バースセイバー、地下闘技場へ   作:あこにとむ

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ソニドリの試合が終わり、次の選手の名前が呼ばれる。
次はアロンダの試合。ステージは廃墟。
試合の行方は。


地下闘技場調査4

ソニドリの試合後。

 見事ほぼ無傷で快勝して帰ってきたソニドリ。

「すごいね〜、冷静かつ圧倒的!かっこいいね〜」

 セーリィがのんびり言う。

 気持ちいいくらいの勝利で、血気盛んな者たちも俄然燃え上がっていた。

「そういやルールがどうなるかは分からないんだったか?」

 不意にテツがセーリィに聞く。

「基本的には伏せられてるね〜。事前対策無しの勝負が売りだし」

「ほー、そうか」

 テツはタバコを咥えたまま返事をした。

 そして、次の試合が発表される。

『続いての試合の発表です。ランクC 選手名 アロンダ ルール モンスターキラー ステージ 廃墟 です』

 今度呼ばれたのはアロンダだった。

 ルールは「モンスターキラー」。魔物相手の勝負だ。

「……!私ですね」

 アロンダの瞳が鋭くなり、手に力が籠る。

「気をつけて行けよ」

 ヌルがそう激励する。

「はい、頑張ります!」

 アロンダはステージへと降りていった。

 

 ステージへ降り立つと、そこは先程森林があったとは思えないような光景であった。

 ボロボロに崩れかけている建物が幾つも建っており、先程の森林とはまた別の視界の悪さとなっていた。

 空気感もまるで違う。

 古びた建物の匂い、錆びた鉄、崩れかけた石の家。

 近くの壊れた建物を見ると、テーブルや椅子、キッチンカウンターなども見受けられる。

 「ステージとは言ってましたが、作り込みが凝っていますね……」

 そして、向かい側に鉄格子が見える。

 鉄格子の中の床がゆっくりとせり上がり、魔物が姿を現した。

 そして、アナウンスが流れる。

『モンスターキラー 今回は 「ランクC マルウールディアブロ 3体」です』

 その音が流れたとき、檻の向こうに見えたのは暗い赤色の中型のインプのような魔物。

 アロンダは大剣の柄を強く握り、構える。

『それでは 試合開始』

 アナウンスとともにあのブザーが鳴り響く。

 そして檻が開くと同時に魔物たちが飛び出してきた。

 一直線にアロンダめがけて飛んでくる。

 正面、右、左、三方向から魔物たちは飛んできて挟んでくる。すべてを視認し、アロンダはいったん地面を蹴って距離を開ける。

 魔物たちは攻撃対象の座標がずれて一瞬戸惑うが、そのまま飛行して再びアロンダを狙う。

 アロンダは大剣を下段に構え、魔物めがけて薙ぎ払う。

 しかし、魔物は素早くその斬撃を交わし、大剣は空を切った。

 「やはり素早い……」

 アロンダは相手がかなりの速度で近づいていることは気づいており、今の薙ぎ払いも当たるかは些か不安に思っていた。

 だが、軽々と避けられたのを見て、考える。

 これは剣を振るだけでどうこうなる相手ではない。こちらの振る速度はそれほど早くないので、隙は大きく見えるかもしれない。

 だが、剣を振るだけがアロンダの持つ全てでは無い。

 アロンダに向かってくる魔物を見て、自身の持つ『赫英の欠片』の力を使う。

「『凍てつけ』!」

 欠片は光を放ち、広範囲に鋭い氷の柱を出現させる。鋭利なその氷は廃墟の地面を走り、魔物たちへ牙を剥く。

 猛然と迫る氷の柱に魔物たちは困惑し、慌てて旋回をする。しかし、3体のうちの1体の羽に氷の刃が突き刺さる。羽を破られたことにより、1体は機動力を失い、落下した。

 だが他2体は戸惑いを見せたあと、崩れ掛けの廃墟に飛び込んでいく。

「……っ、逃げた!」

 逃げた2体を追おうとしたが、墜落した1体を片付けるのが先決だった。アロンダは失墜した1体を見ると、魔物は憎々しげにアロンダを睨みつけ、地べたを走ってくる。

 羽を失った以上、機動力はガタ落ちだ。とは言えど、まだそこそこの速度はある。ともなれば。

 アロンダは大剣を地面に突き立てる。そして、固定された剣の柄を握り、遠心力をつけて迫ってくる魔物に鋭い回し蹴りを決める。

 遠心力が乗っているためか、破壊力は尋常ではない。

 思い切り蹴りを食らい、魔物は建物の壁に吹き飛ばされる。

 魔物は激しく壁に衝突し、消滅してしまった。

「……まずは1体」

 アロンダは呼吸を整え、逃げた残りの2体を追跡する。

 

