君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第二十三話 雨上がりの村――守った命のその先へ――

 第二十三話 雨上がりの村――守った命のその先へ――

 

 翌朝、目を覚ますと、隣で身を寄せていたミレーヌに気が付いた。

 あのあと疲れ切って眠ってしまったのを思い出す。

 命のやり取りをしたというのに、僕たちはちゃんと食べて、ちゃんと眠っていた。

 生き延びたいという本能なのだろう。

 

 雨はやんでいた。

 

 ミレーヌの寝顔には、昨夜のような恐怖はない。

 こんな頼りない僕でも、少しは安心させてあげられているのだろうか。

 もう少し寝かせてあげたいなと思っていると、ミレーヌがゆっくりと瞳を開けた。

 

 「おはよう。よく眠れた?」

 

 「うん……ユキナが隣にいてくれたから」

 

 そう言って、僕たちは小さく笑った。

 

 朝食に配られた固いパンをかじっていると、僕とミレーヌは商団長に呼び出された。

 これ以上先へ進むのは危険すぎるため、輸送隊はここで引き返すのだという。

 

 「こんな状態の村を放っておくのですか!?」

 

 思わず声が大きくなる。

 商団長はわずかに眉を寄せたが、落ち着いた声で答えた。

 

 「言いたいことはわかる。だが、我々がやられたら、誰がこの村まで荷物を運ぶのかね」

 

 その言葉に、返す言葉が詰まりそうになる。

 わかっている。商団長たちも命がけでここまで来たのだ。

 それでも、引き下がるわけにはいかなかった。

 

 「でも、手当ての足りない重傷者をここに残したら危険です。昨日みたいな襲撃がまたあったら……」

 

 僕は村のほうを振り返る。

 柵は破られ、あちこちの家は荒らされている。

 幸い雨のおかげで燃やされはしなかったが、とても怪我人を安心して置いていける状態じゃない。

 

 「せめて、動かせる人だけでも馬車に乗せられませんか?」

 

 「気持ちはわかるが、我々もすぐに戻らなくちゃならん」

 

 商団長の声は厳しい。

 商人としての責任があるのだろう。

 

 「でも、ここに置いていけないでしょう?」

 

 「そんなの……見捨てるみたいで嫌だよ……!」

 

 僕とミレーヌは必死に訴えた。

 けれど、商団長はすぐには首を縦に振らない。

 

 そのときだった。

 

 「商人殿。冒険者たちの言う通りです」

 

 低くよく通る声が割って入る。

 振り向くと、村を守るために駐留していた兵士の一人がこちらへ歩いてきていた。

 濡れた外套の上からでもわかるほど姿勢がよく、ただ立っているだけで周囲の空気が引き締まる。

 

 「あなたは?」

 

 商団長が問いかける。

 

 「第二騎士団副団長、エリック・デュラン」

 

 その名乗りに、商団長の表情がわずかに変わった。

 第二騎士団といえば、国王直属の精鋭だとシンジが言っていた。

 その副団長ともなれば、相当の地位にあるはずだ。

 

 エリック副団長は僕たちのほうを一度見てから、商団長へ向き直る。

 

 「村の防備は破られ、負傷者も多い。応急処置はしているが、後方へ移せる者はすぐに移したい。だが、こちらも兵を裂ける状況ではない。前線の立て直しで手一杯だ」

 

 商団長は静かに腕を組んだ。

 

 「もちろん、事情は理解しております。ですが、商人が動くには理由が要る。危険な道を戻る以上、ただ善意だけでは隊商は動かせません」

 

 その言葉に、エリック副団長は短く息を吐く。

 

 「もちろん報酬は出す。……と言いたいところだが、兵站が逼迫していてな。金も物資も底をついているのが実情だ」

 

 その場に、重たい沈黙が落ちた。

 騎士団ですら、そこまで追い詰められているのか。

 

 商団長はしばらく考え込むように目を伏せ、それからゆっくりと口を開いた。

 

 「承知しております。ですが、商人が動くのは金だけではない。信用と見通しです。第二騎士団副団長エリック・デュラン殿の要請であれば、それは十分な価値になる」

 

 「では……」

 

 「将来の投資、ということにしておきましょう」

 

 商団長はそう言って、小さく肩をすくめた。

 それが商人なりの譲歩なのだろう。

 

 「ありがとうございます!」

 

 思わず頭を下げると、商団長は苦笑した。

 

 「礼を言うのはまだ早い。人を運ぶ以上、荷の積み方も順番も変えねばならん。君たちも働いてもらうぞ」

 

 「はい!」

 

 僕とミレーヌは声を揃えて答えた。

 

 話がまとまると、僕たちはすぐに動き出した。

 馬車の荷台を空け、動かせる重傷者から順に乗せていく。

 泣き疲れて眠っている子ども、顔色の悪い老人、腕を吊ったまま痛みに耐える兵士。

 村を離れる不安と、それでも後方へ行ける安堵が、人々の表情に入り混じっていた。

 

 昨日助けたあの親子も、その中にいた。

 母親はまだ顔色こそ悪いが、どうにか自力で立てるところまで回復している。

 女の子は僕の顔を見るなり、小さく頭を下げた。

 

 「お兄ちゃん、ありがとう」

 

 その一言が胸に刺さる。

 守れたのだと、ようやく少しだけ実感できた。

 

 僕は照れくさくなって、軽く手を振る。

 

 「無事にフレーベルまで行けるといいね」

 

 女の子はこくりと頷き、母親に手を引かれて馬車へ乗り込んでいった。

 

 空はまだどんよりと曇っていたけれど、昨夜の激しい雨は過ぎ去っていた。

 泥に汚れた村の中で、人々はそれでも前へ進もうとしている。

 

 馬車の隣で、ぬかるんだ道を僕とミレーヌは歩く。

 村を振り返ると、兵士や村人たちが手を振ってくれていた。

 

 「お前さんたちがいてくれなかったら、犠牲者はもっと多かったよ」

 

 そう言って商団長がため息をつく。

 けれど、その横顔はどこか少し晴れやかにも見えた。

 

 立場上、ああ言うしかなかったのだろう。

 それでもこの人は、最後には村を見捨てなかった。

 

 生きること。

 戦うこと。

 そして学ぶこと。

 

 ロイド教官の言う通り、泥くさくても生き残ることに意味がある。

 いまの僕は、ようやくそれを少しだけ実感していた。

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