君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第三十話 街道の休息――歩き、食べ、眠る冒険――

第三十話 街道の休息――歩き、食べ、眠る冒険――

 

 しばらく進むと道端に岩陰があり、そこに腰を下ろして昼食を取る事になった。

 どうやらここで少し休むらしい。

 交代で警戒して休むが、陽は高いので、すぐに奇襲とはいかないだろう。

 傭兵たちは慣れたもので、輪になって隙を隠しながらくつろいでいる。

 

 僕も腰に付けた水筒を取り出して水分補給を行う。

 歩き続けただけなのに喉は思った以上に渇いていたし、背中のリュックも肩にずっしりと食い込んでいる。

 戦場とはまた違う疲れ方だ。

 

 そんな僕にシグレさんが声をかけてきた。

 

 「思っていたより地味だろう?」

 

 「はい。もっと派手な事をすると思っていました」

 

 「私もそうだった。最初は期待に胸が躍ったものだが、実際はこのように歩き、食べ、寝るの繰り返しだ」

 

 そう言ってシグレさんが僕に燻製肉を分けてくれる。

 受け取って口に含むと、辛い塩気と燻された肉の味がした。

 お酒があればきっと美味しいだろうなと思う。

 

 「……顔に出てるぞ」

 

 「え?」

 

 「酒が欲しい顔だ」

 

 そう言われて思わず苦笑すると、少し離れた場所からセシルさんが笑った。

 

 「まだ早いよ、ユキナ。昼間っから飲んでたら足がもつれちゃうからね」

 

 「セシル、お前が言うと説得力が無いぞ」

 

 「昨日の酒は昨日の酒。今日は今日の酒さ」

 

 あっけらかんと言うセシルさんに、ミレーヌまでくすりと笑う。

 張りつめていた空気が、少しだけやわらいだ気がした。

 

 「私の生まれた土地は平和でな。退屈で飽き飽きしていたから冒険者に憧れて出てきたが、ここでも大体は退屈だ。歩き、食べ、寝る。剣を振るう瞬間に身体が動くようにしておかなければならない」

 

 そう言ってシグレさんは岩に寝そべる。

 具足を着たままなのに、そんな姿勢でも苦しくなさそうなのが凄い。

 あちこち体に食い込むのだろうかと思っていたけれど、思ったより可動部が多く、行軍には向いているのかもしれない。

 プレートメイルに比べれば防御力は劣るのだろうが、動きやすさまで含めれば十分に理にかなった装備なのだろう。

 

 「寝れるときに寝るのもクエストの一環だ。こういう時は交代の合間に少し目を閉じるだけでもいい」

 

 「そんなので本当に休めるんですか?」

 

 僕が聞くと、シグレさんは目を閉じたまま答えた。

 

 「最初は難しい。だが慣れれば違う。十分でも二十分でも、眠れる時に眠った者のほうが最後に立っている」

 

 その言い方が、ただの経験談ではなく、実際に生き残ってきた人の言葉に聞こえた。

 

 僕も見張りの交代時間に岩に背を預けて目を閉じ、じっとしていた。

 本当に眠気が襲ってきたので慌てて目を開けると、シグレさんも眠っていた。

 美人なのに、そういう隙のない立ち居振る舞いばかりではないところが少し意外だった。

 町にいれば求婚者には困らないだろうに、なぜ冒険者なんてしているのだろう。

 色々と不思議な出会いがある。

 

 僕のすぐ横ではミレーヌも寝息を立てていて、僕の肩にもたれかかっている。

 柔らかい重みと、かすかな体温が肩越しに伝わってきた。

 戦場にいた時は、こんなふうに穏やかな時間が来るなんて思いもしなかった。

 シグレさんは綺麗な人だけど、僕にとって一番かわいいのはミレーヌだ。

 ミレーヌを守れるなら、僕はなんだってする。

 

 そんな僕の視線に気づいたのか、ミレーヌが目を開けて少し恥ずかしそうに笑う。

 

 「……ごめん、もたれちゃってた」

 

 「ううん。僕も少し眠ってたし」

 

 そう答えると、ミレーヌはほっとしたように目を細めた。

 

 「ユキナの肩、思ったより安心するね」

 

 「そ、そうかな」

 

 「うん。ボク、昨日よりちゃんと眠れた気がする」

 

 そう言ってまた小さく笑うミレーヌを見て、胸の奥が少しだけ温かくなった。

 

 街道を吹き抜ける風は乾いていて、遠くでは馬が鼻を鳴らす音がする。

 護衛たちの低い話し声や、荷馬車の軋む音も聞こえていた。

 派手な戦いはない。

 けれど、こうして少しずつ進みながら、疲れを溜めず、眠れる時に眠る。

 それもまた冒険者に必要な技術なのだろう。

 

 うとうとしていると、今度はセシルさんが優しく肩を揺すってくれる。

 寝入っていたのは、ほんの三十分ほどだと思うが、頭はずいぶんすっきりした。

 

 「大丈夫かい?」

 

 「はい。少しすっきりしました」

 

 僕がそう言うと、セシルさんは優しく微笑んでくれた。

 一見すると危険な美女に見えるけれど、本当はすごく面倒見のいい人なのだと思う。

 口は軽いし、時々ミレーヌをからかうけれど、親切に色々教えてくれる。

 ミレーヌもそんなセシルさんに、どこか懐いているようだった。

 

 「どうしたのさ、あたしに見ほれた?」

 

 そう言ってセシルさんが笑い、僕を肘でつつく。

 

 「違いますよ」

 

 そう返すと、セシルさんはますます楽しそうに笑った。

 

 「ま、見とれるならシグレにしときなよ。あたしは高くつくからね」

 

 「聞こえているぞ」

 

 いつの間にか目を開けていたシグレさんが、呆れたように言う。

 そのやり取りに、僕とミレーヌは顔を見合わせて笑ってしまった。

 

 僕は苦笑しながら、もう一度水筒に口をつける。

 戦いに備えるというのは、剣を握る事だけではない。

 こうして体力を保ち、人のやり方を見て学ぶこともまた、生き残るために必要なのだ。

 

 こうして観察していると、戦いに慣れた傭兵の動きがとても理にかなっている。

 もし襲われたらと思うと気が気じゃない。

 確かに寝れるときに寝ておかなければ。

 裏切るときはきっと夜なのだから。

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