 ――観客席。

「すごい……!」

 白理が口に手を当てて驚いていた。

 大剣を支柱代わりにして回し蹴りを放つ姿は判断力がある上にセンスがずば抜けている。

「見かけによらずやるね」

 イオリはなんだか楽しそうに見ている。

 そんな戦闘の場面を心配そうにウルヴルとヴィトニルの2匹が見ていた。

「どうした、心配か?」

 と、ヌルが聞くと、小さい声で「クゥン……」と声を出す。

「彼女、中々に冷静に戦っているからそんなに心配しなくてもいいと思うよ」

 と、ソニドリが付け加える。

 そしていつの間にか隣に座っている毛玉が、

「ジャーキー食べる?」

 と差し出していた。

「なんでナチュラルにいるんだよお前……」

 とヌルが呆れていた。

 

 ――闘技場。

「逃げ込んだのはこの建物だったはず……」

 崩れ掛けの廃墟に踏み込んだアロンダ。

 壁にはヒビがあちこちに入り、テーブルや椅子やタンス、本棚などの障害物が散乱している。

 建物ではあるが、瓦礫なども散らばっているために足元は不安定であった。

 剣を構えながら廃墟を歩く。

 敵の気配にすぐに気づけるように、なるべく周囲に注意を向ける。

 その時、横にある部屋からカタン、と物音がする。

 音のした方を向いて、近づく。

 すると、前方から火球が飛んでくる。

 アロンダは目を見開き咄嗟に剣で攻撃を防いだ。

 顔をあげると、魔物がケラケラと笑っていた。そしてそのまままたどこかへと飛んでいく。

 割れた窓の外から出ていったので、すぐに見失ってしまった。

「遠距離で削る作戦かな……」

 そう思い、再び廃墟を探索する。

 周りはとても静かだった。周囲が大勢の人に囲まれていることを忘れてしまいそうなほどに。

 アロンダの歩く音だけが聞こえてくる。

 何かの気配を感じ立ち止まる。周囲を警戒すると、周りから笑い声が聞こえてくる。

 魔物が近くにいる。相手はこちらを視認した上でどこかに身を潜めている。それともこれは攪乱のためのものか。感覚を研ぎ澄まし、相手の位置を把握しようとアロンダは集中する。

 バサバサという音が頭上からしていることが分かった。

 ただ先程は氷柱が羽に命中し、機動力を失ったために狙いやすかった。だが、今近くにいるのはまだ体力も機動力も残っている個体。

 動きを止めるには……。

 下手に建物を攻撃すれば、自分も巻き込まれかねない。障害物の多い建物で動きを止める……いや、鈍らせることができれば勝機は十二分にある。

 「……よし」

 止める算段を立て、アロンダは敵が潜んでいる上の階へ向かった。

 階段を上ると、そこも荒れ果てていた。散らばった瓦礫や本、散乱している木片。

 部屋を見ていると、バサバサと再び音がし、アロンダは警戒を高める。

 瞬間、目の前に影と火球。

 「……!」

 距離が近い。剣で防ぐには近すぎる。

 アロンダは片足を軸に体を捻り間一髪火球を回避。

 攻撃を放った後に魔物はまた窓から逃げ出そうとしたが、アロンダはすぐに攻勢に転じる。

 「今度は逃がさない!」

 そう言って再び『赫英の欠片』を使い、瞬時に無数の氷の破片を作り出し魔物に向けて放つ。

 もともと広範囲の攻撃も可能とする物だ。小範囲に無数の氷の刃を生成するくらいは瞬く間にできる。

 氷の刃は魔物の羽に大量の穴をあけ、浮遊力を落とす。

 ふらつく魔物はそのまま床に落下。すぐさま氷の床を張り、相手の足を凍らせる。

 動けなくなった魔物は抵抗を図るが、氷はそのまま魔物の体を這い上がり足、胴、腕と凍らせていく。そして完全に氷の中に閉じ込められた。

 アロンダは白い息を吐き、大剣を握って魔物が閉じ込められている氷塊へ歩み寄る。

 そして、大剣を振って氷を粉々に砕いた。

 砕けた氷とともに、魔物は消滅する。

 アロンダは軽く息を吐き、呼吸を整えた。

 「あと一匹……!」

 そしてその廃墟を後にする。

 残るは一匹。しかし先ほど逃げ込んだ建物は見ていたが、二匹目との戦闘が少し長引いてしまった。今もここに潜んでいるかは確証がない。

 とはいえ、他にも複数ある建物のどれかと言われても正直あてはない。

 一旦は逃げ込んだであろう廃墟を探索してみることにした。

 アロンダの入った建物は先ほど見た建物より壊れ方が大きかった。

 ヒビは大きく入り、天井が複数個所崩落している。そこから闘技場の天井部分が見えた。

 上を見上げると、ここからでは見えないがモニターがいくつかあるのが見えた。

 ソニドリの試合の時に選手がどうなっているかの中継をするモニターだ。

 正面に向き直り、探索を再開する。

 二匹目の時のように奇襲を仕掛けてくる可能性は大いにある。相手は魔物、正々堂々とは来ないだろう。どんな姑息な手を使っても勝てるのならそれでいいようなもの。十分に警戒して損はない。

