「……で、随分変わったメンバーだけど、この大所帯で調査をするのかい?」
と、口を開いたのは長めの金髪に切れ長の美しい紫色の瞳を持った青年、レオン・グリュック。
本部からの通達で現場に集合した面々を見やる。
年齢層は若いものが多いが、ぱっと見た感じではちょっと不安に思えてしまったのだ。
もちろん、ここにいるのは様々な困難な場面を乗り越えてきた手練たちなのだが。
「まァ、そうマイナスになるなよ。主に集められたのは戦闘面が得意な連中だ
あ、俺はレイだ、よろしくな」
そうレオンを宥めたのは鮮やかな青い髪に青い目の男、レイ=グレイセス=アーツ。
「はい、今回は場所が賭博施設……兼、闘技場と聞いています。荒事が予想されるとの事で……あっ、すみません、私ヴァイテ・ヴェルトから派遣されてきました、アロンダと言います」
と、身の丈程ある大剣を持った白髪に黒い目の可愛らしい少女がペコリと頭を下げる。
「うん、アロンダさんよろしくね」
レオンはにっこりとアロンダに笑顔を向ける。
「おい、俺は無視か」
ちょっとレイがムスッとする。
「バースセイバーは基本的には荒事に近いし、得意分野ではあるけどね。……ああ、他に倣って僕も自己紹介を。僕は『十本眼鏡』のソニドリ。よろしくね」
そう言ったのは緑髪で薄い黄緑の目をし、メガネをかけ外套を羽織っている男性、ソニドリ。
そして、集まった面々が各々軽い自己紹介をしていく。
「……ふむ。ならばこちらも自己紹介をするのが通り。俺は『宵月庵』のヴィクター。ヴィクター・アンダーウッドだ。」
深紅の武装を纏った男が自己紹介をする。そして、その後に大きな声が響く。
「HAHAHA!俺様はワンダースケア様だ!!そして!こんかぐぇっ」
喋っている途中にワンダースケアがなにかに押し潰される。
「はーい!次あたしー!あたしね、アイヴィーって言うの!戦うのだーいすき!よろしくー!!」
そう言って手をあげたのは紫の髪にピンク色の目をした、重そうな武装をした女性。彼女は元気いっぱいに挨拶をする。
派手な色合いの服装をしている男性……ワンダースケアはさらっとアイヴィーの下敷きになっていた。
そして視線は赤髪の男へと移る。
「あ?次は俺か?俺は馬帝 徹。まぁ好きに呼んでくれ。暴れてよし賭け事よしって聞いて来た」
赤い髪に金の目、動きやすそうな服装の男はぶっきらぼうに答える。
そして次に名乗ったのは白と黒の色が混ざった髪をした人物。
「私は『BLACKinc.』のセロだ。ふふ、よろしく頼むよ」
仮面で顔が隠れており、表情全てを見ることができない不思議な人物。口元は笑っているように見えるが、目元まではわからなかった。
そして次に声を上げたのは赤髪に所謂学生服を着て、ハチマキをしている少年。
「はーい!俺は煌希 阿久都!部隊は『BURN;A』!よろしくだぜ!!」
先程のアイヴィーという女性と同じくらいに明るく元気な少年だった。
「俺はイオリ。『コンクエスタ』から来たよ。よろしく」
そう短く挨拶したのは、緑の髪で髪の先が蛇になっている和服の男性。目は開けておらず、閉じたままだった。
次の視線の先は桜髪に白い服装、頭に狐の仮面をつけた女性と、灰色の髪にワイシャツとスラックスの男性の元へ。
「ん?ああ、あたしハル。部隊は『鼻セレブ隊』。なんか面白そうだから来てみた感じね」
とかなり軽い感じでの挨拶。そして、隣の男を肘で小突く。
「……あー、俺はテツ。まあ荒事専門だ。よろしく頼むわ」
灰色の髪の男……テツはダルそうな雰囲気を纏いながらの挨拶。口にはタバコを咥えていた。
「そしてワイが隊長のアザラシや」
そう言って挨拶したのは……白い楕円の身体に人間の手足が生えている(?)生物。
瞬間、ハルとテツはアザラシを見て迷いなく踏みつける。
「なんであんたが来てんのよ」
尚もまだ容赦なくアザラシを踏みつけるハル。
「おめぇは呼ばれてないだろうが」
テツも同様にアザラシを踏む。アザラシは地面に半分埋まりながら喋る。
「なんや、最強戦力兼癒し担当は必要やろがい」
そういうアザラシをハルは埋めだした。
「んなわけないでしょ埋まってなさい」
周りの土を集めてアザラシを手早く埋めてしまった。
その様子をポカーンと口を開けて見ていた白い髪に猫の耳を生やしている獣人の少女がはっと我に返る。
「あっ、えっと、私……『連輝の夜這星』の白理です、よろしく、お願いします……」
