今度の出番は馬帝 徹。
なんでも武器にすること、脚力を活かした破天荒な試合が幕を開ける。
観客席にアロンダが戻ってからしばらくの間、別の選手たちの試合が繰り広げられていた。
そのたびに様々なステージが用意されており、いずれも一筋縄では行かないものばかりだ。調査隊一行のうちの何名かは攻略を考えつつも闘いたいとウズウズしていた。
そして、その出番が回ってくる。
『続いての試合です。ランクC 馬帝徹 ランクB モース ランクC レイハ ランクA ガイア ランクD ウジャ ランクC ヨヌイ 形式 バトルロイヤル ステージ 砂漠』
今度呼ばれたのは徹だ。試合形式はバトルロイヤル。6人同時対戦の乱戦形式。
「うおっしゃあああああああ!!俺の番だあああ!」
形式がバトルロイヤル形式と聞き物凄く嬉しそうだ。もとより喧嘩が得意な男だ。大暴れできると確信し、両手の拳を高く突き上げている。
そして本人は試合+乱戦ということでこの時点で大興奮であった。
「乱戦ってことは暴れていいってことだよな?!」
意気揚々と聞いてくる。
「お、おう……いいんじゃねえか?」
今までで1番テンションが高い徹にちょっと引いているヌル。
「っしゃあ!行ってくるぜ!」
その場から駆け足でステージに向かっていった。
ステージに出ると、そこは一面の砂漠。
遮蔽物は少ないが、砂はサラサラとしていて踏ん張りが効きにくい。足を取られてしまう。
しかし、全く何もない訳では無い。周囲を見るに、低いが岩場やほとんど崩れた建物、朽ちかけている乗り物、サボテン、生き物の骨。
「よりによって走りにくいステージかよ……」
と悪態を吐くが、その後ニヤリと笑う。
「だけど悪くねえな」
そして、周囲にある鉄格子がそれぞれ開くと、試合相手となる別の選手たちも出てくる。
黒衣で細身の剣士、大柄でハンマーを持った男、軽装備の男、銃を持った男、魔法使いらしき装いの男。
「何だよ全員男じゃねーか……冷める……」
と徹はぼやいていた。
そしてあの大音量のブザーが鳴り響き、試合が開始される。
徹は両手をぷらぷらと振り、肩を大きく回す。この6人の中で素手は徹だけ。だが、負ける気なんて毛頭ない。
「闘技場に武器なしか……舐められたものだな」
そう言うのは黒衣の剣士、レイハ。銀縁のメガネをしていた。
「よほど自信があるようだが、強そうには見えねえな」
ガハハと豪快に笑うのは、ハンマーを持った男、ガイア。
「タフそうな連中が多いけど、まあ勝てそうかな」
ちょっと余裕をかましているのは軽装備の男ウジャ。
「鈍重そんな奴ら……ま、蜂の巣にでもすれば終わりだろう」
自信に満ちているのは2丁拳銃を持った男、モース。
「頭固そう……」
そんなぼやきを言うのは魔道士らしき男、ヨヌイ。
6人それぞれが向き合い、それぞれが走り出す。徹も走る。
しかし、今回のステージは砂漠。砂に足を取られ動きにくくなる場所だ。
「ちっ……動きにくい!」
そう言いながらも細身の剣士……レイハが徹の方へ向かってくる。
砂に足を取られ、少しだけもつれかかっているが、それでも体勢を整えながらの突進。
徹はニヤリと不敵に笑い、迎え打つ。
「まずは丸腰のお前からだ」
レイハは剣を鞘に収めた状態で走ってくる。その体勢で分かる。レイハは抜刀剣術使いだ。
体を低くし、剣の柄に手をかける。徹はまだ体勢を変えないでいる。
レイハが剣を抜くその瞬間、徹がレイハの視界から消える。
「!」
消えたことには気付いたが、もう体が勢いに乗っている。そして砂であることもあり、踏ん張りなど効かない。
止まろうと思ったその時。
「遅ぇよ」
そう徹が言う。声が聞こえたのは下側――だが気づくのが遅すぎた。
