そして彼は、調査隊の格好を見て手練と判断し、闘技場出場へ誘う。
調査の為でもあるが、いざ闘技場でバトル開幕。
盛り上がる一行に1人の男が近づいてきた。
長身痩躯で角を生やした黒髪赤目の男。派手ではないが、簡単に見ても上品で綺麗なスーツを着ていて、ただの客ではないことが分かった。
男は柔和な笑みを浮かべて言う。
「我が遊戯施設のカジノ・エウテキュアーをお楽しみいただきありがとうございます」
周りのカジノの客たちがざわついている。ただならぬ雰囲気に一行も少し身構える。
すると、男は丁寧なお辞儀をし名乗った。
「私はこの地下遊戯施設兼闘技場『マスカ・パラディソ』の支配人のヴァイスハイトと申します」
支配人。つまりはここの施設の頂点にあたる人物だ。何故そのような人物が急に接触してきたのか考えていたが、ヴァイスハイトはにこりと笑う。
「そのように警戒なさらないでください。私は単純に貴方たちが面白そうな一行でしたので、こうして挨拶に伺った次第です」
ヴァイスハイトにイオリが聞く。
「支配人ねぇ……なんで俺たちに接触してきたの?興味本位だけじゃないよね?」
鋭く指摘する。すると、ヴァイスハイトは笑う。
「ははっ、鋭いですね。ええ、勿論御挨拶の為だけではありませんよ」
ヴィクターがそのまま聞いた。
「では何が目的だ?」
ヴァイスハイトは再び笑顔を浮かべて言う。
「貴方がたのお召し物や雰囲気から察するに、目的はカジノだけではないと思いまして。是非とも『闘技場』にお越しいただきたいと思いました」
『闘技場』――――。
今回のもうひとつの調査場所だ。こちらが行く前に先に向こうからお誘いがかかるのは都合のいい展開と思うべきなのだろうか。
ソニドリは答える。
「へえ……面白そうだね、じゃあ行ってみるとしようか」
そう言うと、全員は一旦カジノを離れ闘技場へと向かうことになった。
カジノよりさらに深く降り、豪華な扉を開いたそこに広がるは巨大な円形の舞台。
甘い香水と甘美な酒の匂いは消え、血と鉄、砂利の匂いがする熱気にあふれた会場があった。
舞台を囲む人々は興奮に濁っており、歓声と罵声が飛び交っている。
舞台の上で賭けられるは命。
そしてその行く末を楽しむものであった。
圧巻の熱気に数人は息をのむが、また別の数人は徐々に奥底にある闘争本能を擽らせていた。
ヴァイスハイトは一行を見て案内する。
「こちらが我が『マスカ・パラディソ』のメインの場となります、『闘技場ドクサ・モイラ』でございます」
舞台の中心では、現在は大型の魔物と人が戦っていた。
角を幾本も生やし、太い強靭な四肢を持った禍々しい魔物。それに相対するは一般兵士と思われるような装いをし、ノーマルソードと盾を持った男一人。
「おや、今は『モンスターキラー』が行われてましたか」
ヴァイスハイトは顎に手を添えて優雅に笑う。
「『モンスターキラー』ってなんだよ?」
ヌルがヴァイスハイトに聞いた。
「『モンスターキラー』はランダムに選別された魔物と選手が戦闘を行い、勝敗を決めるルールです。闘技場ではほかにも様々なルールを用意しております」
徹は舞台を見る。
大型の魔物に対してはあまりに貧弱と思えるような細い剣と盾での対峙。正直勝機は見えない。
だが徹はふつふつと闘争心が沸き立っていた。
「闘技場では『シングルバトル』『バトルロイヤル』『モンスターキラー』『ポイント制半チームバトル』『ダブルス』の5つのルールがあります」
『シングルバトル』――1対1のタイマン勝負。どちらかの降参又は戦闘継続不能とみなした時点で勝負は終了となる。特殊ルールあり。
『バトルロイヤル』――6人同時戦闘。最後の一人を勝者とする。特殊ルールあり。
『モンスターキラー』――無選別に選ばれた魔物との戦闘。モンスターか選手のどちらかの戦闘不能で勝敗が決まる。
