君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜 作:屠龍
第二十五話 新たな出会い――先輩たちの申し出――
初対面の二人に驚いていると、マリアさんが二人を紹介してくれた。
「シグレさんは剣士、セシルさんは斥候ね。二人とも信頼できる鉄級冒険者よ」
マリアさんが小さく付け加える。
その一言だけで、二人が僕たちよりずっと場数を踏んできた先輩なのだとわかった。
「助けるって……僕たちをですか?」
思わず聞き返すと、シグレさんが静かに頷いた。
「ちょうど後輩を連れて動ける依頼を探していたところだ。戦争の影響で依頼の偏りが激しくてな。私たちにも少し事情がある」
「こっちも暇してたってわけ。ま、初心者のお守りってのも悪くないかなってね」
セシルさんがいたずらっぽく笑う。
軽い口調だが、目の奥は笑っていない。
あの人も、生死の境を見てきたのだろう。
ミレーヌが僕の隣で小さく息を呑む。
けれど、不安というよりは驚きのほうが大きいようだった。
「もちろん、無理にとは言わない」
シグレさんはそう言って、僕とミレーヌをまっすぐ見た。
「だが、君たちも死線を超えただろう。それでも次に進みたいというなら、少しは役に立てると思う」
その言葉に、僕は自然と背筋を伸ばしていた。
死線を超えた。
そう言われた途端、自分が昨日まで雨の村にいたことが、急にはっきり現実味を持って胸に戻ってくる。
僕はミレーヌを見た。
ミレーヌも僕を見返して、こくりと小さく頷く。
ここで立ち止まるわけにはいかない。
でも、二人だけで無茶をするのも違う。
なら――。
「お願いします」
僕がそう言うと、ミレーヌも続けた。
「ボクも、よろしくお願いします」
シグレさんはわずかに口元を緩め、セシルさんは「よし決まり」と言って楽しそうに笑った。
ギルドの中では、まだ誰かの笑い声と、別の誰かのため息が入り混じっている。
戦争の傷は、まだどこにも消えていない。
冒険者ギルドに併設された酒場は、そんな空気を包み込むように、今日も淡々と営業を続けていた。
分厚い木の机には無数の傷が刻まれ、何度も磨かれた椅子の脚は床石に擦れて丸くなっている。
壁際には酒樽が並び、煮込みの匂いとビールの香りが漂っていた。
酒場の隅では、依頼を終えた冒険者たちが黙って食事をしている。
いつもなら武勇伝や失敗談で騒がしい場所なのだろうが、今日はその声もどこか低く、押し殺したようだった。
僕たちが席に着くと、セシルさんが慣れた様子で店員へ合図を送った。
内陸のフレーベルでは珍しい鯉の揚げ物や、香辛料が使われたステーキやソーセージにチーズと並ぶ。
ほどなくして料理が並ぶとシグレさんが静かに言った。
「お近づきのしるしだ。今日は私とセシルが奢ろう」
シグレさんがそう言うと、僕は慌てて首を振った。
「でもそれは悪いですよ。やはり頭割りにしましょう」
「気にするな。今日くらいは先輩の顔を立てておけ」
その言い方が妙にさっぱりしていて、押しつけがましさはなかった。
横でセシルさんが笑う。
「そうそう。借りを作っとけば、そのうち返してもらえるしね」
「……なんだか、すごく商売上手な言い方ですね」
「でしょ?」
セシルさんはけらけらと笑って、ジョッキを軽く持ち上げた。
その明るさに、僕もつられて肩の力が少し抜ける。
ミレーヌは最初こそ緊張していたけれど、料理が運ばれてくると小さく息をついた。
こうして落ち着いて食卓を囲むのは、前線へ向かって以来、初めてのような気がする。
「でもいいんですか? 鉄級なら、もっといいクエストがあると思うのですが」
僕がそう尋ねると、シグレさんはナイフで肉を切り分けながら答えた。
「いや、かまわない。実は戦争でゴブリンたちが暴れているせいで、他の依頼が滞っているのだ」
「つまりどういうことですか?」
「冒険者ギルドの依頼がゴブリン退治でパンクしてるって意味。あいつら、放っとくとゴキブリみたいに増えるからさ」
セシルさんが肩をすくめる。
「定期的に討伐しないと、村も街道も被害が出る。だから討伐依頼が優先されて、あたいら鉄級向けの仕事が後回しになってるんだよ」
「確かに依頼書、ゴブリン退治ばっかだったよね」
ミレーヌがぽつりと呟く。
「戦争中はどうしても魔物の均衡が崩れる。兵士が前線に取られれば、街や街道の守りも薄くなる。結果、魔物も盗賊も活発になる」
シグレさんの言葉は静かだが、現実の重みがあった。
「いくら強くても、二人だけで長旅は危険だしね。夜の見張りは多いほうがいいし」
「確かにそうですね」
その分、報酬は人数で分け合うことになる。
けれど、命より重い報酬なんてない。
「ユキナとミレーヌは、どういう関係なんだ?」
突然、シグレさんに聞かれて僕は少し身を固くした。
するとセシルさんがすぐに身を乗り出してくる。
「もしかして恋人?」
「い、いえ、そういう間柄じゃないです」
僕が慌てて答えると、ミレーヌも少し頬を赤くしながら言った。
「ボクたち、幼馴染なんです」
「そうなのか」
「はい。僕とミレーヌは同じ街の出身です。セシルさんとシグレさんも同じ街出身ですか?」
「私は違うぞ。私が生まれたのは遠い東の国だ。こいつはこの街の出身らしいけどな」
「そうそう。あたいはここの生まれ。だからこの街のことなら裏から表まで何でも知ってるよ」
そう言ってセシルさんが笑う。
本当にこの街の事なら裏路地や裏社会についてもよく知っていそうだ。
初めて会ったはずなのに、不思議と居心地は悪くなかった。
生死の境の空気を知った者同士だからだろうか。
軽口の裏にも、静かな目の奥にも、確かな実力と覚悟が見える。
この二人となら、僕たちはまだ前へ進めるかもしれない。
そう思ったところで、酒場のざわめきが少しだけ遠く聞こえた。