徹は瞬時に体を低くし、レイハの足を払う。足払いをされ、レイハは宙に浮くが次の瞬きをする前に顎に強い衝撃が走る。
徹が足払いをし、すぐにその場でサマーソルト。レイハの顎にクリーンヒットし、レイハは上へ吹っ飛ぶ。
「甘い甘い!ステゴロ舐めんなよ」
軽く着地し、徹は笑う。
かなりのダメージを叩き込まれたが、まだレイハは起き上がれた。
「くそっ」
周りは今の徹の動きを見て驚く。丸腰だと甘く見てはいけない相手だと言うことを一瞬で理解する。
徹は首を鳴らし、軽くその場で跳ねる。
「じゃあ今度は俺の番な」
徹が走る。しかし、またしても姿が消える。
認識阻害?それとも透明化か?そう思うがどれも違う。
レイハはすぐに霧の魔法を唱え視界を悪くするが、霧を突き破って徹が後ろから現れる。
「どこ見てんだよ」
レイハは咄嗟に腕で横からの衝撃に耐えるためにガードするが、凄まじい衝撃に耐えられず、再び吹き飛ばされる。
さすがに痛打を2発食らい、すぐに起き上がれないレイハ。そこに歩いてきた徹が何か手に持っている。
それは仙人掌。中くらいだがトゲがびっしり生えているものだ。
「ちょっ……とまて?!」
レイハは焦るがダメージが響き動けない。
ニヤリと笑う徹はレイハに仙人掌でレイハの尻を殴った。
「だああああいってええええ!!!」
打撃と棘の痛みと直前のダメージと。痛くない筈がない。中々に悪魔じみたことをしていてる。
「降参するかぁ?!」
さすがにこれは痛すぎる。周りも引いてしまう。
「する!するからヤメテ!!!」
そしてレイハ、敗北。
徹は仙人掌を捨てて、汗を拭う動作をして、
「喧嘩最高!!」
と言っていた。
徹がレイハの尻を仙人掌でシバいていた頃の観客席。
「うお……痛そう……」
ヌル冷や汗。
「なんでも武器にするとは聞いていたが、仙人掌引っこ抜いてバット代わり……」
ワンダースケアもあんぐりである。
「「「すごいけど怖い」」」
この一行のみならず、会場の人が思っていた。
さすがに先程の徹とレイハの戦いを見て、危険視しない人物はいなかった。
「あいつ危険すぎる……!」
そう言って早めに片付けようと構えたのはヨヌイだ。
ヨヌイは魔法で遠隔から攻撃し、近づけさせないようにと思った。
「大いなる叡智よ……」
詠唱を始めたが、それに気づいた徹は走り出す。
「よーい……ドン!」
砂漠の砂を巻き上げて徹の姿が消える。
刹那、ヨヌイの前に徹が現れ何かを顔にぶちまける。
「うわっ……けほっ、砂?!」
徹は走りながら砂漠の砂を掴み、ヨヌイの顔に目掛けて砂をかけた。
口や目に砂が入ったことにより詠唱は中断。口に入った砂を吐き出そうとするが、それが大きな隙になってしまう。
徹は砂をばらまいた勢いをそのままに、後ろを向き両手を地面につく。そして両足を縮こませてヨヌイを蹴り飛ばした。
「ぅあ゙っ……!」
大きく後ろに吹き飛ばされるヨヌイ。衝撃が強すぎて受け身も取れない。後方へ転がっていく。
「けっほ……う……」
打撃を受け、その場に手をついて起き上がろうとするが、苦しくて難しい。
そしていつの間にかいた徹に胸ぐらを掴みあがられる。
「くっそ、離せ馬鹿!」
動けないから罵倒をするが、徹はニヤリと笑う。
次の瞬きをする前に、頭に強い衝撃。
徹のヘッドバッドだった。
脳震盪を起こし、ヨヌイは気絶する。
「喧嘩屋舐めてんじゃねーぞ!」
尚、徹の額には傷一つ付いていなかった。
レイハを下し、ヨヌイもあっさり撃破。徹の強さは桁外れだ。武器ひとつ持たないからと甘く見ていたのもあるが、あの男は想像以上に頭が切れる。周囲にあるものを使って戦うのは、そう簡単なことではない。
発想が柔軟だからこその戦闘スタイルだと言っていいだろう。
