君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第二十九話 出発――街道に潜む不穏――

 第二十九話 出発――街道に潜む不穏――

 

 ――翌朝。

 

 目を覚ました僕は大きく伸びをすると、ベッドから起き上がった。

 部屋を見回すと、ベッドのほかには古ぼけたテーブルと椅子があるだけだ。

 お金が無いのもあって荷物は少ない。

 もともと仮の宿だし、手荷物は小さくまとめてある。

 着替えなどの最低限の物しか持っていないからだ。

 

 部屋を出て一階にある食堂へ向かうと、すでに大勢の人たちで賑わっていた。

 空いている席に座ると、メイド服のウェイトレスがやってくる。

 

 「おはようございます♪」

 

 そう言って挨拶をしてくる茶髪で十歳くらいの女の子は、ミリアちゃんという宿の従業員さんで可愛らしい子だ。

 彼女の耳は普通の人間と違い、先が尖っているのが特徴だった。

 彼女はハーフエルフという、人間とエルフの混血らしい。

 

 ハーフエルフは不幸な生い立ちが多い。

 大体は人間の男に乱暴されたエルフが身ごもるのだという。

 だから成長したら早々にエルフの森を追い出され、自分で生きていかなくてはならない。

 ハーフエルフは魔法の才がある事が多く、自分が食べる以外のお金は勉強に使う子がほとんどだそうだ。

 

 『人間は博打に、エルフは楽器に、ドワーフは酒に、そしてハーフエルフは本に金を使う』

 

 そんな言葉があるほどらしい。

 

 魔法をうまく習得すれば、十分な稼ぎが期待できる。

 ミリアちゃんもきっと勉学に励んでいるのだろう。

 僕は少ないお金からそれなりのチップを渡すと、ミリアちゃんは凄く嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

 

 食堂や酒場で働くウェイトレスは、客からのチップが主な収入源になっている。

 もちろん店からも給金と寝泊まりする部屋は与えられるから、生きるのに最低限の生活は出来る。

 でもそれだけだ。

 小遣いや勉強代は、自分で稼がないといけない。

 

 お客に気に入られてチップを貰えば、その分ミリアちゃんは勉強ができる。

 だから「ありがとう」という言葉を添えてチップを渡すのは当然だと思った。

 

 ……とか格好いい事を言っても、僕もお金ないけどね。

 

 メニューはパンと肉のスープ、それからピクルスという野菜の酢漬けだけの簡単なものだったけど、十分おいしかった。

 都会でサラダはまず食べられない。

 農村から新鮮な野菜を運ぶことは困難だし、この世界で冷蔵庫は高価な魔法の品なので、野菜はすぐ腐ってしまうからだ。

 

 「美味しかったよ」

 

 「ユキナさんありがとうございます♪」

 

 食べ終わると食器をミリアちゃんに渡し、部屋へ戻る。

 それからしばらくして、待ち合わせのギルドへ向かった。

 

 ギルド内にある待ち合わせ場所の椅子に座っていると、ミレーヌとセシルさんとシグレさんが現れる。

 

 「ミレーヌ、おはよう」

 

 「ユキナ、おはよう♪」

 

 挨拶を交わすミレーヌは、いつもの私服ではなくブレストプレートメイルを装備していた。

 昨日購入した武器のエストックとショートソードとナイフが腰に差され、背中にはリュックを背負っている。

 僕も丸いラウンドシールドという盾を持っている以外は似たような格好だ。

 軽量化されているとはいえ、リュックはやはり重い。

 

 「お、早いなユキナ。あたいはまだ寝起きだから眠くて仕方がないよ」

 

 そう言って大きく欠伸をするセシルさん。

 昨夜深酒をしたようで、眠そうな顔で頭を押さえている。

 セシルさんは軽装のレザーアーマーという革で出来た鎧を身につけ、ショートソードを腰に差し、短弓を持った姿だ。

 

 「まったく。その不摂生な生活を改めないと早死にするぞ」

 

 そう言うシグレさんは、東洋の具足を身につけていた。

 具足というのは前世の日本の鎧で、軽くて防御力も高い。

 さすがにプレートアーマーほどではないが、その分動きやすい。

 こちらは完璧に準備が出来ているようで隙が無い。

 

 セシルさんはだらけているように見えるけれど、僕とミレーヌが背負った重いリュックを軽々と背負っているあたり、やはり歴戦の冒険者らしく体力がある。

 重い荷物を背負うコツがあるのだろう。

 

 「途中まで乗せてもらえる荷馬車は手配してある。行こう」

 

 シグレさんは荷馬車の護衛依頼を受けているようで手慣れていた。

 今回はゴブリンの討伐だが、その方面に行く荷馬車は護衛を連れている事が多いらしい。

 

 荷馬車も二頭立て馬車が一台だけではなかった。

 三台が一組で、それが三つ。

 つまり九台の二頭立て荷馬車に積み荷が積まれ、僕たち以外にも護衛が十人ほどついていた。

 

 「随分厳重ですね」

 

 「普段はこれほどではないのだがな。ゴブリンの敗残兵が多数潜んでいるので自然と大掛かりになる。我々はこの荷馬車の護衛をアルムという街まで行い、そこで別れて山に入る。ゴブリンの潜む山の近くを通るから、荷馬車の護衛といって油断しないように」

 

 僕の質問にシグレさんが答えてくれた。

 軽い軍隊のような規模の集団にいれば襲撃も躊躇われると思い込んでいて、油断する事が多々あるらしい。

 

 「ユキナ。護衛の連中にも気をつけろよ。あいつらの中に山賊が混じってないとも限らないからな」

 

 セシルさんが欠伸をしながらも、荷馬車の護衛にあたる十人を油断なく観察している。

 荷馬車の位置や時間を仲間に伝える山賊の手下が混じっている事もあるし、状況次第で護衛から山賊に変わる者もいるらしい。

 

 傭兵という存在は、金を払っている間も信用しきってはいけない。

 商人側も慣れたもので、僕たちのような冒険者と傭兵を半々に分けて雇っている。

 同じグループに纏めると、いざ裏切られた時に手出しができないからだ。

 特に傭兵は報酬目当てで裏切りかねないので、分けておいた方が無難だとシグレさんに教わった。

 

 「では出発」

 

 商団を率いる商人がそう言うと、馬がいななき、ゆっくりと馬車が動き出した。

 九台の馬車が連なって進む様子はなかなか壮観だ。

 けれど、思っていたより速い。

 僕とミレーヌは慣れない足取りで、馬車の速度に合わせて歩く。

 

 「途中で休憩があるから、それまでの辛抱だ」

 

 そう言ってシグレさんが僕とミレーヌを庇うように前を歩いてくれる。

 気がつくとセシルさんは欠伸をしつつ、目だけは真剣に周囲を見ていた。

 

 戦争でゴブリンを斬った時は考えている暇は無かった。

 相手は人間ではないから、それほど苦悩しなかったのかもしれない。

 けれど人間を相手に剣を振るえるのだろうか。

 

 シグレさん達は、既に何人か人間を斬った事があるのかもしれない。

 あまり聞くのも憚られる事だけど、冒険者なんてやっていたら山賊を相手にする事もあるだろう。

 

 その時、僕は人間を斬らなくてはならない。

 

 出来るだけ、それは避けたいと思う。

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