『ダブルス』――2対2の完全チームバトル。どちらかのチームが全滅すれば残ったチームの勝利とみなす。特殊ルールあり。
『ポイント制半チームバトル』――3対3の半チームバトル。ポイントをもっとも稼いだチームの勝ち。
「試合に勝利した場合、賞金を差し上げています。腕に自信があれば是非と思いまして。そうそう、ここではランク制がありまして。最低ランクをGとし最高がSSSとなります。最初は皆さまGからになりますが……皆様は相当の手練れのようですし、弱すぎる相手は面白みもないでしょう。ですから、Cからのスタートとさせてもらいましょうか。」
ヴァイスハイトの笑顔は自然だがどこか計算し尽くしているようにも思える。
それに一番に食いついたのは――テツだった。
「おもしれーじゃん。ようやく暴れられるってことだよな?」
指をポキポキと鳴らした後、両拳をぶつける。かなり興奮めいた空気になっているようだ。
徹も同じく戦意旺盛のようだ。口の端が上昇していた。
闘志を燃やす面々を見て、ヴァイスハイトは満足げに笑う。
「ご興味を持ってもらえて何よりです。それでは、同意書を書いてもらったうえでの参加となります……ああ、心配しなくても『死ぬ可能性はあることを理解した上で参加を希望する』という同意書です。奴隷契約とかではありませんよ」
とにこりと笑顔を浮かべる。
同意書には本当に「死の危険があることを理解した上で試合に参加希望します」という旨の記述しかなかった。ソニドリやレイ、ヌルは一応警戒して読んでみたものの不審な点はなかった。
ヴァイスハイトは思い出したかのように口を開いた。
「おっと、私としたことが大事なことを忘れていました。ここ闘技場でも賭けを行うことができます。指定した選手に賭けて、試合を楽しむのも1つですよ」
そして、一行にお辞儀をして背を向ける。
「それでは、皆様の奮闘を楽しみにしております」
そういって去っていった。
「――さて、ほぼ全員が闘技場に参加だね」
ソニドリはどことなく嬉しそうに話す。
「腕がなるな」
ヌルもやる気に満ちていた。
今回の調査メンバーは主に戦闘面に特化しているものが集められている。従ってこの闘技場という場はかなりワクワクするものなのだろう。
「まあワイともなれば瞬殺やから見えんかもしれんな」
「そうね、あんたが瞬殺されて終わるわね。期待してないからあっち行きなさい」
アザラシには何の自信があるのかはわからないが、どっしり構えていた。しかしハルにあしらわれていた。
ヴァイスハイトの話では、離れたランクの相手は組まれないそうだが、真実かどうかは定かではない。
そして、早速試合が組まれたのだ。
――『続きましての試合は、ランクC、ソニドリ 対 ランクD マーカス ステージ、森林』
モニターにはそう映されていた。
「おや、早速お呼びかい?じゃあ、行ってこようか」
そういってソニドリはメガネの位置を正し、舞台へ歩き出した。
会場は異様なまでの熱気が観客を覆っていた。歓声で空気が震える。
先ほどモンスターキラーでステージを見たときは、障害物も何もない平坦なステージだったが、今回のステージは森林。見渡す限り木が乱立しており、高い草や障害物が多く視界も悪い。
銃をメインに使うソニドリにとって少々不利な地形であった。
ソニドリは木を触ってみる。
「なるほど、これは本物なのかな。中々すごい造り込みじゃないか」
相手の情報は一切ない。そうともなればまずは状況確認や地形の確認が先決となる。
地の利を味方につけて、少しでも勝利に近づく。
『それでは、試合開始』
機械のアナウンスが響き、開始のブザーが鳴る。ブザーと同時に大歓声が会場を大きく振動させた。
「それじゃあ、ひと暴れと行こうか」
そう言ってソニドリは笑みを浮かべ、銃を抜いた。
