君とボクの二度目の冒険 〜病弱だった僕は、二度目の命で幼なじみと世界を旅する〜 作:屠龍
第十話 自分の道――少年は夢を口にする――
「塾の武芸は続けるけど、神聖魔法も習いたい」
僕の言葉に、父さんも母さんも絶句した。
子どもが武芸を習うこと自体は珍しくない。
多少の喧嘩や身を守るために、塾へ通うのはこの街ではよくあることだ。
転生してからというもの、僕は自由に動く身体が嬉しくてたまらず、武芸にも熱心に打ち込んできた。
剣も格闘技も、それなりに自信がある。
けれど、神聖魔法となると話は別だ。
それを本格的に学ぶのは、兵士や傭兵のように荒事を生業にする者か、教会で高位を目指す者くらいしかいない。
「父さんも母さんも、ユキナを愛している。だから包み隠さず教えてくれ」
父さんは真っ直ぐ僕を見た。
「教会に入りたいのか?」
その問いに、僕は首を横に振った。
けれど喉がひどく乾いていて、すぐには次の言葉が出てこない。
膝の上に置いた手のひらにはじっとりと汗がにじみ、指先がわずかに震えていた。
今なら冗談ですむと心のどこかが囁く。
それでも僕は、唇をきゅっと結んで息を吸い込んだ。
「僕もお父さんとお母さんを愛してるよ。だから正直に言うね」
一度だけ息を吸う。
ここで誤魔化したら、きっと一生後悔する。
「僕は冒険者になって、広い世界を見てみたい」
言った瞬間、胸の奥が熱くなった。
心臓がどくんと強く鳴り、肩に入っていた力が少しだけ抜ける。
もう引き返せない。
けれど不思議と後悔はなかった。
父さんの眉がわずかに動く。
「酒造業は退屈に見えるのか?」
「そんなことない。お父さんの仕事は立派だと思ってるし、お父さんのことは世界一尊敬してる。でも――僕は外の世界を見てみたいんだ」
言い切ってから、僕は無意識に背筋を伸ばしていた。
怒鳴られるかもしれない。叱られるかもしれない。
それでも視線だけは逸らすまいと、父さんの目をまっすぐ見返す。
そうしなければ、自分で口にした夢まで嘘になってしまいそうだった。
前世でできなかったこと。
自分の足で遠くへ行くこと。
自分の身体で、自分の人生を生きること。
この世界に生まれ変わって、健康な身体を手に入れた今なら、それができるかもしれない。
そう思ってしまったら、もう知らないふりはできなかった。
父さんも母さんも、すぐには何も言わなかった。
顔を見合わせて、真剣に悩んでくれている。
本当なら殴られて終わりでもおかしくない話だ。
裕福な酒造業の跡取りが、わざわざ危険な道へ進みたいなどと言い出したのだから。
それなのに、この人たちは僕の望みをちゃんと受け止めてくれている。
この世界の両親は、本当に僕を愛してくれている。
そのことが、ありがたくて仕方がなかった。
胸の奥がじんと熱くなり、僕は悟られないようにそっと拳を握る。
泣くような歳じゃないと思っていても、こういう時だけは鼻の奥がつんとした。
やがて父さんが、低い声で言った。
「……すぐには答えられん」
その一言は、拒絶ではなかった。
だからこそ、余計に胸に響いた。
母さんも静かに頷く。
「大事なことだもの。今ここで簡単に決める話じゃないわ」
窓の外では、夕方の光が石畳を赤く染め始めていた。
いつもなら食欲をそそる台所の匂いも、今日は妙に落ち着かない。
家の中の空気が、少しだけ変わってしまった気がした。
けれどそれは、悪い変化ではない。
子ども扱いではなく、一人の人間として向き合ってもらえているのだと分かったからだ。
僕は膝の上で拳を握りしめる。
怖くないわけじゃない。
父さんに反対されるかもしれない。
母さんに泣かれるかもしれない。
それでも、言わなくてよかったとは思わなかった。
ミレーヌが当たり前みたいな顔で「冒険者になる」と言った時、僕の中で何かが揺れた。
自分の人生を、自分で選びたい。
その気持ちは、もう消えてくれそうになかった。
「ユキナ」
父さんに名を呼ばれて顔を上げる。
「その話は、今夜ちゃんとしよう」
逃げるような言い方ではなかった。
家のことも、僕のことも、本気で考える者の声だった。
だから僕も、まっすぐ頷いた。
「うん」
返事をした声は思ったよりかすれていて、自分でも少し驚いた。
それでも胸の奥では、小さな火が消えずに灯っている。
怖さはまだある。けれどそれ以上に、自分の口で夢を言えたことが嬉しかった。
その日の夕食は、家族会議になった