君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第十九話 前線の村――運ばれる命、迫る脅威――

 第十九話 前線の村――運ばれる命、迫る脅威――

 

 首都フレーベルから薬や食料を積んだ馬車を護衛する。

 それが今回のクエストだった。

 報酬はよかった。けれど、国境へ近づくにつれて、その理由を嫌でも思い知ることになる。

 街道では、傷ついた兵士や、歩き疲れて道端に座り込む女や老人、子供たちと何度もすれ違った。

 荷物らしい荷物も持たず、ただ前だけを見て歩いていく人もいる。

 何も言わず母親の手を引かれて歩く子供の顔を見て、僕は胸の奥が重くなるのを感じた。

 前線の状況は、僕が思っていたよりずっと深刻らしかった。

 

 ◇◇◇

 

 十日の行程を経て、僕とミレーヌは前線近くの村にたどり着いた。

 村に入ろうとした輸送部隊の商団長が、検問の兵士と揉めている。

 

 「だからさっきも言っただろう! これはフレーベルの商業ギルドを通した正式な輸送だ!」

 「許可証があっても例外はない。荷はすべて改める」

 

 兵士の声は固く、商団長も苛立ちを隠せていなかった。

 なぜそこまで厳しくするのだろうと思っていると、商団長が止めるのも聞かずに、兵士たちが僕たちの馬車を一台ずつ確認し始めた。

 樽の蓋を開け、布をめくり、荷台の下まで覗き込んでいる。

 馬車は全部で十台もある。

 まさか全部を確認するつもりなのだろうか。

 

 検問の反対側からは、道中で見たよりもさらに多くの負傷兵や難民が首都へ向かって歩いてきていた。

 腕を吊った兵士、足を引きずる男、ぐったりした子供を背負う母親。

 荷車に乗せられた老人は、揺れるたびに苦しそうに眉をひそめている。

 道は舗装されておらず、連日の往来で深くえぐれてぬかるんでいた。

 沢山の人と馬車が通ったせいだろう、ところどころ崩れ、車輪がはまりそうな窪みもある。

 灰色の空は低く垂れこめ、いまにも雨が降り出しそうだった。

 湿った土の匂いに、馬の汗と血のような生臭さが混じって鼻につく。

 

 「ボクたち、まだ入れないのかな」

 

 不安そうにミレーヌが呟く。

 

 「そうみたい」

 

 答えたところで、ぱらぱらと冷たい雨粒が頬に落ちた。

 僕たちはマントについたフードをかぶる。

 マリアさんが選んでくれた分厚いマントは、雨と寒さをきちんと防いでくれた。

 布の上を雨粒が転がり落ちる音を聞きながら、僕は列の前方を見つめる。

 しばらくして調べ終わったのか、兵士がようやく通行の許可を出した。

 商団長は大きく息を吐き、手を振って馬車を進ませる。

 僕たちはぬかるんだ門をくぐり、村へと入った。

 

 村の広場に馬車を止めると、待ち構えていた兵士たちがすぐに集まってきた。

 顔には疲労の色が濃く、鎧やマントの端には泥がこびりついている。

 僕とミレーヌも一緒になって樽を下ろしていく。

 食料、傷薬、包帯、保存の利く薬草。

 どれも今のこの村には必要なものばかりだ。

 そして樽の代わりに、女性や子供、老人が馬車へと乗り込んでいく。

 行きに運んできた物資と、帰りに運ぶ人々。

 その入れ替わりが、この村の置かれた状況を何よりもはっきり物語っていた。

 

 僕は母親に手を引かれた小さな女の子を見て、胸が痛んだ。

 女の子は泣きもせず、ただじっと唇を結んでいる。

 よく見ると額に包帯が巻かれていて、その白い布にはうっすらと赤い染みが滲んでいた。

 

 「ちょっと待ってね」

 

 そう言って僕はしゃがみ込み、手のひらに魔力を集める。

 神聖魔法の基本、治癒。

 暖かな光が女の子の額に触れると、包帯の下の傷がゆっくりと塞がっていく。

 強い魔法ではない。

 けれど、浅い傷を癒やすくらいなら僕にもできる。

 

 女の子は驚いたように目を見開き、そっと自分の額に触れた。

 母親が何度も頭を下げる。

 

 「ありがとうございます」

 「いえ、道中のご無事をお祈りします」

 

 そう答えながら周囲を見回すと、避難民たちは皆、大なり小なり怪我を負っていた。

 擦り傷、切り傷、打撲、熱を持った患部。

 広場の隅では汚れた包帯を外し、鍋で湯を沸かして布を煮ている人もいる。

 だが、手当てをする人手が明らかに足りていなかった。

 商団長が配った傷薬を受け取り、僕はミレーヌと一緒に怪我人のもとへ走る。

 専門の医師は不足しているのだろう。

 きっと最前線に回されているのだ。

 

 護衛の任務がひと段落したいま、じっとしている気にはなれなかった。

 前世で長く病院に入院していた僕は、清潔というものに人一倍敏感だ。

 こういう場所では、怪我そのものよりも、その後に広がる病のほうが怖いことがある。

 

 「ミレーヌ。マスク持ってる?」

 「うん、持ってるよ。お父さんが持たせてくれた」

 

 さすが医師の娘だ。

 こういうときの備えをちゃんとしている。

 けれど、周囲の人たちにはその知識があまりない。

 このままでは病気が広がりかねない。

 

 僕は村の井戸へ向かった。

 そこにはすでに汲み上げられた水桶が並んでいたが、雨と泥と人の手で、どれもあまり状態がいいとは言えない。

 神聖魔法で水質を確かめると、やはり古くなって傷んでいるものが混じっていた。

 僕は一つ一つの桶に手をかざし、魔力を流し込んで浄化していく。

 澱んだ気配が薄れ、水面がわずかに澄んでいくのがわかった。

 

 「もう大丈夫です。ボクは医者の娘だから」

 

 そう言ってミレーヌは、傷薬とポーションを使いながら手際よく怪我人を診ていく。

 怯えた子供には優しく声をかけ、痛みに顔をしかめる老人には落ち着いた調子で説明している。

 その横顔は、普段のやわらかな彼女より少しだけ大人びて見えた。

 兵士には軍医がついているが、民間人にまで手は回っていないのだろう。

 僕も汚れた患部や包帯を魔法で浄化し、軽傷の者から順に治していく。

 高位の聖職者なら重傷者すら癒せるのかもしれない。

 けれど、神聖魔法を習ったばかりの僕にできるのは、せいぜい軽傷の治療までだ。

 それでも、やらないよりはずっといい。

 

 そのときだった。

 

 「きゃああああ!!」

 

 村の反対側から、鋭い悲鳴が響いた。

 僕とミレーヌ、それに護衛の冒険者たちは同時に顔を上げる。

 次の瞬間、僕たちは弾かれたように駆け出していた。

 

 そこにいたのは、魔王軍配下のゴブリン達だった。

 

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