君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第十五話 黄金の獅子亭――二人で踏み出す最初の一歩――
第十五話 黄金の獅子亭――二人で踏み出す最初の一歩――
王都フレーベルで一番の冒険者ギルド――黄金の獅子亭。
その大きな看板を見上げて、ユキナは小さく息をのんだ。
石造りの立派な建物の前を、剣や荷物を背負った冒険者たちが絶えず行き交っている。ずっと話には聞いていたが、こうして目の前に立つと、その重みは想像以上だった。
隣でミレーヌが、そっとユキナの顔をのぞき込む。
「ユキナ、緊張してる?」
「……少し」
そう答えると、ミレーヌがふふっと笑った。
「私もだよ。でも、ユキナが一緒なら大丈夫」
「それはこっちの台詞だよ」
自然と肩の力が抜けた。
一人なら、もう少しこの場で立ち尽くしていたかもしれない。けれど今日は違う。隣には、ずっと一緒に歩いてきた相手がいる。
「行こうか、ミレーヌ」
「うん」
二人は並んで、黄金の獅子亭の扉をくぐった。
中は朝から賑わっていた。長机には冒険者たちが集まり、壁には依頼書が並んでいる。酒場のような活気の中に、武具や薬品の匂いが混じり、ここがただの憩いの場ではないことを感じさせた。
「すごいね……」
「思ってたより人が多いな」
「王都で一番だもんね」
ミレーヌが少しだけユキナの袖をつまむ。
「なんだか、本当に冒険者の世界って感じ」
ユキナも小さくうなずいた。ここから自分たちも、その端に連なるのだと思うと、胸の奥が静かに熱くなった。
奥の受付にいた栗色の髪の女性が、二人に気づいて微笑む。
「いらっしゃい。登録希望の方かしら?」
「はい」
女性はやさしくうなずいた。
「最初はみんな緊張するものよ。こちらへどうぞ」
窓口に立つと、彼女は整った書類を手に取りながら名乗った。
「私は受付のマリア。今日は登録手続きを担当するわ」
「ユキナです」
「ミレーヌです」
「二人とも初登録で、一緒にパーティーを組むつもりかしら?」
「はい」
マリアは穏やかに微笑んだ。
「最初に信頼できる相手がいるのはいいことよ。でも、仲がいいからこそ無理を隠してしまうこともあるわ。危ない時はちゃんと立ち止まること。それだけは忘れないでね」
「はい」
二人がそろって答えると、マリアは満足そうにうなずいた。
「いい返事ね。こう見えて、私も昔は冒険者だったのよ」
「えっ」
ミレーヌが目を丸くする。
「今は引退して受付をしてるけれどね。旦那も元冒険者で、今は教官をしてるわ」
ユキナは思わず聞き返した。
「教官って……ロイド教官ですか?」
「そう、そのロイドよ」
マリアがくすりと笑う。
「あの人が鍛えた子なら、基礎はしっかりしてるでしょうね」
その言葉に、ユキナは少しだけ胸が温かくなるのを感じた。厳しい訓練も、無駄ではなかったのだと思えたからだ。
名前、年齢、得意分野。必要事項を一つずつ確認しながら、マリアは手際よく書類をまとめていく。話し方は落ち着いていて、こちらの緊張を煽らない。
「はい、これで登録は完了よ」
差し出された小さな冒険者証を受け取り、ユキナは息を止めた。
まだ依頼を受けたわけでもない。何かを成し遂げたわけでもない。それでも、その札には不思議な重みがあった。
「これで二人とも、黄金の獅子亭所属の見習い冒険者よ」
「……ほんとに、なれたんだね」
ミレーヌの声に、ユキナは小さくうなずく。
「うん」
ミレーヌが嬉しそうに笑った。
「なんだか、まだ信じられない」
「僕もだよ。でも……嬉しい」
「私も」
マリアはそんな二人を見て、やさしく目を細めた。
「最初の気持ちは大事にしてね。慣れてくると忘れそうになるから」
「はい」
「依頼を受けるのは今日でも明日でもいいけれど、焦らないこと。最初の一歩は、その後を決めるものよ」
窓口を離れてからもしばらく、二人は冒険者証を見つめていた。
ギルドの喧騒は変わらず続いている。笑い声、食器の音、武具の鳴る音。その真ん中で、ユキナはようやく実感した。
ここから始まるのだ。
まだ何者でもない見習いとして。けれど、自分の足で。
ミレーヌが、そっと笑う。
「ユキナ」
「ん?」
「これから、頑張ろうね」
「ああ。一緒に」
ユキナは冒険者証を握りしめた。
その小さな重みが、これからの道のりの始まりを静かに告げていた。