残るウジャ、ガイア、モースもさすがに強く警戒する。トリッキーすぎる戦い方だ。
3人は一旦3人同士で争うのを止め、徹を狙うことで合意する。
「一時休戦だ!あいつやらないとまずい!」
ウジャがそう言って走る。
走りながら紫色に光る短剣を取り出し徹に投擲する。
徹は最小限の動きで躱す。
「おー?次はお前が相手してくれんのか?」
前に2人撃破しているにもかかわらず、息一つ切らしていない。それどころかギアが上がっているようだった。
ウジャは走り徹の前へ出て、回し蹴りをする。
徹は顔の横に腕を立てて、蹴りを防ぐ。
そのままウジャの足を掴み、放り投げる。さすがにこれではダメージもないので、空中で身を翻しウジャは着地。
その離れた所を狙ってモースが二丁拳銃を徹に向けて発砲。
いい位置への命中はしなかったが、何発かはかする。
「おっと危ねぇ!」
さすがに遠距離からの銃は危険だ。その間もモースが近づきながら発砲するので、徹は近くに横倒しになっている壊れた車を盾に隠れる。
朽ちかけているとはいえ、鉄板の強度は健在していた。そのお陰で激しく飛んでくる銃弾は防がれていた。
廃車の裏で徹はどうするか少し考えるが、すぐに思いつく。
「隠れても無駄だ、そこにいるのはわかっている以上、こちらも無駄撃ちはしない。大人しく出てこい!」
そして車の陰で物音がして、モースは銃を構える。
だが。
「鉄玉寄越すんならこっちもでけぇ鉄くれてやるよ!」
そう言って徹は足に『疾脚』の能力を高め、廃車を思い切り蹴り飛ばす。
ガァンッ!!!!
廃車は大きな音と共に浮き上がり、モースに向けて一直線。
「嘘だろっ?!」
朽ちかけた大きな鉄の塊が高速でモースに向かって飛んでくる。さすがに銃弾でどうこうなるものではない。
慌てて飛び込み回避をする。
回避した先で、先程飛んできた車を見る。いくら壊れているとはいえ、数百kgはあるであろう鉄の塊を高速で飛ばしてくるとは、なんという怪力であろう。
「規格外すぎる……」
と、その時モースは呟いた時後ろに影。
「しまっ……」
距離を取ろうとしたが遅すぎる。腰をがっしりとホールドされ、動けない。そしてモースの視界が上下反転する。
「食らっとけ!!」
徹のバックドロップが炸裂。
モース、大ダメージで気絶。
「見境なしかよ……」
流石に冷や汗が吹き出てくるウジャ。ガイアも徹の規格外ぶりに息を飲む。
ゆらりと立ち上がる徹。首を斜め後ろに傾け笑う。
「歯ごたえねぇなぁ?もう少し楽しませろよ」
武器もない。魔法らしいものも使ってない。だが、目の前にいるそれから発せられる威圧感は計り知れないものだった。
バトルロイヤルの性質上、6人同時に戦い、最後に残ったものに賞金。敗退や降参には何も無いのだが。
目の前にいる徹に勝ち筋が乏しく感じる。
だが、諦めるのもまた違う。
ウジャとガイアは戦い抜くことを決める。
「くそ、逃げるなんて癪だ!」
「勝つのは俺だ!」
ウジャが魔法を使う。
「拘束してやる!『水糸縛』!」
細い水でできた糸が徹の周りに現れ、縛り上げる。
「おおっ?!」
そのまま宙に浮かび、岩場へと叩きつける。
砂漠の砂が舞い上がり、視界が悪くなる。
抵抗ができない状態ならかなりの痛手を浴びせられる。このまま攻めようとウジャは徹を投げた岩場へ走り出す。
「このままくたばらせる!」
腰の短剣を取り出して構えながら走る。
こちらも視界が悪いが、それは向こうも同じだ。それならこの期を逃さない。いる位置はおおよそ検討が着いているのだから。
そう思ったが。
砂煙から腕が伸びてくる。ウジャが気づいた時には首を掴まれた。
「……!」
煙から姿を現したのは頭に擦り傷がある徹。
