君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第百二十九話 同じ食卓には座れなくても
いつも通り、クヌートが沈黙の魔法で部屋を包み、音が外へ漏れないようにする。
女性陣がお風呂に入っている間、僕とクヌートは当然、部屋の外で見張りをすることになった。
旅の宿とはいえ気は抜けない。
盗みを働く宿泊客もいるし、ロッテのことを妙な目で見る者がいないとも限らない。
「みんな優しいし、うちの女性陣は本当に素敵だね」
僕がそう言うと、クヌートは当然のように頷いた。
「当然だ。フェリシアはいつでも美しく、可愛い」
「いや、フェリシアだけじゃないよ?」
「ミレーヌも綺麗だとは思うが、フェリシアはもっと綺麗で可愛い」
「シグレさんも凛々しくて芯が強いから、かっこいいし美人だね」
「セシルも最初は苦手だったが、あれでなかなか気が利くし、情もある」
部屋の中に聞こえないから言えることもある。
最近、僕はクヌートとの距離が近くなった気がする。
最初は衝突もした。
けれど、クヌートが本当は義理堅く、優しく、芯のまっすぐな人だと分かってからは、お互いを認め合えるようになったと思う。
仲間としても、ウィザードであるクヌートは、妹のフェリシアと共になくてはならない存在だ。
古代魔法だけでなく、精霊魔法も神聖魔法も使える。
しかも複数の魔法を同時に扱える。
クヌートとフェリシアがいてくれるだけで、僕達はどれほど助かっているだろう。
僕とクヌートがそんな話をしていると、背後の扉が少しだけ開いた。
湯上がりのミレーヌが、長い緑色の髪を少し濡らしたまま顔を出す。
いつ見ても綺麗で可愛い。
けれど今は旅の途中で、仲間達もいる。僕は少し照れながら視線を戻した。
「お風呂空いたよ。今度はボク達が見張ってるから、二人とも入って」
「ありがとう。クヌート、入ろう」
「ああ。それでは、すまないが入らせてもらう」
そう言って、僕とクヌートは風呂で身体をきれいにした。
クヌートはハーフエルフだからなのか、とても綺麗な肌をしている。
華奢に見えるけれど、旅慣れた無駄のない身体だった。
「どうした、ユキナ。俺の身体が珍しいか?」
「ううん。クヌートの身体って綺麗だなって思って」
「俺にそういう趣味はないぞ」
「僕だってミレーヌ一筋だよ」
そう言って、僕達は笑い合った。
風呂の後は洗濯だ。
といっても、やり方は簡単だった。
残った湯に着ていた下着や服を入れ、砕いた石鹸を振りかける。
風と水と火の精霊で湯をかき混ぜ、浄化の魔法ですすぎ、最後に乾燥させる。
同時に複数の魔法を使えるクヌートとフェリシアのおかげで、僕達は旅の途中でも清潔に過ごせている。
使い終わった湯は、水の精霊で霧にしてから窓の外へ逃がした。
月のない夜に、薄い霧が静かに流れていく。
それは少しだけ幻想的だった。
身ぎれいになった僕達は、宿の食堂で夕食を取ることにした。
今夜の食事は、豆をすり潰したポタージュのようなスープと、香辛料で焼いた鶏肉だった。
あくまでロッテは、表向きは従者という扱いだ。
本当なら一緒に食卓を囲みたかった。
ロッテは僕達から少し離れた壁際に立っていた。
まるで、そこが自分のいるべき場所だと最初から決めているみたいだった。
「座っていいよ」と言いたかった。
でも、それを食堂で言えば、宿の主人だけでなく、周囲の客まで余計な目を向けてくるかもしれない。
僕は唇を噛む。
仲間なのに、仲間として隣に座らせることすらできない。
その事実が、思っていた以上に悔しかった。
けれど食堂でそれをすれば、宿の主人や他の客が何を言い出すか分からない。
だから僕達は多めに注文し、余ったという体裁でロッテの皿に取り分けた。
もちろん、食べ残しなんかじゃない。
最初からロッテの分として頼んだ料理だ。
僕達は急いで食べる。
そうしないと、ロッテがいつまでも食べられないからだ。
「もう食べていいよ」
僕達が食事を終えたのを見て、ロッテは遠慮がちに周囲を見回した。
その仕草が胸に刺さる。
誰かに許されないと食べられない。
そんなふうに思っているのだろうか。
「大丈夫。これはロッテの分だから」
僕がそう言うと、ロッテは小さく頷いた。
出会った頃、ロッテの茶色の髪はひどく汚れていた。
けれど毎日湯浴みをして、食事を欠かさなくなってからは、少しずつ艶が戻ってきている。
顔色も、出会った頃よりずっと良くなった。
少しずつ、彼女本来の表情が戻ってきているのだと思う。
その後は、六人用の大部屋で早めに休むことにした。
不潔だったシーツは浄化の魔法で文字通り洗い立てになり、僕達を優しく受け止めてくれた。
旅の疲れと満腹感で、僕はすぐ眠くなる。
ただ、部屋にある寝台は六つしかない。
だからロッテは、いつも女性陣の誰かと同じ寝台で休むことになっていた。
くじ引きの結果、今日はシグレさんがロッテの隣で眠ることになった。
シグレさんは、ロッテが眠れるまで、故郷の子守唄を静かに歌っていた。
子供扱いしているというより、不安で固まった心をほどこうとしているようだった。
故郷の歌なのだろうか。
言葉の意味は分からない。
けれどその歌は、夜の大部屋に静かに染み込んでいった。
ロッテの呼吸が、少しずつ穏やかになる。
それを聞いているうちに、僕達も優しい気持ちになって眠りへ落ちていった。