――一方観客席。
ソニドリ以外の面々は試合を見ることになった。だが舞台は森林で、上から見ても木で生い茂ってあまり見えない。どうやって追うのかと思っていると、ステージ上部にモニターがあり、そこにソニドリの姿が映る。
「あ!おにーさんだ!」
阿久都がモニターを指さす。
モニターにはいくつかの方向からソニドリの姿が映されており、試合の様子はここから見ることができると言った具合のようだ。
ソニドリと相対するはマーカスという男だ。モニターにその姿も映っている。
彼はどうやら近接武器……両手斧を持って森林ステージを歩き回っている。
木々が茂っているから、振り回すのも難しいだろう。お互いが戦いにくい状況に見えた。
一行はそのまま行方を見守ることにした。
そして場面は再びソニドリの試合へ。
ソニドリは視界の悪い森の中をなるべく音を殺しながら走る。地形の把握もあるが、相手をとりあえず見つけなければならない。それに、立ち止まるのも危険が及ぶ。相手が何を使っているかも分からない状況なので、停滞は危険と判断した。
少し走ると、別の気配を察知する。
立ち止まり、木の後ろに身を隠した。気配の先に視線をやると、両手斧を持った大柄の男がウロウロしている。顔や雰囲気から察するにかなり苛立っているようにも見える。
先制攻撃を仕掛けたいところだが、少し様子を見ることにした。
「くそっ……邪魔が多い!このステージじゃ斧を振りにくいじゃねぇか」
大声で悪態を付いていた。
辺りを見回しながら歩いている。
相手が走り回れないよう足を止めるのが先決か、そう思っていると、不意にソニドリの後ろに大きな影が落ちる。
ソニドリは気づいてその場で素早くしゃがむと、頭上にある木の上が薙ぎ払われた。
「隠れてやがったか!」
案外敏感な方だったようだ。ソニドリはそのまま前方に転がり身体の向きをマーカスに向ける。
そして1発相手の武器を落とすために発砲するが、体勢が安定しない中で撃ったので、少し照準が外れる。だが、銃弾は相手の手には掠った。
「ってぇ!」
と大声で言い、手を軽く振る。
「はっ、でもこれくらいじゃ効かねぇな」
マーカスは下卑な笑みを浮かべる。
「それもそうか。それだけ図体が大きければ相応に……ってことか」
明確な事を言ってはいないが、軽く煽るソニドリ。
「クソガキが!」
そう言ってマーカスは大斧を振り下ろす。それをソニドリは軽い身のこなしで避ける。
マーカスの腕力だと木をあっさりなぎ払えるようだが、如何せん密集しているものだから斧が振りにくいようで、益々苛立っているようだった。
そして、マーカスは木を薙ぎ倒しながらソニドリに接近する。
「ははっ、怖い怖い」
ソニドリは軽く躱しながらマーカスから距離をとる。そしてニ挺拳銃をマーカスに向けて撃つ。
マーカスは発砲音に即座に反応し、斧の金属部分で銃弾を防ぐ。
「へえ、この距離感で防げるなんてやるね」
ソニドリは防がれたにも関わらず、少し楽しそうだった。対するマーカスは相も変わらず苛ついているようだ。
「ちょこまか逃げてちまちまやってんじゃねぇよ!イラつくぜ」
そしてニヤリと笑う。
「俺が近接攻撃しか出来ねえと思って距離を取っているんだろ?甘いんだよ!」
そう言うと斧を横に大きく振りかぶる。
数秒後その状態で停止したかと思うと、斧がぼんやりと光りだした。
「……っ」
嫌な気配をソニドリは感じ、意識を向ける。
そしてマーカスが斧を振ると、魔力の刃が形成され、ソニドリに向かって飛んできた。
魔力の刃は胴の真ん中目掛けてだったので、ソニドリは宙返りをし魔力の刃を躱すがマントの端が少し刃に触れ、切れてしまった。
「ちっ……これも避けやがるか。でもそう何回も避けられないだろ!」
そしてマーカスは何発も魔力の斬撃を飛ばしてくる。