段々と消え入るような声で自己紹介をする白理。
そして白理の腕に収まっていた灰色の獣が喋る。
「僕セーリィ!一応『連輝の夜這星』の隊長だよ〜」
セーリィが周りを見渡し、自己紹介をまだ終えてない人物を見る。
白い髪で片目を隠している長身の男。
「…………ああ、私か。私はレイ。部隊は『鶴一声』」
レイ、と名乗った男にもう1人のレイが声を掛ける。
「おっ、あんたも『レイ』なのか。だとしたら混同しちまいそうだな……そうだ、俺のことは『ヌル』って呼んでくれ」
青髪の方のレイはそう告げた。
「『ヌル』って『0』だからふたり合わせたら『ヌルヌル』やな」
いつの間にか地上に戻ってきたアザラシが余計なことを言う。
「その呼び方はやめろ」
青髪のレイが振り返らずに即拒否する。
全員の自己紹介が終わり、状況の確認に入った。
「それで?今回の世界の情報はほとんどないって聞いたけど……どこまで本当なのかな」
ソニドリは眼鏡を押し上げながら聞く。
「話ではT-/M+《オールドミスティック》の世界層である、詳細は不明、穴から見えるのは遊戯施設と賭博施設らしき光景……だったな」
今持ちうる情報を端的にヴィクターがまとめる。
「目新しい情報はなし、と。これは行ってみないとわからないってやつかなぁ」
イオリが顎に手を当てて考えている素振りをする。
「……」
白理の腕に収まっているセーリィが何か言いたそうにしていた。それに気付いた白理がセーリィに聞く。
「隊長さん……何か言いたそうにしていますけど、どうかしましたか?」
おずおずと白理が聞くと、セーリィはちょっと考える。
「いやぁ……T-/M+《オールドミスティック》の世界層で賭博施設と闘技場が見えたっていうのがねぇ……滅茶苦茶嫌な予感がするっていうか」
嫌な予感、その言葉にアロンダが反応する。
「嫌な予感ってどういうことですか?」
純粋な疑問をぶつける。
だがセーリィは少し考えてから答える。
「……いや、仮定の話だからあまり不安を煽るものではないしね。杞憂ならそれで良いんだ」
「いやその勿体ぶりのほうが余計気になるじゃん!」
アイヴィーが頬を膨らませる。だがセーリィはそれ以上は答えなかった。
徹が呆れたように言う。
「なんにせよ行かなきゃ分かんねぇんだろ?じゃあ押し問答してないでさっさと行こうや」
セロが頷く。
「そうだね、情報がないのは少し不安要素ではあるが……ここで止まっていても始まらないのも確か。行動はすべきだね」
白髪のレイも静かにうなずいた。
そして、全員は穴の向こうの世界へと踏み出した。
――――穴を通るときはいつも不思議な感覚がする。上下左右が白で、どこにいるかもわからないがどこかへ進む感覚に囚われる。ある時は長く感じたりするが、またある時は短く感じたりする。
しばしの何もない空間を通り、穴の外へ出る。
目を開けると外は、荒廃している大地だった。
「……ここは」
白髪のレイが辺りを見渡す。
周りに見えるのは荒れている大地と、あちこちに飛び出ているとがった岩。所々に水晶らしきものも見受けられた。
そして、少し視界が霞んでいる。数多の世界を見てきたバースセイバーたちはすぐに察する。
「なるほど、これは瘴気か」
瘴気は通常の人間たちには非常に有害なものだ。少し吸い込むだけでも身体に支障をきたしてしまう。何かしら防ぐ方法を必要とするが、幸いにも彼らには全員《VS能力》を持つために世界の法則の影響を受けない。したがって、この瘴気の影響もあまり受けないが……。
セーリィが渋い顔をしていた。
阿久都が気づいて声をかけた。
「どーしたんだよ、隊長さん?」
渋い顔をしたままセーリィが答える。
「いやぁ……まさかとは思ってたけど……これ間違いないよね」
セーリィの言葉に白理も同意する。
「はい……この魔力の感じとか、光景は……間違いなく『ネフリティス』です」
『ネフリティス』、その言葉にその場のセーリィと白理以外の全員が首をかしげる。
白理が重々しく口を開く。
「私たちの出身世界……というより、ここにずっと住んでましたので。ここは『極歪世界ネフリティス』。その……いろいろと訳アリの世界で……」
白理が口ごもる。何か言いづらいことがあるようだ。
少し間が開き、レオンが口を開く。
「ねえ、この世界を知っているっていうなら『穴』から見えた場所にも心当たりがあるってことだよね?」
