機動戦士ガンダム 地球に幽閉され去勢工作に囚われたアムロ・レイ、錆び付いた魂の檻を振り切り、ベルトーチカとのドッキングで野生の獣へと覚醒する 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
重力という名の底なしの暗黒。
そこで僕の精神回路は、ついに現実と幻影の境界線を完全に見失い、破滅への最終カウントダウン(チェックメイト)を迎えていた。
その男の名はアムロ・レイ。
かつて一年戦争において、圧倒的な空間認識能力でジオン公国軍を恐怖のどん底に叩き落とした人類史上最強の超天才ニュータイプ。
しかし。
宇宙世紀0083年、冬。宇宙での「デラーズ紛争」はコロニー落としの惨劇とともに終結し、世界がさらなる混迷へと向かうなか、20歳の冬は、豪華な軟禁部屋のクローゼットの暗闇のなかで、全裸で膝を抱えて号泣するだけの凄惨な引きこもりニート生活の中にあった。
大人の女性への恐怖心(EDモード)を連邦の心理実験(高級娼婦)によって完全にハッキングされ、男としての自信を永遠にパージされ壊れた脳内に、ついに「その時」が訪れた。
ピキィィィィィン!
僕の超鋭敏なニュータイプ・センサーが、かつてないほどクリアな精神波をキャッチする。
『アムロ……あなた、本当に情けない男ね』
「ら、ララァ……ッ!? ララァ・スンなのか!?」
暗いクローゼットの隙間から差し込む光のなかに、彼女は立っていた。
だが、その姿は、記憶にあるエルメスのコクピットにいたインド服の少女ではない。
彼女が身にまとっていたのは、冷酷な地球連邦軍将校の、あの威圧的な軍服だった。
連邦政府が僕の脳波を24時間体制で監視し、去勢データを吸い上げ続けた結果、深層心理にある「ララァへの罪悪感」と「連邦への恐怖」が脳内で最悪のドッキング(融合)を果たし、独自の脳内回路(脳内ララァ)として常時接続(オンライン)されてしまったのだ。
『あなたが重力の底でウジウジと全裸でピストン運動の真似事をしている間に、宇宙ではたくさんの命が吸い込まれていったわ。ガンダムを錆び付かせたあなたに、もう私と交信する資格なんてないのよ』
連邦軍服を着た脳内ララァの冷徹な正論(メガ粒子砲)が、脳内コクピットを直撃する。
「違うんだララァ! 僕だって宇宙へ上がりたい! ガンダムの操縦桿を握りたいんだ! でも、大人の女の人が怖くて……連邦のシステムが僕のマグネット・コーティング(意味深)を完全に去勢してしまったんだよぉぉぉぉッ!」
『言い訳ね、アムロ。あなたはただ、戦うのが怖いだけよ。ハヤトにフラウを奪われ、子供たちという心のオアシス(カツ・レツ・キッカ)もパージされ、クローゼットの隅で自分の右手のコントロールを狂わせているだけの、哀れな19歳の化け物……』
「うわぁぁぁぁぁッ! 僕は人間のクズだ! 白いウジウジ悪魔なんだぁぁぁぁぁッ!!」
全裸のまま、洋服のハンガーをなぎ倒してのたうち回った。
この脳内ララァの発言は、僕の超感覚が「連邦の監視員たちが裏で僕を笑っている思考」をリアルタイムで受信し、彼女の口を借りて再生している自傷システム(サイコ・フィードバック)だった。
敵の悪意も、身内の軽蔑も、すべてがララァの美しい声で脳内にダイレクト・インしてくる。逃げ場など、この地球のどこにも存在しない。
「もうやめてくれ、ララァ……。僕の機体(意味深)は、もう二度と起立しないんだ……。連邦の思い通りに去勢されてしまったんだ……!」
事後の圧倒的な賢者タイムのような絶望が、永続する重力となって魂を地面へと磨り潰す。
再びクローゼットの最深部へと潜り込み、シーツを頭から被ってガタガタと震えた。脳内ララァは、連邦軍服の冷たい裾を翻し、蔑みの笑みを浮かべながら視界のなかで静かにフェードアウトしていった。
そして、邸宅の地下監視ルーム。
「……チェックメイトだな。アムロ・レイ少尉の精神波は完全に固定された」
「ええ、宇宙でのデラーズ紛争終結のショックと、連邦軍への恐怖心が、彼の脳内でララァ・スンの幻影と完全にドッキングしたようです。今や彼は、こちらが用意した軍服の幻影に怯えて自滅する、無害な受信機にすぎません」
高官たちは、冷めきったコーヒーを飲み干しながら、モニターに映る「全裸でクローゼットの隅でララァの名前を叫んで号泣している19歳の元英雄」の姿を、完全にゴミを見るような目で見つめていた。
「フッ、素晴らしい。デラーズ・フリートの残党どもを掃討するため、間もなく我が連邦軍のなかに『ティターンズ』という新たな精鋭特殊部隊が結成される。だが、この男をその選抜に加える必要は万に一つもない。この北米の無菌室のなかで、一生脳内の幽霊と連邦の影に怯えながら、ウジウジと腐らせておけ」
宇宙世紀0083年の終わり。世界がティターンズの台頭という暗黒の時代へと舵を切るなかで。
アムロ・レイという男は、完全に完成された人間不信と脳内オンラインシステムを抱えたまま、一歩も外に出られない「精神の檻」の底へと、永久に沈没していくのだった――。