君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第二十四話 帰還の獅子亭――次なる旅の気配――
第二十四話 帰還の獅子亭――次なる旅の気配――
輸送馬車護衛のクエストを果たして、僕とミレーヌは首都フレーベルへ戻った。
馬車に乗せられた人々は、そのままフレーベルに設けられた難民キャンプへ入ることになった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう」
「ありがとうございました」
あの親子とも、ここで別れることになる。
難民キャンプは快適とは言えないだろう。
けれど、少なくとも魔物に襲われる心配はない。
それだけで、人々の表情はずいぶんと和らいで見えた。
僕たちもそこまで同行し、簡単な引き継ぎを手伝った。
重傷者も幸い処置が早かったおかげで命に別状はなく、ひとまず胸を撫で下ろす。
「君たちのおかげで助かったよ。もし冒険者が嫌になったら、うちの門を叩くといい。歓迎する」
そう言って商団長は苦笑した。
「あの人たちは、これからどうなるんですか?」
僕が尋ねると、商団長は難民キャンプの方を見やった。
「一か月くらいは食料が支給される。だが、重傷者以外は仕事を見つけないとならんな。一応うちでも口は聞いてみるが、楽な生活ではないだろう」
現実は厳しい。
けれど、それでも生きていれば先がある。
商団長は報酬の袋を僕たちに渡し、それとは別に、少し多めの銀貨まで持たせてくれた。
立場のある人だが、冷たいだけの人ではないのだろう。
クエスト終了の手続きのために黄金の獅子亭へ戻ると、入口の看板が夕方の薄い陽を受けて鈍く光っていた。
扉を押して中へ入った瞬間、酒とスープと革鎧の匂いが混ざった、いかにも冒険者ギルドらしい空気が鼻をつく。
一階は酒場と受付を兼ねた広い造りになっていて、分厚い木の机と長椅子がいくつも並び、壁には剣や槍、討伐した魔物の頭骨や角が飾られている。
普段なら依頼を終えた冒険者たちの笑い声や、店員が皿を運ぶ音、酒杯のぶつかる音で賑やかな場所だ。
けれど今日の黄金の獅子亭には、いつものような陽気さが薄かった。
酒場の隅では、鎧を外しきれないまま椅子に沈み込むように座っている冒険者がいる。
泥と血の汚れが落ちきっていない外套を着たまま、黙ってスープをすすっている人もいた。
笑い声がないわけではない。
けれど、それはいつもの気安い騒ぎ方ではなく、生きて帰れたことを確かめるための、どこか無理に明るくしたような笑い方だった。
受付の後ろの壁には依頼書が隙間なく貼られている。
ゴブリン討伐、街道護衛、薬草採集、盗賊退治。
その横には、剥がされることのない捜索依頼書が何枚も残っていた。
名前、特徴、最後に確認された場所。
見覚えのある顔も混じっている気がして、僕は思わず視線を逸らす。
たぶん、もう戻らないのだろう。
それでも紙だけは、まだそこに貼られたままだった。
「二人とも、無事に戻ってきてよかったわ」
受付にいたマリアさんが、安堵したように笑った。
その笑顔を見て、ようやく本当に帰ってきたのだと実感する。
そう言って手続きを進めてくれる。
けれどギルド全体の空気は、どこか重かった。
僕とミレーヌは少し硬い笑顔で顔を見合わせる。
生き残れたことは嬉しい。
けれど、帰れなかった人たちを思うと、素直に喜ぶことはできなかった。
「はい、二人とも報酬よ」
そう言って、マリアさんが銀貨の入った袋を渡してくれる。
商団長が上乗せしてくれた分も合わせれば、数か月はなんとか暮らせそうだった。
とはいえ、それ以降の保証はない。
当然、新しいクエストを探さなくてはならない。
「マリアさん、早速次のクエストですが、いい依頼はありませんか?」
僕がそう言うと、マリアさんは目を丸くした。
「え、もう? 一か月くらい遊ぶと思ってたわ」
「そんなわけないですよ」
「普通は休むものよ。特に二人とも危険と隣り合わせだったんだし。ギルドとしては大助かりだけど、本当にいいの? 戦争で疲れたんじゃない?」
「ええ。でも、やっと本業に戻れましたから」
僕がそう答えると、マリアさんは心配そうな顔をした。
けれど僕の意志が変わらないと察したのか、すぐに受付嬢の顔へ戻る。
「実は戦争が激しくて兵士が足りないから、普段はおとなしいゴブリンたちまで暴れてるのよ。あとは街道沿いの盗賊退治ね」
そう言って、何枚もの依頼書をめくっていく。
紙の擦れる音がやけに大きく聞こえた。
枚数はかなり多く、やはり冒険者不足は深刻なようだった。
僕も報酬一覧を見ながら目を走らせる。
「このオーク退治って、僕には無理ですか?」
「んー、ユキナ君とミレーヌちゃん二人だけだと無理かな。せめて青銅級冒険者が一緒ならいいんだけど」
その言葉に、僕とミレーヌは顔を見合わせた。
前線での戦いを乗り越えたとはいえ、僕たちはまだ駆け出しだ。
無茶をして死んでしまっては意味がない。
けれど、だからといって、いつまでも立ち止まっているわけにもいかなかった。
そのときだった。
「もし手助けが必要なら、手を貸そうか?」
振り向くと、そこに二人の女性が立っていた。
片方は、腰に刀を差し、具足めいた甲冑をまとった黒髪の美女。
ポニーテールがよく似合う、凛とした印象の人だ。
無駄のない立ち姿には、ただ者ではない緊張感がある。
もう一人は、赤髪ショートの快活そうな女性で、ショートソードを背負い、腰にも剣を差している。
軽そうな足取りと油断のない目つきから、素早さを活かして戦う人だとすぐにわかった。
「私はシグレ。こっちはセシルだ」
「やっほー、セシルだよ」
セシルさんはフレンドリーに手を軽く上げ、シグレさんは礼儀正しく会釈をしてくれた。