君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第百二話 目覚めの瞬間

第百二話 目覚めの瞬間

 

 僕とミレーヌは顔を洗い、服を整えてから朝食を取ることにした。

 

 今日は目玉焼きが三つに、分厚いハムステーキだった。

 昨夜はほとんど眠れなかったせいか、僕もミレーヌもお腹が空いていた。

 

 「この依頼をシグレさん達に話したら、一緒に来てくれるかな」

 

 僕が分厚いハムステーキをナイフとフォークで切り分けながら言う。

 

 塩と香辛料が効いたハムは、噛むたびに肉汁が溢れてくる。

 この宿は料理が美味しいことで有名だ。

 その分、料金も高いけど。

 

 「危険な依頼だからね。相談してみて、断られても仕方ないとボクは思うよ」

 

 ミレーヌも、大きなパンを手でちぎって食べている。

 

 「そうだよね。でも、シグレさん達が来てくれたらすごく心強いよ」

 

 「ボク達が生き残る可能性も、かなり高くなるよね」

 

 でも逆に言えば、シグレさん達を危険に晒すことになる。

 

 クヌートとフェリシアが飛べると言っても、何日も精神集中を続けることはできない。

 船が沈む時は、全員が死ぬかもしれない。

 

 そんな危険な依頼に、仲間を巻き込んでいいのだろうか。

 

 昨日までなら、僕はこの不安を一人で抱え込んでいたかもしれない。

 仲間を危険に巻き込むかもしれないと思いながら、それでも自分だけで正しい答えを探そうとしていたはずだ。

 

 でも今は違う。

 

 隣でパンをちぎっているミレーヌに、僕はちゃんと不安を口にしている。

 ミレーヌも、無理に笑って僕に合わせるのではなく、危険なものは危険だと言ってくれている。

 

 それだけで、少しだけ息がしやすかった。

 

 ミレーヌはパンを飲み込むと、静かに僕を見た。

 

 「ユキナ。一緒にお願いしよう。断られても恨まない。でも、何も言わずに決めるのはもうやめよう」

 

 「うん」

 

 その言葉に頷けることが、昨夜から少しだけ前に進めた証のように思えた。

 

 断られることを覚悟して、僕とミレーヌは食後に冒険者ギルドへ向かった。

 

 そこには、険しい顔をした受付嬢のマリアさんがいた。

 

 「そっか。ミレーヌちゃんは、ユキナ君と一緒に行くのね」

 

 「はい」

 

 ミレーヌは、少し緊張しながらもはっきりと頷いた。

 

 「ボクも、自分で決めました。ユキナを一人で行かせたくないから。怖いけど、ちゃんと一緒に考えて、一緒に行きます」

 

 マリアさんはしばらくミレーヌを見つめていた。

 

 そして、困ったように笑う。

 

 「本当に、二人とも頑固なんだから」

 

 そう言いながらも、マリアさんはすぐには判を押さなかった。

 判を持ったまま、しばらく依頼書を見つめている。

 

 受付嬢としては、条件を満たした冒険者が依頼を受けるのを止める権限はない。

 けれど、僕達をただの登録番号として見られないからこそ、迷ってくれているのだろう。

 

 「本当はね、こんな判、押したくないのよ」

 

 マリアさんは小さく呟いた。

 

 「でも、あなた達がちゃんと話し合って、それでも行くって決めたなら……受付嬢として、送り出すしかないわ」

 

 そう言って押された判の音は、いつもより重く聞こえた。

 

 「手続き終了。二人とも、必ず無事に帰ってくるのよ」

 

 「はい」

 

 僕とミレーヌは、正式に商船護衛の依頼を受けることになった。

 

 その後、シグレさん達を探してギルド内を歩いていると、険しい顔で依頼掲示板を見ているシグレさんとセシルさんを見つけた。

 

 二人が見ているのは、僕達が今受けたばかりの依頼書だった。

 

 「シグレさん、セシルさん。おはようございます」

 

 「おはようございますと言うには遅いと思うがな。もう昼前だぞ」

 

 シグレさんはそう言って、少し困ったように頬を掻いた。

 それから、商船護衛の依頼書を指さす。

 

 「これは、とても危険な依頼だ」

 

 「ですよね」

 

 「だが、この依頼を放置すれば、また多くの犠牲者が出る」

 

 「僕もそう思います」

 

 シグレさんは、しばらく黙っていた。

 

 「私達も、昨夜から考えていた」

 

 シグレさんは依頼書を見つめたまま言った。

 

 「危険なのは分かっている。船の上では、剣士がどれほど腕を磨いていても限界がある。だが、だからといって見なかったことにもできない」

 

 セシルさんが肩をすくめる。

 

 「あたいは正直、海の怪物なんて御免だけどね。でもさ、ここで逃げたら、たぶん酒がまずくなる。そういう依頼なんだよ、これは」

 

 軽い口調だった。

 けれど、セシルさんの目は笑っていなかった。

 

 シグレさんは、そこでようやく僕達へ向き直った。

 その表情はいつものように静かだったけれど、迷いはもう見えなかった。

 

 そして、真面目な顔で僕とミレーヌに頭を下げる。

 

 「だからだ。その、ユキナとミレーヌ次第だが……一緒にこの依頼を受けてくれないだろうか」

 

 僕とミレーヌは顔を見合わせた。

 

 そして、思わず吹き出した。

 

 「ぷっ……あはははは」

 

 「な、何か私はおかしいことを言っただろうか!?」

 

 いきなり笑い出した僕達を見て、シグレさんが慌てる。

 

 僕は笑いをこらえながら、さっきマリアさんに依頼を受ける手続きをしてもらったことを説明した。

 

 「つまり、私が誘う前に、君達はもう受けていたのか」

 

 「はい」

 

 「……そうか」

 

 シグレさんは少しだけ呆れたように息を吐いた。

 けれど、その表情はどこか安心しているようにも見えた。

 

 「ならば、話は早い。私とセシルも同行する」

 

 「あたいも行くよ。海の怪物退治なんて、普通なら御免だけどね」

 

 セシルさんが肩をすくめる。

 

 「でもまあ、放っておいたら寝覚めが悪い。それに、あんた達だけで行かせる方が心配だしね」

 

 「ありがとうございます」

 

 僕は二人に頭を下げた。

 

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