すぐにそれに思い当たるあたり、かなり頭が切れるようだ。
セーリィはうーんとうなり、考える。
「まあこの瘴気の中で話すのもなんだし、とりあえず目的の場所に行こうか」
そういうと、白理の腕から飛び降りる。獣の姿のままだが、思ったよりは速い速度で前を先行する。
地の利というよりは現地を知っているのなら、それに付いて行く外は無い。全員はセーリィの後を付いて行くことにした。
瘴気の蔓延る大地を歩いて数分。石造りの小さな小屋が見えてきた。外から見ても少し古びているようにしか見えない小屋。周りは尖った岩が突き出ているだけで、人らしい姿も見えない。また、魔物のようなものも見受けられなかった。
セーリィは小屋の前で立ち止まる。
「あぁ?なんだこの小屋?」
徹は訝しげに小屋を見る。何の変哲もない小屋にしか見えない。
白理は小屋の扉を開けると、そこには家具などは一切なく下へ延びる石階段が続いていた。
「あらま、カモフラージュみたいなもの?」
ハルは少し驚いたような声を出したが、表情はさほど変わっていなかった。
階段の石壁にはランタンのようなものが吊り下げられており、視界はそれほど悪くはなかった。全員がゆっくり階段を降りていく。
降りた先には石の壁に覆われた大広間だが、正面には冷たい石壁とはそぐわない豪華な装飾が施された両開きの扉が待ち構えていた。
「……は?なんだこれ……?」
青髪のレイことヌルが呆気にとられていた。
扉は金や黒、白、赤い装飾が施されており、とても目立つものだ。
扉がひとりでに開く。その場にいた全員が身構えるが、開いた先には仮面をつけたカジノのディーラーのような人物が二人、立っていた。
「ようこそおいでくださいました。こちらは地下闘技場兼遊戯施設、『マスカ・パラディソ』でございます」
二人は恭しくお辞儀をする。二人とも仮面をつけているためか、表情は読み取れなかった。
「ふうん……ここが『穴』から見えた景色で間違いない、のかな?」
イオリは少しだけ声が弾んでいるように思えた。
「こちらでは遊戯時及び試合観戦時は仮面をつけていただくのがルールとなっております。なお、試合に参加時にも仮面をつけることも可能ですが、そちらに関しては個人の自由とさせていただいております」
案内人らしき人物はすらすらと説明をする。
「なるほど、仮面ね……悪いけど、それは持ち合わせていないかな」
ソニドリは全くひるむ様子無く返す。
案内人は口元を軽く上げる。
「ご安心ください。仮面については貸し出しを行っております。お好きなものをお選びください」
そう言ってすぐ隣の部屋へ案内した。
そこにあったのは色とりどりの様々な仮面。フルフェイスから顔の上部や目元だけを隠すものから種類は様々だ。
「郷に入っては郷に従え……ってところか。んじゃ、選ぶとしようぜ」
ヌルがそういうと、セロとヴィクター以外のメンバーが仮面を選ぶことになった。
セロは元々仮面をしているため、そのまま入場が可能とのこと。ヴィクターは仮面というかフルフェイスで顔が見えないので問題なしだそうだ。
メンバーが仮面を選び出して早数分。各々仮面をつけて戻ってきたが……
レオン:羽や美しい装飾のされた仮面
アロンダ:蝶とリボンのついた可愛らしい仮面
ソニドリ:緑色の少しスチームパンク風の仮面
アイヴィー:機械っぽい装飾のガスマスク風仮面
ワンダースケア:滅茶苦茶派手なピエロ仮面
阿久都:ヒーロー風仮面
イオリ:蛇の装飾の入った仮面
ハル:和風の狐みたいな仮面
白理:化け猫みたいな仮面
セーリィ:シンプル白黒仮面
テツ:鼻眼鏡
アザラシ:お祭りの屋台にあるピ〇チュウ仮面
徹:馬マスク
ヌル:某格付けチェックでつけているアイマスクみたいな仮面
レイ:なんか黒い毛がもさもさしている妙に笑っている仮面
「なんでその仮面選んだの……?」
最初のメンバーは普通の仮面だった。なのに後から来たメンバー全員よくわからない仮面をしてきた。レイに至っては、「どこか見覚えのある表情をした仮面」……いやそもそもそれは仮面なのかも疑問なものであった。
「あのぅ……レイさんのそれは仮面……」
レイが何か言う前に、
「あ?仮面だよ文句あるか?それとも何か?喧嘩か?」
なぜか喋るし喧嘩腰であった。
後半メンバーの仮面を案内人が見たときに口の端が引き攣っていたことは前半のメンバー全員が気づいていた。
何はともあれ、全員は『マスカ・パラディソ』へ踏み出した。