気のノイズを突き抜けて届いてくる)」

 

「アムロさん! 右舷から二機!」

 

カミーユの声が通信機に響く。ウェーブライダーから変形したZガンダムの残光が僕の視界を横切り、先頭の一機を斬り抜けた。

 

「わかってる!」

 

ディジェのビームライフルが、精密な予測射撃で残りの一機を無力化する。モビルスーツを「破壊」ではなく「無力化」する判断が、今の僕の手癖になっていた。ニュータイプとして生きてきた代償の一つだ。パイロットの気配を感じてしまう以上、むやみに殺すことが、魂に直接刻まれるノイズになる。

 

「カミーユ! 中央突破は僕が開ける。君はZガンダムの機動性で左翼の包囲を崩してくれ!」

 

「了解! でも無理しないでくださいよ!」

 

「無理をしない奴が一年戦争を生き抜けるか!」

 

ディジェの背部放熱フィンが風を切り、スラスターが全開になって機体が大空を突き破る。ティターンズの陣形が、蜘蛛の巣のように絡み合ってくる。精神波の嵐の中で、僕の意識だけが静止しているような奇妙な時間が流れていた。

 

ピキィィィィィン!

 

「(……そうだ。これがニュータイプの、本当の意味だ。殺し合いのためじゃない。この広い世界の中で、互いの存在を認識し合うために研ぎ澄まされた、命の形だ)」

 

砲撃が来た。回避しながら、三機を同時に無力化した。爆発の光が白い花弁のように散る。その中心で、ディジェは静かに軸を保っていた。

 

「アムロさん、包囲網に穴が開いた! 今です!」

 

「シャア! 今が好機だ!」

 

「言われずともわかっている!」

 

クワトロ……シャアの百式がドダイ改を駆り、颯爽と包囲の穴へ向かう。その動きは、やはりどこかに一年戦争の「赤い彗星」の残影を宿していた。

 

ティターンズの陣形が崩れていく。それを確認した瞬間、巨大な精神波が正面から僕を直撃した。

 

ピキィィィィィン!!!

 

「(強化人間……! ティターンズが地上の決戦に投入してきた、肉体と精神を改造されたパイロットたちか)」

 

目の前に、重武装の新型モビルスーツが三機、雲を割って現れた。

 

激しい戦闘の中で、奇妙な静けさが訪れた。

 

強化人間のパイロットの精神波が、大気圏のただ中に滲み出していた。痛みだ。改造手術の痛み。記憶を切り取られた痛み。「人間である」ことを無理やり上書きされた、消しようのない絶叫が、機体の向こうから絶えず流れ出していた。

 

ピキィィィィィン!

 

「(……聞こえる。お前たちの声が聞こえる)」

 

ディジェのビームナギナタが、相手の関節を狙って正確に無力化する。コクピットは傷つけない。それだけを、徹底した。

 

「(生きていてくれ。戦争が終わったら、きっと君たちを取り戻せる人間がいる。カミーユのような、感じすぎるほど感じる馬鹿が、必ずいる)」

 

ピキィィィィィン!

 

その瞬間、強化人間のパイロットの精神波が、怒りから別の何かへと変化した。

 

……感謝、だった。

 

壊れかけた記憶の奥底から、「人間だった頃の自分」が震えながら送ってくる、か細い感謝の信号。それが、戦場を一瞬だけ、柔らかく照らした。

 

ディジェのコクピットの中で、気づいたら泣いていた。涙の理由が、今の僕にはわかった。怒りでも悲しみでもない。この地球に生きる命たちが、互いの存在をただ「認識した」という、それだけの事実への、溢れるような肯定だった。

 

「(……これが、ニュータイプが本来持っているはずの力だ。殺すためじゃない。理解するための力。ララァが言いたかったことは、これだったのかもしれない)」

 

ピキィィィィィン……。

 

どこか遠い記憶の彼方から、かすかな気配が触れた気がした。怒っているでも悲しんでいるでもない、静かで穏やかな存在感。あの懐かしい色の精神波。

 

「(……ララァ)」

 

その気配は、ほんの一瞬だった。だが、そこに確かにあった。

 

「(……ありがとう。君に怒られながら、7年かけて、やっとここまで来られた。もう大丈夫だ。前を向ける)」

 

ララァの気配は、何も言わずに消えていった。怒ってもいなかった。悲しんでもいなかった。ただ、静かに、肯定してくれていた。

 

通信機にノイズが走った。

 

「アムロ! アムロ! 返事しなさいよ! センサーから反応が消えかけたじゃない! 死んでないわよね!!」

 

ベルトーチカだった。その声の奥に、わがままの駆動音の下から、震えが混じっていた。

 

アウドムラの格納庫。帰投後。

 

ディジェのコクピットのハッチを開けた瞬間、格納庫の空気が変わった。

 

ピキィィィィィン!

