君とボクの二度目の冒険 〜病弱だった僕は、二度目の命で幼なじみと世界を旅する〜 作:屠龍
第三話 夏の川辺と、君の笑顔
中州から河原に戻った僕たちは、分担して火をおこすことにした。
持ってきた乾いた葉に火打石で火をつけ、小枝へと火を移していく。
やがてぱちぱちと木がはぜる音とともに、川魚の焼ける匂いが広がった。
その間にミンとスグハとミレーヌが、串に刺した魚を火加減に合わせて地面へ並べていく。
「わあ、すごい。ボク、川魚を食べるの初めて」
「そんなに珍しい?」
「うん。ボク、お魚は干し魚しか食べたことない」
僕の隣に座ったミレーヌが、大きく頷きながら笑う。
その笑顔に少しどきりとしていると、向かい側のミンが面白そうにこっちを見ていた。
慌てて目をそらすと、ミレーヌが不思議そうに僕の顔をのぞき込む。
「どうしたの、ユキナ?」
「え、ええと……川魚の食べ方とか、ミレーヌに教えようかなって」
そう言うと、自分でもわかるくらい声がぎこちなくなった。
「うん。教えて」
屈託なく笑うミレーヌに、僕は焼けた川魚を手に取った。
「こうやって串を持ったまま食べるんだ。海の魚と違って骨が柔らかいから、そのまま頭からでも食べられるよ」
そう言って僕は串に刺さった川魚を頭からかじる。
川苔を食べて育った魚だから独特の匂いがあるけれど、ミレーヌは平気だろうか。
「うん、やってみるね。……あむ」
そう言ってミレーヌは川魚を頬張った。
僕たちは思わずじっとその様子を見つめる。
「美味しい~♪」
その一言に、みんながほっとしたように笑った。
僕も初めて川魚を食べた時は独特の味に少し戸惑ったけれど、ミレーヌは大丈夫だったらしい。
「でしょ?」
そう言うと、ミレーヌはもう一口かじって嬉しそうに頷いた。
その笑顔を見ているだけで、なんだか僕まで嬉しくなった。
そのあと、僕たちは続けて川で遊んだ。
シンジが石を遠くまで投げ、枝に実った果物を落とす。
見事に落ちた実をみんなで分けて食べた。
「酸っぱいけどおいしいね」
「これ、チコの実っていうんだ」
「ボク、この味好きかも」
ミレーヌが口の端に果汁をつけたまま笑うたび、川辺の空気がふわりと軽くなる。
僕はなんとなく目を逸らしてしまった。
眩しくて、まともに見ていられなかった。
食後みんなで話をする。
自然と話題はミレーヌのことになった。
「明日からここの学校に通うんだ」
「そうなんだ。でも夏に来るなんて珍しいね」
普通は春に引っ越してくる子が多い。
僕も少し不思議に思った。
「ボクもよくわからない。なんでだろうね」
そう言ってミレーヌは、うーんと首をひねる。
「ま、知らない町なんだから何でも聞いてくれよ」
「そうそう、教えてあげるからさ」
「うん。ありがとう、みんな」
少し照れたように笑うミレーヌを見て、胸の奥がふわりとあたたかくなった。
それから僕たちは、夕暮れまで遊び続けた。
浅瀬で水をかけ合い、岩陰をのぞき込み、ときどき流れの速い場所ではしゃいだ。
泳ぎに挑戦したミレーヌは、最初こそ沈みかけて慌てていたけれど、何度もやるうちに少しずつ水に慣れていった。
僕たちが泳ぎ方を教えると、ミレーヌは驚くほどすぐに覚えた。
「できたー!」
そう叫んで水から顔を出したミレーヌが、嬉しそうに笑う。
その姿がおかしくて、眩しくて、僕も思わず笑ってしまった。
陽が傾き始め、川面が金色に染まった頃、僕たちは帰ることにした。
初めての町だし、送っていったほうがいいだろうか。
……いや、本当は、もう少しだけ一緒にいたかったのかもしれない。
「ユキナ、ミレーヌを送っていきなよ」
ミンがにやにやしながら言う。
このやろう、と思ったけれど、内心では少しだけ感謝していた。
「じゃあ行こうか」
「みんな、明日からよろしくねー!」
そう言ってみんなに手を振るミレーヌの家は、町の中心部に近い、少し裕福な人たちの住むあたりにあった。
夕暮れに染まる緑の長い髪を見ていると、それだけで胸が高鳴る。
「みんな優しいね」
「でしょ。みんないいやつなんだ」
友達を褒められると、なぜだか僕まで誇らしくなった。
今日の出来事を話しながら歩いていると、家まではあっという間だった。
少し寂しい。
でも、明日からまた会える。
その時、ミレーヌが夕暮れの空を見上げた。
「ねえユキナ」
「なに?」
「ユキナはさ、この町の外に出てみたいって思ったことない?」
不意の問いに、僕は足を止めた。
「外って……?」
「山の向こうとか、もっと遠くとか。ボク、知らない場所ってすごく気になるんだ」
そう言って笑うミレーヌの横顔は、今日何度も見た笑顔より少しだけ遠くを見ていた。
「行ってみたいの?」
「うん。知らない場所って、ちょっと怖いけど、すごくわくわくするから」
「それじゃ、また明日」
「うん。ユキナ、今日はありがとう」
そう言って満面の笑みを浮かべるミレーヌを見て、僕は明日が待ち遠しいと思った。
でも同時に、胸の奥のどこかで、今まで意識もしなかった“外の世界”が静かに揺れ始めていた。