君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第十三話 試験――泥にまみれてでも勝ち残れ――

 第十三話 試験――泥にまみれてでも勝ち残れ――

 

 試験当日の朝、首都フレーベルの空はよく晴れていた。

 

 武官試験の会場には、朝早くから大勢の受験者が集まっていた。

 木剣や槍を持った者、軽鎧に身を包んだ者、緊張した顔で黙り込んでいる者。

 兵士を目指す者もいれば、護衛や傭兵を志す者もいる。

 理由は違っても、ここが自分の進路を決める場だということだけは皆同じだった。

 

 「まさか本当に武官試験で会うなんて思わなかったぜ」

 

 そう言って笑ったのは、幼馴染のシンジだ。

 父親が兵士のシンジは、前より少し背が伸び、肩回りもしっかりして見えた。

 日焼けした肌と短く刈った髪が、いかにも兵士志望らしい。

 

 「シンジはやっぱり兵士になるの?」

 

 「そうなるな。親父みたいに兵卒で終わるつもりはないけどさ。武官試験でいい点を取って、できれば下士官養成所に入りたい」

 

 「難しいの?」

 

 「最近は戦争が少ないからな。軍も昔ほど人を取らねえんだ。平和なのはいいことだけど、出世口は狭いんだよ」

 

 「いいことじゃないか」

 

 「まあな」

 

 シンジは肩をすくめて笑った。

 口ではそう言っていても、あいつがもっと上を目指しているのは何となく分かる。

 兵士になるだけじゃなく、できるだけ上へ行きたいのだろう。

 

 「ユキナはやっぱり冒険者か」

 

 「うん。そのためにここへ来た」

 

 「本気なんだな」

 

 「本気だよ」

 

 そう答えると、シンジは少しだけ目を細めた。

 

 「そっか。じゃあ負けてられねえな」

 

 そう言って、いつもの調子で僕の肩を軽く叩く。

 その何気ない仕草が少し嬉しかった。

 昔と同じように話しているのに、もう僕たちは子どものままではいられない。

 それぞれ自分の道へ進もうとしているのだと、あらためて思う。

 

 武官試験は、試験官との一対一で行われた。

 武器は自由。

 僕は迷わず木剣を選んだ。

 

 手に馴染む重さを確かめながら、呼吸を整える。

 ロイド教官に何度も矯正された型が、身体の奥から自然に浮かび上がってきた。

 肩の力を抜け。足を止めるな。剣だけに頼るな。

 叩き込まれた怒鳴り声まで、耳の奥に残っている気がした。

 

 試験官が先に動いた。

 

 踏み込みは鋭く、振り下ろしも重い。

 受け止めようと木剣を上げた瞬間、その軌道がわずかに変わる。

 

 しまった、と思った時には遅かった。

 

 木剣が僕の腕を打つ。

 痺れるような痛みが走り、思わず指が緩みかける。

 それでも歯を食いしばって握り直し、こちらから踏み込んだ。

 

 だが、読まれている。

 まともに打ち合っても勝てない。

 なら――剣だけに頼るな。

 

 僕はそのまま鍔迫り合いに持ち込み、身体ごとぶつけて間合いを潰した。

 押し込みながら足払いの隙を探るが、相手もそう簡単には崩れない。

 むしろこちらの狙いを見切っているようだった。

 

 押し合いの末、僕が一歩引いたその瞬間だった。

 

 試験官の剣が横から走る。

 手首を打たれ、僕の木剣が弾き飛ばされた。

 

 まずい。

 

 そのまま首筋へ剣先が迫る。

 そこで、頭の中にロイド教官の怒鳴り声が蘇った。

 

 ――棒がなけりゃ石を使え!!

 

 迷っている暇はなかった。

 

 地面に転がる小石を掴み、試験官の顔へ向けて投げつける。

 相手が一瞬ひるんだ隙に、そのまま体当たりした。

 

 二人まとめて砂の上に転がる。

 息が詰まり、肘が痛む。

 それでも必死に上を取り、相手の手首を押さえ込み、手刀を首元に当てた。

 

 「……降参だ」

 

 試験官が苦笑混じりに言った。

 

 「相変わらずロイド門下は泥臭い戦い方が好きだな」

 

 「すみません」

 

 「いや、それでいい。格好つけて死んでは何にもならんからな」

 

 試験官は起き上がりながら軽く肩を回した。

 

 「ただ、何度も通用する手じゃない。剣はもっと磨け」

 

 「はい」

 

 結果は、青銅級。

 

 剣そのものはまだ未熟でも、応用と実戦対応を評価されたらしい。

 その辺のごろつき相手なら、どうにか戦える。

 そんな最低限より少し上――それが今の僕の位置だった。

 

 試験場の外れの木陰に腰を下ろした途端、全身から力が抜けた。

 背中を木に預け、ぐったりしていると、ひやりと冷たいものが顔に落ちてくる。

 

 「おつかれさん」

 

 シンジが濡れタオルを僕の顔にかけていた。

 

 「……ありがとう」

 

 「しっかし、ひどい戦い方だったな。あれで青銅級って、試験官けっこう甘くないか?」

 

 呆れたように言うくせに、どこか楽しそうだ。

 

 「そういうシンジはどうだったの?」

 

 「俺は銅級。まだ未熟だけど、これから伸びるってさ」

 

 「十分強いじゃないか」

 

 「剣に限ってはな。お前んとこ、ロイド教官だろ。あそこは剣だけじゃなくて斧とか槍とか弓とかも叩き込む変わり種だからな。いざって時は、お前のほうがしぶといかもな」

 

 そう言って、シンジは濡れタオルで僕の頭をわしわしかき回した。

 

 「ま、剣に関してはユキナの方が上ってのは変わらないからな。頑張れよ」

 

 上機嫌に笑うシンジを見て、僕は少しだけ胸が熱くなった。

 自分より上の成績を取った相手を、こんなふうに素直に祝福できるやつはそう多くない。

 

 シンジが親友でよかった。

 心から、そう思う。

 

 けれど、これはまだ入口だ。

 

 青銅級を取っただけで、一人前になれたわけじゃない。

 冒険者への道は、ようやく始まったばかりなのだから。

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