君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第百五十一話 情報を合わせて
僕たちは冒険者ギルドに戻ると、仲間たちに大図書館で調べたことを伝えた。
マナジ教。
皇帝が、その魔王崇拝の宗教に操られているかもしれないこと。
そして、フミン族がかつて魔王と戦った勇者の民でありながら、人間族に裏切られ、土地と神殿を奪われたこと。
話し終える頃には、部屋の空気は重く沈んでいた。
「フミン族が、勇者の民だった……?」
フェリシアが信じられないという顔で呟く。
クヌートも腕を組んだまま、黙っている。
いつもの皮肉っぽい表情はなかった。
ロッテは俯いたまま、膝の上で手を握っている。
大図書館で読んだ内容は、まだ彼女の中で整理できていないのだろう。
「アルスラン帝国の人たちがフミン族を嫌う理由は、ただの蔑みだけではないのかもしれません」
僕は静かに言った。
「奪った側だからこそ、奪われた側を見たくない。そういう後ろめたさが、憎しみに変わっているように思えます」
誰もすぐには答えなかった。
数百年前の出来事だ。
今を生きる人間全員が、直接手を下したわけではない。
それでも、その上に国が築かれ、その傷が今もロッテたちを苦しめている。
歴史は終わっていない。
そんな気がした。
「で、マナジ教ってのは、そのフミン族の復讐組織と関係がありそうなんだね?」
セシルさんが口を開く。
僕は頷いた。
「断定はできません。ただ、虐殺を逃れたフミン族の一部が暗殺者集団を作ったという記録がありました。その後、その一部が魔王信仰と結びついた可能性がある、と」
「なるほどね。暗殺者集団なら、あたいの出番だ」
セシルさんは椅子の背にもたれ、にやりと笑う。
「盗賊ギルドと、裏通りの連中に当たってみる。乞食や浮浪者も含めてね。街の隅にいる奴ほど、貴族や役人が見落としたものを見てるもんさ」
「危険ではありませんか?」
僕が尋ねると、セシルさんは軽く肩をすくめた。
「危険だからこそ、素人が首を突っ込むよりマシってことさ。あたいとシグレで動くよ」
「ただし、あたい達だけで突っ走るつもりはないよ」
セシルさんはそう言って、机の上に広げた街の簡易地図を指で叩いた。
「裏通り、盗賊ギルド、乞食連中。そこから出た話は、必ず一度ここに持ち帰る。勝手にマナジ教へ踏み込むのは無しだ」
「賛成だ」
シグレさんが静かに頷く。
「相手が皇帝の近くにいるなら、ただの邪教では済まない。こちらの動きが漏れれば、こちらだけでなくオットー殿にも迷惑がかかる」
「魔術関係の動きはこちらで見ます」
フェリシアが静かに言った。
「高価な触媒、呪具、禁書。そういうものが急に動いていれば、何か分かるかもしれません」
「俺も手伝う。魔術師相手なら金の流れも見る」
クヌートが短く付け加える。
普段なら金の話に聞こえるところなのに、今は妙に頼もしかった。
ロッテは少し迷ってから、小さく手を上げた。
「私は……フミン族の言葉や古い名前なら、少しは分かります。役に立てるなら、調べたいです」
その声は震えていた。
けれど、逃げる声ではなかった。
ミレーヌがそっとロッテの肩に手を置く。
「うん。一緒に調べよう」
その一言で、部屋の空気が少しだけ前を向いた。
確かに、僕たちには情報が足りない。
そして時間もない。
けれど、不安は消えなかった。
たとえマナジ教の陰謀を止めたとしても、アルスラン帝国そのものの問題が消えるわけではない。
かつての栄光を取り戻したいという願望。
質を落とした銀貨。
重税。
フミン族への差別。
それらがあるからこそ、マナジ教は皇帝を焚きつけることができたのだ。
火のないところに、煙は立たない。
僕は剣を振るうことはできる。
ミレーヌと共に戦うこともできる。
でも、政治家でも官僚でもない。
この国が抱える歪みそのものを、僕たちだけで変えることはできない。
それでも、今すぐ止めなければならないことがある。
戦争が始まれば、沢山の人が死ぬ。
それだけは、見過ごせなかった。
「僕たちは、フミン族の遺跡を調べてみようと思います」
僕が言うと、ミレーヌも頷いた。
「大図書館だけじゃ分からないこともあると思うんだ。直接見れば、何か分かるかもしれない」
「私も行きます」
ロッテが顔を上げた。
まだ目元は赤かった。
けれど、その声には迷いがなかった。
「フミン族のことなら、私も知らないままではいたくありません」
クヌートが小さく息を吐く。
「なら、俺とフェリシアも行く。古い神殿や遺跡なら、魔法の痕跡が残っているかもしれない」
「そうですね。私たちも、お役に立てると思います」
フェリシアも静かに頷いた。
こうして、僕たちは二手に分かれることになった。
シグレさんとセシルさんは裏社会へ。
僕とミレーヌ、ロッテ、クヌート、フェリシアは、フミン族に関わる遺跡を調べる。
翌朝。
朝のアストラハンは、昨日よりもざわついていた。
城門へ向かう荷馬車の音、兵士の号令、商人たちの怒鳴り声が、まだ冷たい空気の中に混じっている。
戦争が近づいている。
その気配を背中に感じながら、僕たちは帝都の外れへ向かった。
大図書館の記録では、そこにかつてフミン族の神殿があったという。
今はもう、湖の底に沈んでいるらしい。
何が見つかるかは分からない。
けれど、僕たちは知らなければならない。
マナジ教を追うためにも。
ロッテたちの失われた歴史を、少しでも取り戻すためにも。