君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

15 / 23
第三章 冒険者へ
第十五話 黄金の獅子亭――二人で踏み出す最初の一歩――


 第十五話 黄金の獅子亭――二人で踏み出す最初の一歩――

 

 王都フレーベルで一番の冒険者ギルド――黄金の獅子亭。

 

 その大きな看板を見上げて、ユキナは小さく息をのんだ。

 

 石造りの立派な建物の前を、剣や荷物を背負った冒険者たちが絶えず行き交っている。ずっと話には聞いていたが、こうして目の前に立つと、その重みは想像以上だった。

 

 隣でミレーヌが、そっとユキナの顔をのぞき込む。

 

 「ユキナ、緊張してる?」

 

 「……少し」

 

 そう答えると、ミレーヌがふふっと笑った。

 

 「私もだよ。でも、ユキナが一緒なら大丈夫」

 

 「それはこっちの台詞だよ」

 

 自然と肩の力が抜けた。

 

 一人なら、もう少しこの場で立ち尽くしていたかもしれない。けれど今日は違う。隣には、ずっと一緒に歩いてきた相手がいる。

 

 「行こうか、ミレーヌ」

 

 「うん」

 

 二人は並んで、黄金の獅子亭の扉をくぐった。

 

 中は朝から賑わっていた。長机には冒険者たちが集まり、壁には依頼書が並んでいる。酒場のような活気の中に、武具や薬品の匂いが混じり、ここがただの憩いの場ではないことを感じさせた。

 

 「すごいね……」

 

 「思ってたより人が多いな」

 

 「王都で一番だもんね」

 

 ミレーヌが少しだけユキナの袖をつまむ。

 

 「なんだか、本当に冒険者の世界って感じ」

 

 ユキナも小さくうなずいた。ここから自分たちも、その端に連なるのだと思うと、胸の奥が静かに熱くなった。

 

 奥の受付にいた栗色の髪の女性が、二人に気づいて微笑む。

 

 「いらっしゃい。登録希望の方かしら?」

 

 「はい」

 

 女性はやさしくうなずいた。

 

 「最初はみんな緊張するものよ。こちらへどうぞ」

 

 窓口に立つと、彼女は整った書類を手に取りながら名乗った。

 

 「私は受付のマリア。今日は登録手続きを担当するわ」

 

 「ユキナです」

 

 「ミレーヌです」

 

 「二人とも初登録で、一緒にパーティーを組むつもりかしら?」

 

 「はい」

 

 マリアは穏やかに微笑んだ。

 

 「最初に信頼できる相手がいるのはいいことよ。でも、仲がいいからこそ無理を隠してしまうこともあるわ。危ない時はちゃんと立ち止まること。それだけは忘れないでね」

 

 「はい」

 

 二人がそろって答えると、マリアは満足そうにうなずいた。

 

 「いい返事ね。こう見えて、私も昔は冒険者だったのよ」

 

 「えっ」

 

 ミレーヌが目を丸くする。

 

 「今は引退して受付をしてるけれどね。旦那も元冒険者で、今は教官をしてるわ」

 

 ユキナは思わず聞き返した。

 

 「教官って……ロイド教官ですか?」

 

 「そう、そのロイドよ」

 

 マリアがくすりと笑う。

 

 「あの人が鍛えた子なら、基礎はしっかりしてるでしょうね」

 

 その言葉に、ユキナは少しだけ胸が温かくなるのを感じた。厳しい訓練も、無駄ではなかったのだと思えたからだ。

 

 名前、年齢、得意分野。必要事項を一つずつ確認しながら、マリアは手際よく書類をまとめていく。話し方は落ち着いていて、こちらの緊張を煽らない。

 

 「はい、これで登録は完了よ」

 

 差し出された小さな冒険者証を受け取り、ユキナは息を止めた。

 

 まだ依頼を受けたわけでもない。何かを成し遂げたわけでもない。それでも、その札には不思議な重みがあった。

 

 「これで二人とも、黄金の獅子亭所属の見習い冒険者よ」

 

 「……ほんとに、なれたんだね」

 

 ミレーヌの声に、ユキナは小さくうなずく。

 

 「うん」

 

 ミレーヌが嬉しそうに笑った。

 

 「なんだか、まだ信じられない」

 

 「僕もだよ。でも……嬉しい」

 

 「私も」

 

 マリアはそんな二人を見て、やさしく目を細めた。

 

 「最初の気持ちは大事にしてね。慣れてくると忘れそうになるから」

 

 「はい」

 

 「依頼を受けるのは今日でも明日でもいいけれど、焦らないこと。最初の一歩は、その後を決めるものよ」

 

 窓口を離れてからもしばらく、二人は冒険者証を見つめていた。

 

 ギルドの喧騒は変わらず続いている。笑い声、食器の音、武具の鳴る音。その真ん中で、ユキナはようやく実感した。

 

 ここから始まるのだ。

 

 まだ何者でもない見習いとして。けれど、自分の足で。

 

 ミレーヌが、そっと笑う。

 

 「ユキナ」

 

 「ん?」

 

 「これから、頑張ろうね」

 

 「ああ。一緒に」

 

 ユキナは冒険者証を握りしめた。

 

 その小さな重みが、これからの道のりの始まりを静かに告げていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。