 歩いていると、背後に気配。

 振り返ると魔物が滑空しながらの突進。かなりの速度だ。

 アロンダの頭めがけて飛んでくる。咄嗟に体を少し傾ける。

 魔物はアロンダの頬を掠めて通り抜けていく。

 通り抜けた方向に向き直り、剣を構える。魔物はなにかぎいぎいと耳障りな鳴き声を発している。

 当たらなかったことにいら立っているのだろう。

 「ようやく見つけました」

 アロンダは眼光を鋭くする。

 魔物は何かを詠唱し大量の火球を生み出す。発光する火の玉を次々に飛ばしてくる。

 アロンダは剣を背中に背負い、跳躍。

 降り注ぐ火の玉を連続の後方宙返りでひらりと躱す。

 しかし魔物の攻撃はまだ止まない。魔物は次は雷を呼び出す。

 アロンダの周囲に落雷が降り注ぐ。

 アロンダはその場で何回か軽く跳ねる。そして人間離れした身のこなしで絶え間なく降る雷の間をかいくぐっていく。

 地面を蹴り、前へ飛び、横に飛び。

 そして、横に飛んだ後に壁を蹴り魔物と同じ空中に躍り出る。

 そのまま斜め下に向けて蹴り落とす。

 クリティカルヒット。魔物は床に叩きつけられ、めまいを起こしていた。

 アロンダはふわりと着地し、剣を構える。

 めまいを起こし、動けなくなっている魔物を一刀両断。魔物は消滅した。

 そして、消滅と同時に大音量のブザーが鳴る。

『勝者 アロンダ』

 大きく息を吐いて、リラックスする。

 「~~~はあ……勝てた……」

 そしてアロンダはステージを後にする。

 

 ――観客席。

 「おお!!やりやがった!すげぇぜ!」

 徹が大声で称賛する。

 レイが無言で拍手している。

 「すごーい!あたしもあんな風にびゅんびゅん動いてみたーい!」

 アイヴィーが真似できないか考えていた。

 「いや、お前ジェット移動するしめっちゃ動くだろ……」

 ワンダースケアがさすがにちょっと引いていた。

「人間離れした動き……なかなか楽しませてもらったよ」

 セロがゆったり拍手し、称賛していた。

 

 観客席にアロンダが戻ると、ウルヴルとヴィトニルが駆け寄ってくる。

 心配そうな目をアロンダに向けていた。

 「ウルヴル、ヴィトニル、ただいま。心配しなくても、私は大丈夫だよ」

 くぅんと小さい声を出す。

 「そいつら、ずっと心配そうに様子見てたぜ。よほど大切なんだな」

 ヌルがしばらく様子を見ていたようだ。

 アロンダは二匹の狼の頭を優しく撫でる。

 足元にてちてちと毛玉が寄ってくる。そして、

 「ジャーキー食べる?」

 と差し出してきた。

 「え?あの……あ、ありがとうございます……?」

 一応受け取るアロンダであった。

 

 ――支配人室。

 アロンダやソニドリの試合を見ていたヴァイスハイトはにこにこしていた。

 「予想を優に超える強さですね、素晴らしい方々です」

 嬉しそうに拍手する。

 黒い大理石で囲まれているその部屋から試合の行方を見物していた。

 身なりや雰囲気で手練れと判断していたが、予想以上の強さ。嬉しい誤算というものだ。

 ヴァイスハイトの後ろにあるソファから声がする。

 「ねー、あたしも戦ってみたい!」

 ピンクの尻尾を振りながら元気な少女の声がする。

 ヴァイスハイトはちらりと後ろを見ながら答える。

 「そうしたいのは山々ですが……彼らはCランクとしての出場です。もう少し高くても良かったかもしれませんが。ですが、あなたは最高ランクなので、どちらにせよ駄目ですよ」

 そういうと少女は頬を膨らませてむくれる。

 「えー、いいじゃん!強いなら特別とかにしてさ!」

 ヴァイスハイトは静かに首を振る。

 「特別を容認しすぎるのは不公平になりますから」

 少女は口を尖らせた。

 「ちぇー」

 会場を見下ろしながらヴァイスハイトは呟く。

 「……できればこのまま盛り上げてほしい所ですがね。そうもいかないでしょうし」

 何かを察しているような口ぶりであった。

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