「なっ……、岩場に叩きつけたのになんでそんな軽傷なんだ!」
ウジャの首を掴んだまま徹は首を鳴らす。
「知らねーよ、つーか痛ぇだろうが」
ぱっとウジャの首を掴んでいた手を離したかと思うと、
「がっは……!」
ウジャの腹部に鋭い痛みが走る。
鳩尾に膝蹴りが決められる。脚力が並外れている。
ウジャは後方に飛ばされ、砂地に倒れる。
残るはガイア。彼がこの中では1番大柄だが、先の4人撃破の様子を見るに、徹が只者では無いことは確かだ。
ハンマーを握る手に汗が滲む。
「お前は少し丈夫そうに見えるな」
もう既に4人倒したとは思えない余裕さだ。
「ボコして良いよな?」
不敵に笑う徹。
まずい。これは本当にまずい。
砂を巻き上げて走ってくる徹。冷静に狙いを定めてガイアはハンマーを振り下ろす。
ハンマーは徹には当たらず、砂地に落ちる。衝撃で砂が高く飛び散る。
今までの戦いを見るに、相手は異様なまでの脚力を持っていると推測される。
だから、今のも当たらずにどこかにいる。
すぐに下と後ろを確認するが、徹の姿を確認することができない。
「どこに……?!」
すると、上から声がする。
「こっちだよ」
ガイアは咄嗟に上への防御姿勢を取ると、上からかかと落としが降ってきた。
重い衝撃に、身体が少し砂に沈む。
「ぐぅっ……?!」
徹はもう片足でガイアを軽く踏みつけながら後ろへ飛び、着地。
「さすがにこれじゃあダメみたいだな」
まだまだ余裕そうに徹が言う。
重いハンマーで捉えられる相手じゃないと悟ったガイアはハンマーを投げ捨て格闘術の構えを取る。
ガイアは踏み込み、走り出した。そして拳を振り上げ殴り掛かるが、徹は腕を軽くいなして受け流す。
勢いが残ったまま前方に進むが、背中に痛みが走る。
背中に回し蹴りが入れられた。
しかし、ガイアはタフなこともあり、数歩ふらつく程度で済んだ。
「まぁ耐えるよな、そう来なくちゃな」
徹は息一つ切らしていない。
その言葉の後、徹は地面の砂ごと蹴り上げを行う。砂が舞う。ガイアはすぐに目を閉じて砂が入るのを回避する。
その目を閉じている間に正面からの蹴り。
重い。骨が軋むかのような重撃だ。
ガイアも砂を払い目を開けて、しっかりと踏み込みアッパーをお見舞いする。
徹は体勢を低くし、避ける。
回転するように足を払う。
掃腿――――
足を払われ後ろにバランスを崩すガイア。
狙った先は――急所。
「――――っっつ??!?!?!!?!!」
この試合を見ていた全ての男性陣に冷や汗か吹き出した。
車を吹き飛ばせるほどの脚力を持つ男からの急所蹴り。痛いで済むわけもなく……
泡を吹いて気絶。
最後のあまりに痛すぎる一撃に、調査隊一行の男性陣は言葉を失う。
「「「「「………………」」」」」
アイヴィーはアンドロイドなのに大爆笑していた。
「これは……バッドすぎるぜ……」
ヌルもさすがにガイアに同情したようだ。
横で見ていた毛玉はなぜかしおしおになっていた。
大音量のブザーが鳴り、試合終了の合図。
『勝者 馬帝 徹』
会場からは大歓声。なかなかのトリッキー且つ圧倒的な戦いぶりに賞賛の声が上がった。
徹の大暴れは一旦の終幕を迎えた。
観客席に戻る徹。
「いやー、暴れたぜ!」
意気揚々と帰ってきた。その徹に一番に声をかけたのは……
「あんさん、やるなぁ」
馴れ馴れしく肩を組んでくるアザラシ。
「さすがワイの弟子や」
「いつなったんだよ」
即ツッコミ。
「凄かった……うん、色々」
何となく視線を逸らすワンダースケア。
「面白かったよ」
イオリは普通に拍手している。
せっかくの勝ちなのに、どことなく変な空気が流れていた一行であった。
しばかれた皆さまご愁傷様です。