機動戦士ガンダム シャアが絶望する 幽閉先でリハビリを極めたアムロ・レイ、最初からハイパー・メガ・ランチャーを素手で弾く 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
重力という名の底なしの泥沼。そこで僕の男としての戦闘システムは、完全に腐敗(オーバーホール)の危機を迎えていた。
その男の名はアムロ・レイ。
かつて一年戦争において、圧倒的な超反応でジオン公国軍を恐怖に陥れた人類最強の超天才パイロット。
しかし。
現在の状態を冷徹にプロファイリングするならば。
宇宙世紀0083年、秋。宇宙ではデラーズ・フリートによる「星の屑作戦」が発動し、ガンダム試作2号機が強奪され、オーストラリアから宇宙へと戦火が拡大している激動の時代。そんななか、北米の豪華な邸宅で、大人の女性への恐怖心から機能不全(EDモード)を極め、クローゼットの暗闇で膝を抱えるだけの、哀れな19歳の引きこもりニート少尉である。
ピキィィィィィン!
僕の脳内センサーは、宇宙で誰かが新型ガンダム(試作1号機や2号機)の操縦桿を必死に握り、叫んでいる精神波をビンビンに受信していた。
『(ウラキ少尉、突撃します! / ニナ……! 僕は、僕は……ッ!)』
「くっ……! 宇宙(そら)で、誰かがガンダムに乗って戦っている……! なのに、なぜ僕はここにいるんだ……ッ!?」
焦燥感と無力感で狂いそうになる僕の前に、連邦政府が新たに投入した最高級の心理工作員――「高級娼婦(エージェント)」の美女が送り込まれた。
クローゼットの隙間から差し込んだ光の中に立っていたのは、軍服に身を包んだ、あの忘れもしないウェーブの髪の女性。
「マチルダ……さん……?」
ピキィィィィィン! と脳内センサーが激しくスパークする。
だが、そんなはずはない。マチルダ・アジャン中尉は、一年戦争のオデッサ戦線でドムの踏み台にされ、僕の目の前でトリプル・ドムに押し潰されて戦死したはずだ。
彼女は、連邦情報部がアムロの去勢状態を最終チェックするために、巨額の予算(国家予算レベル)を投じてプロファイリングし、整形手術と徹底的な演技指導、さらには声帯の外科手術まで施して再現した「偽マチルダ」――大人の色気とアムロにとっての原トラウマを極限まで融合させた「対アムロ用最終兵器」だった。
「アムロ少尉……寂しい夜は、私にそのガンダム(意味深)を補給させてみませんか?」
かつて憧れたあの凛とした、しかしどこか母性を感じさせるハスキーな声で囁きながら、彼女は軍服のファスナーをパージし、圧倒的な大人の肉体で迫ってくる。
その瞬間、僕の脳裏にかつてホワイトベースの艦内で、彼女と初めて手が触れ合った瞬間の、あの甘酸っぱい、けれど圧倒的な「大人の女性への憧憬」がフラッシュバックした。ミデア輸送機の前で誇らしげに敬礼していた彼女の姿が、生々しく蘇る。
ピキィィィィィン!