 

「(……全員、生きて戻った。それだけで十分だ)」

 

タラップを降りかけた瞬間、ドタドタタッという猛烈な足音が格納庫に響き渡った。

 

「アムロォォォォッ!!!」

 

ベルトーチカが全力疾走で格納庫に飛び込んできた。金髪が完全に乱れ、目が赤くなっている。明らかに泣いていた。大人の女のプライドもカラバのエージェントとしての矜持も全部かなぐり捨てた、完全なる全開駄々っ子モードだった。

 

「遅い! 遅すぎ! 何よあの通信途絶! 私がどれだけ心配したと思ってるの! 死にかけてたでしょ! なんで死にかけるの! 私と約束したじゃない! 帰るって言ったじゃない! 遅い! 遅い! バカ! 帰ってきたけどバカ!」

 

ベルトーチカは一気にまくしたてながらタラップを駆け上がり、降りてきた僕の腕を両手でガッシリと掴んだ。

 

ピキィィィィィン!

 

「(……泣いている。本当に、泣いている。怒りや駄々っ子のパフォーマンスじゃない。僕が死ぬかもしれないと、本当に怖かったんだ)」

 

「ベルトーチカ」

 

「何よ! 文句あるの!? 文句言う前に謝りなさい! 謝った後でも文句言うけど!」

 

「……ありがとう」

 

ベルトーチカの動きが、ピタリと止まった。

 

「…………え?」

 

「心配してくれて、ありがとう。待っていてくれて、ありがとう。7年間、ずっと幽閉されて壊れたままだった僕の前に来てくれて、ありがとう。君のわがままが、僕の一番のスラスターだった」

 

ベルトーチカは数秒間、まったく動かなかった。

 

「…………な、なによそれ。いきなり恥ずかしいこと言わないでよ」

 

声が、完全に割れていた。

 

「私、あなたのことが……あなたのことが、好きだから……心配するのは当然でしょ……。バカ……」

 

精神的ロリのわがまま金髪美女が、初めて正直な言葉を言った瞬間だった。

 

格納庫の隅で、カツが「……なんか、アムロさんが久しぶりにまともなことしてる」と呟いた。ハヤトが「ようやくか……」と静かに微笑み、工具を片付けた。

 

「……好きだよ、ベルトーチカ。君の、全部が」

 

ベルトーチカは一瞬だけ目をぱちくりさせ、それから顔を覆って嗚咽した。わがままではなく、駄々っ子でもなく、純粋な涙だった。

 

その涙が格納庫の床に落ちた時、7年分のトラウマと罪悪感と幽霊たちが、静かに、地球の重力の向こうへと流れていった気がした。

 

それから数日後、アウドムラは次の任務へと動き出していた。

 

展望窓から外を眺めながら、久しぶりに地球の空の青さと、その向こうにある星の多さに気がついた。

 

連邦の監視によるトラウマも。かつてのホワイトベースの仲間たちへの複雑な想いも。ララァの幽霊に囚われ続けた7年間も。ロザミアとの邂逅も。カツやハヤトからの無言のプレッシャーも。全部含めて、今の自分を構成する記憶になっている。重くない。もう、重くない。

 

「アムロ! なにぼーっと立ってんのよ! 朝食が冷めるじゃない! 私の分も持ってきてって言ったでしょ! 聞いてた!?」

 

通路の奥から、ベルトーチカの声がアウドムラ全体に響き渡った。

 

ピキィィィィィン!

 

「(……今日も出力全開だな、このわがまま金髪美女は)」

 

笑いながら、朝食に向かった。

 

ティターンズとの戦いは、まだ終わっていない。宇宙世紀の覇権を巡る、長い長い戦争の途中だ。きっとこれからも、理不尽な重力に引きずられる夜はある。

 

だけど。

 

「(……今ここに、僕が存在している。戦場に、仲間たちが存在している。そしてあの金髪のわがまま少女が、この地球のど真ん中で「私のために戦え」と叫んでいる。それだけで、十分すぎる)」

 

地球の重力なんて、もう怖くない。

 

宇宙の孤独なんて、もう怖くない。

 

大人の女なんて、もう怖くない。

 

ベルトーチカが「遅い!!!」と叫んだ。

 

僕は全速力で走った。

 

宇宙世紀のメインジェネレーター(意味深)は、今日も最高出力で燃え続けている。

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