君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第二十六話 初依頼へ――先輩たちの流儀――

 第二十六話 初依頼へ――先輩たちの流儀――

 

 酒酒場のざわめきはそのままに、話は少しずつ具体的な依頼のことへ移っていった。

 冒険者は、大体は四人くらいで組むことが多い。

 一人旅だと夜も眠れないし、何より心細い。

 かといって人数が多すぎると、報酬の分配や意見の食い違いで揉めやすい。

 だから四人くらいが、ちょうどいいのだろう。

 

 そんな僕たちの空気を見透かしたように、セシルさんがジョッキを揺らした。

 

 「ま、あたいら二人とあんたたち二人なら、収まりはいいよね。だから今は、こういう手頃な依頼を拾って回るしかないってわけ」

 

 なるほど。

 それなら、手頃な依頼が戻るまでのあいだ、僕たちの後見役になってくれるということなのだろうか。

 それはありがたい。

 

 「ご厚意に甘えさせていただきます」

 

 「後進を育てるのも先輩の務めだからな。私たちも、こうやって育てられたものだ」

 

 そう言って、シグレさんがわずかに微笑んだ。

 

 戦いを生き延びて戻ってきても、僕たちはまだ駆け出しだ。

 二人だけで進むには、この世界はあまりにも広く、そして危険すぎる。

 

 四人で組むことが決まっても、酒場の空気は急に明るくなったりはしなかった。

 戦争の後で、誰もが何かを失っている。

 けれど、それでも前へ進まなければならないのが冒険者なのだろう。

 

 「まあ、どうしても気が引けるなら身体で払ってもらってもいいけどさ~♡」

 

 そう言ってセシルさんがにやりと笑う。

 僕は思わず肩をすくめた。

 

 「すみません。僕、そういうのはちょっと……」

 

 「なんだ、好きな子でもいるのかい?」

 

 セシルさんが楽しそうに言う。

 ちらりとミレーヌを見ると、耳まで赤くして俯いていた。

 

 「この淫乱。話をややこしくするな」

 

 シグレさんが呆れたように言うと、セシルさんは「堅いなあ」と肩をすくめる。

 

 「じゃ、真面目な話に戻ろっか」

 

 そう言ってセシルさんがジョッキを置くと、シグレさんが何枚かの書類を机の上に広げた。

 A4用紙くらいの大きさの紙に、インクでびっしりと依頼の内容が記されている。

 

 「手頃なクエストを見つけてきた。この中から選んでくれ」

 

 そこに書かれているのは、ゴブリンやコボルトなどの雑魚敵主体の依頼ばかりだった。

 鋼鉄級以上の冒険者なら一人でも問題なくこなせるレベル。

 鉄級の二人なら余裕がある。

 

 今回だがミレーヌは青銅級、僕に至っては銅級だ。

 シグレさんたち鉄級二人の助けがあるなら、ようやく現実的になる。

 

 「これとか、いいと思います」

 

 そう言って僕が指したのは、山を越えた先にある村へ続く街道を荒らすゴブリンの敗残兵を狩る依頼だった。

 数は少し多いが、敵の中心はゴブリンだ。

 

 「ふむ。妥当だな」

 

 シグレさんが頷く。

 

 「ボクも賛成だよ♪」

 

 ミレーヌもすぐに同意した。

 

 「ちょっと物足りないけど、まあいいんじゃない?」

 

 セシルさんも肩をすくめながら認める。

 

 こうして、僕たちの最初の依頼は決まった。

 

 「それでは早速、準備をしようか」

 

 シグレさんがそう言うと、僕は首をかしげた。

 

 「準備ですか?」

 

 「ユキナとミレーヌは初めての本格的なクエストだろう? 冒険者たるもの、前準備を怠ると死ぬぞ」

 

 その言葉は静かだったが、妙に重かった。

 戦いを生き延びたばかりの僕には、その意味がよくわかる。

 

 「武器と鎧だけあればいいってものじゃない。寝床、食料、水、火、薬、荷物のまとめ方、休憩の取り方、全部だ」

 

 「冒険って、もっと派手なもんかと思ってた?」

 

 セシルさんが面白がるように笑う。

 

 「……少しは」

 

 正直に答えると、セシルさんは吹き出した。

 

 「実際は歩いて、食って、寝て、たまに戦う。そんなもんだよ」

 

 「そして、その“歩いて、食って、寝る”ができない者から死ぬ」

 

 シグレさんが淡々と続ける。

 

 ロイド教官も似たような事を言っていた気がする。

 戦う瞬間だけが戦いじゃない。

 むしろ、その前後をどう生き延びるかのほうが大事なのだ。

 

 「それなら、あたいは今夜の男でも見繕っておくよ。また明日な」

 

 セシルさんが立ち上がりながら、あっけらかんと言う。

 

 「まったく。ちゃんと準備はしておけよ」

 

 「へいへい。あたいも簡単に死にたくないしね」

 

 呆れた様子でシグレさんが言うと、セシルさんはひらひらと手を振って立ち去った。

 

 ほんと自由というか、奔放というか、自分の欲望に正直な人だなあと僕は思う。

 隣を見ると、ミレーヌも同じような顔をしていた。

 二人で困ったように顔を見合わせると、シグレさんが小さく息をつく。

 

 「気にするな。あれでも腕は確かだ」

 

 「は、はい」

 

 「明日、装備を見直す。足りないものも買う。君たちはまだ、自分たちが何を持って行くべきかも知らないだろう」

 

 その通りだった。

 僕もミレーヌも、前線ではただ必死に生き延びるだけで精一杯だった。

 冒険者として旅に出る準備とは、きっとまた別の知識が要るのだろう。

 

 酒場の喧騒の向こうで、誰かが笑い、誰かが怒鳴り、誰かが歌い出す。

 それでもそのすべてが、昨日までの戦場とは違う場所に帰ってきたのだと教えてくれる。

 

 初めての本格的な依頼。

 そして、初めての仲間との旅。

 

 戦いを生き延びて戻ってきても、冒険者としての戦いは、まだ始まったばかりだった。

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