だが、僕の超鋭敏なニュータイプ・センサーが、彼女の脳内を強制ハッキングした瞬間、その美しい記憶は無残に切り裂かれた。
『(このウジウジ引きこもり男が伝説の英雄? 死んだ女の顔に変えられてまで抱かれるのは反吐が出るわ。でも、これさえ成功すれば、連邦から一生遊んで暮らせる特別ボーナスが私の口座にドッキング(入金)されるのよ。早くさっさと直立させて、任務を終わらせたいわ。ウッディとかいう死んだ男との婚約エピソードを泣きながら語れば、この童貞はすぐに落ちるってプロファイルにあった通りね)』
「……嘘だっ!!」
僕は叫んだ。
やはり大人の女は怖い。僕の神聖な思い出、マチルダさんが僕に遺してくれた「あなたはエスパーかもしれないわね」というあの優しい言葉さえも利用し、その笑顔の裏には連邦の冷酷な計算と、強烈な蔑みがノイズとして渦巻いている。
「君はマチルダさんじゃない! マチルダさんは、僕に戦う意味を教えてくれた人だ! 僕を化け物としてしか見ていないんだね……! 連邦のボーナスのために、僕の機体を無理やり起動(起動テスト)しようとしているんだろぅぅぅぅッ!!」
「あら、バレちゃった? でも、男の子なら、これを見てもガンダム(意味深)が起動しないなんて、パイロットとして失格よ?」
偽マチルダは冷酷に微笑み、マチルダさんの面影を残したまま、錆びついた操縦桿を強引にホールドした。
連邦の罠だと100%理解している。このドッキング(行為)のすべての生体データが、地下の監視ルームのサーバーへ爆速で流し込まれていることも判っている。
だが、宇宙でのデラーズ紛争のプレッシャー、フラウに捨てられた孤独、そして何よりも「あのオデッサで、本物のマチルダさんのミデアを、僕が、ガンダムが守りきれなかった」という強烈な自責の念と自暴自棄が、僕の回路を狂わせた。
「あああああッ! もうどうにでもなれ! マチルダさん、守れなかった僕を、僕のエネルギーごとすべてパージしてくれぇぇぇぇッ!!」
絶望と憎悪、そして届かぬ過去への未練にまみれたリビドーを爆発させ、マチルダさんの偽物の肉体へと突撃(爆速ピストン)した。
大人の女性への恐怖。連邦への憎しみ。それらすべての負の感情を推進力(プロペラント)にして、僕の壊れたガンダムは、涙を流しながら空虚なピストン運動を繰り返した。偽マチルダの豊かな胸に顔を埋めながら、僕はただ、あの黒い三連星のドムの幻影を、自分の無力さを突き動かすように、狂ったようにピストンを刻み続けた。
連邦の監視カメラの前で、ただの「去勢確認用の実験動物」として、憧れの人の偽物とドッキングさせられているのだ。
……だが。
その空虚な絶頂(カウントダウン)の刹那、脳内に、あのララァ・スンの幻影が冷ややかにフラッシュバックする。
『アムロ……あなた、そんな死んだ大人の女の嘘にまみれたコクピットで、一体何を撃ち出しているの……? マチルダさんは、あなたのそんな情けないピストンを望んで死んだわけじゃないわ……』
ピキィィィィィン!
「……違うっ! 僕が求めているのは、こんな、連邦の予算で動くハニートラップなんかじゃないんだぁぁぁぁぁッ!!」
偽マチルダを突き放し、ベッドの上で全裸のまま号泣した。
事後の圧倒的な賢者タイムが、絶対零度の宇宙のように僕を包み込む。
結局、この衝動さえも、連邦が用意した最高級のプログラムの枠内(手のひらの上)で踊らされていたに過ぎない。マチルダさんの思い出さえも消費され、宇宙で誰かが命がけでガンダムを操縦している裏で、地球の豪華なベッドで、死んだ人の嘘に溺れてウジウジと自滅しているのだ。
「人間のクズだな、僕は……。こんなところで、何をやっているんだ……」
偽マチルダは冷めた目で軍服を拾い上げ、「生体データの回収完了。アムロ・レイの精神は完全に崩壊、制御可能です」と通信機に囁き、部屋を去っていった。
僕は再び、クローゼットの暗闇へと潜り込み、膝を抱えてシーツを噛み締めた。
19歳。宇宙が戦火に包まれるなか、僕のマグネット・コーティング(意味深)は完全に焼き付き、二度と起動しない永久不変の機能不全へと沈没していった。
そして、この絶望的な精神崩壊の果てに、脳内に直接ララァの幽霊が常時接続(オンライン)されるという、さらなる狂気の第9話(U.C.0083年・冬)へと、暗黒の時間軸は繋がっていくのだった――。