君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第百五十四話 湖底の神殿

第百五十四話 湖底の神殿

 

 数時間後、僕たちは文字通り泥臭い方法で神殿を見つけた。

 

 クヌートとフェリシアが明かりの魔法を使うと、湖底に沈んでいた神殿の姿がはっきりと浮かび上がる。

 

 泥の上から光が降り注ぎ、そこだけが昼間のように明るくなった。

 

 湖の底に、朱塗りの柱が立っている。

 

 瓦葺きの屋根。

 

 太い木造の柱。

 

 そして、神殿の前に立つ鳥居。

 

 それは、どう見ても僕が前世で見た日本の神社に似ていた。

 

 いや、似ているどころではない。

 

 前世で父と母に連れられて見に行った、厳島神社の記憶と重なって見えた。

 

 「変わった造りだな。木製なのに腐ってもいない」

 

 クヌートが物珍しそうに鳥居を見つめる。

 

 それから、罠がないか魔法で探知してくれた。

 

 「……今のところ、危険な反応はないな」

 

 「ユキナ、どうかしたの?」

 

 ミレーヌが心配そうに僕を見上げる。

 

 僕はすぐに答えられなかった。

 

 懐かしい。

 

 そう思った次の瞬間、背筋が冷えた。

 

 懐かしいはずがない。

 

 ここはフォーチュリアで、湖の底で、フミン族の神殿なのだ。

 

 それなのに、僕の記憶の中にある日本の景色が、目の前にある。

 

 「……見たことがあるんだ」

 

 「え?」

 

 「前世で。僕がいた世界で、これに似た建物を見たことがある」

 

 クヌートが訝しげに僕を見た。

 

 「俺もフェリシアも、こんな建物は見たことがない。文献でも読んだことがないぞ」

 

 「私もありません」

 

 フェリシアも静かに首を振る。

 

 博識な二人が知らない。

 

 なら、この神殿はフォーチュリアの一般的な建築ではない。

 

 もしかすると、フミン族は僕と同じように、前世の日本と何か関わりがあるのかもしれない。

 

 そんな考えが頭をよぎった。

 

 ロッテは何も言わず、鳥居を見つめていた。

 

 自分たちの民の神殿。

 

 けれど、その姿は彼女にも見知らぬものらしい。

 

 それでも、ただの廃墟ではないことだけは感じているようだった。

 

 「中に入れそうだな」

 

 クヌートが鳥居を指し示す。

 

 泥に埋もれているはずなのに、鳥居の内側だけは不思議と開けていた。

 

 まるで、そこだけ湖の底ではないみたいに。

 

 僕たちは恐る恐る鳥居をくぐった。

 

 その瞬間、水の重さがふっと消えた。

 

 身体を包んでいた冷たさがなくなる。

 

 足の裏に、硬い木の感触が戻った。

 

 次の瞬間、僕は自分が水の中ではなく、乾いた空気の中に立っていることに気づいた。

 

 「わっ……!」

 

 急に重力が戻り、ミレーヌが少しよろめく。

 

 僕は慌てて彼女の腕を支えた。

 

 「大丈夫?」

 

 「うん。びっくりしただけ」

 

 ロッテが小さく息を吸う。

 

 「この中……空気があります」

 

 彼女が深呼吸すると、綺麗な空気が肺を満たしたようだった。

 

 僕も息を吸った。

 

 水の匂いはしない。

 

 かすかに木と土と草の匂いがする。

 

 湖底に沈んでいたはずの神殿の中に、庭が広がっていた。

 

 鳥居の先には、整えられた和風の庭があった。

 

 この世界のものとは違う植物が植えられている。

 けれど、どの木も丁寧に刈り込まれ、石は意味を持って置かれているように見えた。

 

 前世で同じ病院に入院していた元庭師のおじいさんが、石にも顔があると言っていたのを思い出す。

 

 その顔を立ててやると、庭が映えるのだと。

 

 子供だった僕にはよく分からなかったけれど、今なら少しだけ分かる気がした。

 

 庭の中央には大きな池がある。

 

 その真ん中に、石が立てられていた。

 

 池の周囲には松に似た木が配置され、建物と庭と水面が一つの世界を作っている。

 

 前世の知識で言えば、平安時代の浄土式庭園に近い。

 

 死後の安らぎを、この世に写そうとした庭。

 

 そう聞いたことがあった。

 

 「変わった神殿だな。いや、神殿というか屋敷か?」

 

 クヌートが興味深そうに辺りを見回す。

 

 「宗教施設には見えませんね」

 

 フェリシアも首を傾げた。

 

 二人は初めて見る庭園に興味を惹かれているようだった。

 

 知的好奇心の強い二人らしい。

 

 けれど、僕はすぐには動けなかった。

 

 この世界に来てから、和風建築を見るのは初めてだった。

 

 本物の木造建築。

 

 池に映る屋根。

 

 静かに整えられた庭。

 

 懐かしいと思うたびに、怖くなる。

 

 ここは僕の世界ではない。

 

 それなのに、前世の記憶が湖の底に沈んでいた。

 

 「ユキナ」

 

 ミレーヌが、そっと隣に立つ。

 

 「ここって、ユキナがいた世界と関係があるの?」

 

 「……たぶん」

 

 僕は池を見つめながら頷いた。

 

 「僕の知っている知識では、これは浄土式庭園に近いと思う。浄土っていうのは……死んだ後、苦しみのない世界に生まれ変わる場所、みたいに聞いたことがある」

 

 「天国と同じなの?」

 

 「少し違うかな。僕も詳しくはないけど、苦しみから離れて、安らかな世界に生まれ変わるって考え方だったと思う」

 

 「生まれ変わる……」

 

 ミレーヌが小さく繰り返した。

 

 その言葉に、僕も黙った。

 

 生まれ変わり。

 

 転生。

 

 僕自身が、この世界で経験していることだ。

 

 もしこの神殿が本当に前世の日本と関係しているなら、フミン族と転生者にも何かつながりがあるのかもしれない。

 

 「ユキナがボクたちの世界に来てくれたのも、そういう生まれ変わりの途中なのかな」

 

 「……そうなのかもしれない」

 

 自分で言って、胸の奥がざわついた。

 

 僕は死んで、この世界に生まれた。

 

 なら、次に死んだ時、僕はまた別のどこかへ生まれるのだろうか。

 

 その時、ミレーヌとは離れてしまうのだろうか。

 

 そんな考えが浮かんだ瞬間、ミレーヌが僕の顔を覗き込んだ。

 

 そして、満面の笑顔で言った。

 

 「じゃあボクたち、次に生まれ変わっても一緒がいいね」

 

 胸が締めつけられる。

 

 でも、不思議と怖さは少し薄れた。

 

 「うん。何度生まれ変わっても、ミレーヌの隣にいるよ」

 

 言ってから、自分でも少し恥ずかしくなった。

 

 けれど、ミレーヌは嬉しそうに笑う。

 

 「約束だよ」

 

 「うん。約束」

 

 僕たちがそう笑い合っていた時だった。

 

 先を歩いていたクヌートとフェリシアが、鋭くこちらを振り返る。

 

 クヌートはフェリシアを庇うように前へ出た。

 

 「何かいる」

 

 その声に、僕とミレーヌもすぐに身構えた。

 

 次の瞬間。

 

 邸全体が、白い光に包まれた。

 

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