ソニドリは一旦離れることを決めて、注意しながら森の中を走る。魔力の斬撃は切れ味がいいのか、木を次々切り倒していく。
「一旦離れるか」
そう呟き気配を消して隠れることにした。
少し距離を取り、どう攻めていくかを考えていた。
相手は図体の割には反応速度はかなり良いようだ。それなりの距離でも銃弾を防ぐ程度には。
とはいえ、狙いを定める能力に関してはかなり雑であることも確か。大雑把なところは見た目通りと言ったところだろう。
遠方でどかんどかんと木が倒れる音がしている。かなり派手に暴れているようだ。
そして、足元に木の実のようなものを見つける。
徐に拾い上げ、眺める。
そしてマーカスが暴れている様子を考え、ふと思いつく。
木の実をいくつか拾い上げてソニドリは走り出す。
気配は消してひた走る。大回りをし、マーカスの横側に隠れた。
マーカスの頭に目掛けて木の実を投げつける。
マーカスは横から何かが頭に当たり、飛んできた方向を見るが何も無い。当たりを見渡していたが――
刹那、足に激痛が走る。
「……がっ」
足を見ると、足には小さな穴が開けられていた。
これは、銃弾。
あのメガネ男が近くにいるのはわかったが、痛みで気が漫ろになる。
慌てて探すも、今度は斧を握る手に痛みが走る。
今度は手を撃ち抜かれた。
未だに眼鏡男の姿は見えない。
「くそっ……小賢しい!」
その時横の草陰から音がし、痛みを堪えてそこに向かって斬撃を飛ばす。
ソニドリが回避するために飛び出す。
そこにマーカスは間髪入れずに突撃。さすがに銃とはいえ、急接近されれば撃つこともできないはずだと判断したが……
手首に痛み。
手首を見ると、深い切り傷がある。
これは、銃ではない。
そう思ったが、遅かった。いつの間にか背後に回っていたソニドリはマーカスの首筋にナイフを当てて静かに言う。
「さて、チェックメイトかな?」
アーミーナイフだ。隠し持っていたようだ。
マーカスは斧を捨て降参するのかと思った。
しかし、太い腕を後ろに振りソニドリを殴りつけようとした。
ダンッ――――
発砲音が聞こえ、マーカスの腕が撃ち抜かれる。
背後にいるソニドリから呆れ声。
「このまま降参すれば、余計な怪我しなくて済んだのにな?」
そのまま腕、ふくらはぎ、太腿を撃ち抜き、マーカスはその場に倒れた。
ソニドリは銃から立つ煙をふっと吹き飛ばす。
「悪いね、負ける気は全くないんだよ」
そう言って眼鏡の位置を直して笑う。
その後、会場に大きなブザー音が鳴り響く。
そして機械のアナウンス音で、
『勝者 ソニドリ』
という声が聞こえた。
――観客席。
「うおお!すげえ!勝ったな!」
ヌルが声を上げていた。
「中々スマートな戦い方だったな」
ヴィクターも賞賛していた。
レイは無言で小さく拍手していた。
「ソニドリさん、かっこよかったです!」
アロンダも笑顔で拍手していた。
「へえ、やるね」
レオンもさすがに感心していた。
「ワイなら5秒やな」
このアザラシは何を言っているのだろうか。
「そーだな、5秒で負けて試合終了だな」
テツがだるそうにツッコミ返していた。
そしてソニドリがステージから離れるために森を歩いている。
ふと、切り倒されずに残った木を見ると……
碧色に輝くカブトムシがいた。
「?!?!?!!」
その瞬間ソニドリの目の色が変わる。
「昆虫?!見た事ない虫が!!これは採らねば?!」
テンションが急上昇して早口に。
しかし手持ちに虫かごがない。
虫あみもない。
「くっ……こんなことになるとは……?!」
このまま持ち帰りたかったが…………
今どうすることも出来なかった。そして、思う。
「……後で虫かご調達できないか探すか……」
諦めるという選択肢はなかったようだ。
見たことない虫を譲って貰えないかの作戦を考えながら、メンバー達の元へ帰るのであった。