君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第三十一話 機先を制する――疑心暗鬼のはじまり――

 第三十一話 機先を制する――疑心暗鬼のはじまり――

 

 ――夜。

 

 野営の準備をしているとシグレさんに呼ばれた。

 何かと思ってついていくと、野営地を少し離れた場所に連れていかれる。

 そこにはミレーヌとセシルさんがいて、周りに人がいないか注意深く確認していた。

 

 「予想通りだ。今回の商団護衛に山賊の手下がいる」

 

 シグレさんが僕に耳打ちする。

 予想はしていたけど、改めて聞くと緊張して身体がこわばる。

 

 「どうしてわかったんですか?」

 

 「蛇の道は蛇ってね。あたいみたいに裏社会で生きてきたら、顔を見ればわかるのさ。ありゃ山賊ヒキマの手下だよ。あっちは忘れてるみたいだが、あたいは顔と名前を憶えてるよ。おっと、何で覚えてるのかって質問は無粋ってもんだぜ」

 

 セシルさんがそう言って僕にウインクした。

 きっと山賊ヒキマって人と男女の仲になったのだろうと思ったけど、口には出さない。

 

 今はそんな事を考えている場合じゃない。

 ゴブリン退治に来たはずが、いつの間にか山賊と戦う事になるとは予想外もいいところだ。

 ミレーヌの方を見ると、同じ事を考えているのか不安げな顔をしていた。……いや違うな。

 これは怯えている顔だ。

 

 無理もない。

 僕だって、人間相手に剣を振るえるのかと問われたら、出来ると言い切る自信は無い。

 そもそも僕は元の世界で人を殺した経験が無い。

 この世界に来る前の僕はただの中学生だったし、この世界でも盗賊に襲われた事はあっても、殺したりはしていない。

 

 ミレーヌだってそうだ。

 彼女は魔物は殺せても、人は殺せない。

 僕も殺す覚悟はまだ出来ていない。

 だけど、やるしかないんだ。

 

 「今夜、商団長に伝えておくが、まだ尻尾を見せていないからどこまで信用されるかだな。だが、警戒はしておいて貰わないといざという時困る」

 

 シグレさんはそう言うが、表情は変わらない。

 いや、よく見ると少しだけ緊張しているようだ。

 この人は分かりにくいだけで、結構顔に出やすいのかもしれない。

 

 ふと見ると、ミレーヌも同じような顔で僕を見ている。

 僕が微笑むと、彼女も安心したように微笑んだ。

 

 そして僕達は夕食を済ませてから交代で見張りをして、一夜を過ごした。

 

 「よく眠れたかい?」

 

 翌朝、見張りを終えたセシルさんが僕に言う。

 相変わらず眠そうな顔で大欠伸するが、それが演技だと僕は知った。

 セシルさんは本当に裏社会に詳しい。

 もしかしてこの人と知り合いになれたのは幸運ではないだろうか。

 

 「おはようユキナ」

 

 緊張であまり眠れなかった様子のミレーヌ。

 かくいう僕もあまり眠れなかった。

 味方だと思っていた人たちが敵のスパイだったなんて、悪夢以外の何物でもない。

 セシルさんから誰が山賊の手下なのか教えてもらっている。

 

 一見誠実そうな顔立ちをしたロングソードを装備した金髪の男性と、筋骨隆々で黒毛の大斧使いと、ネズミみたいな顔をした反っ歯のショートソード使い。

 反っ歯の人が山賊間でしか使えない合図の声を上げたら、襲撃してくる手筈になっている。

 

 「昨夜のうちに商団長には話をしてある。半信半疑だが、警戒は強めてくれるだろう」

 

 僕はシグレさんの一言に違和感を感じた。

 明らかに山賊の手下が混じっていて、商団長はどうして半信半疑なのだろうか。

 

 「どうして半信半疑なんですか?」

 

 「そりゃあれだ。本当はあたいたちが山賊の手下で、みんなを騙して容疑者を殺させてから荷物を奪うかもしれないと思っているのさ」

 

 そんな馬鹿馬鹿しい。

 僕には理解できない。

 

 「いや、よくある事なのだ。そうやって騙された商人は沢山いる。それに商隊を率いる責任がある者として、軽挙妄動は抑えないといけない。大切な積み荷を奪われましたなどと言えないからな」

 

 シグレさんがセシルさんの言葉に同意して、僕とミレーヌに説明してくれる。

 そこまで人を疑わなくてはいけないのか。

 確かに戦争をしていた時も、そんな話を聞いたような気がする。

 兵士は疑うのが仕事だと、僕を鍛えてくれた元傭兵のロイド教官も言っていた。

 

 ここはそういう世界なんだ。

 それにしても酷い話だ。

 僕のいた前世日本ではそんな事は無かった。

 少なくとも僕の住んでいた国では、そういう事は起きなかった。

 

 もしかしたら僕の知らないところで起きていたかもしれないけど、僕の知っている範囲では聞いた事がない。

 僕の居た世界では戦争は起きていなかったが、もし起こっていたら僕は徴兵されていたのだろうか?

 

 いや、ベッドに寝たきりの病人など役に立たない。

 戦争中に僕を構っている余裕なんてないから、多分死んでいただろう。

 

 「そろそろだね。多分数日中の夜に夜襲をしかけて来るだろう。ちゃんと休憩時間は寝ておくんだよ」

 

 セシルさんが緊張した面持ちで言った。

 その日から、僕とミレーヌにとって眠れぬ夜が始まる。

 見張りがいるとはいえ、山賊はこちらより数が多いはずだ。

 しかも山賊は、好きな時に好きな場所で攻撃できるのだ。

 こちらはいつ攻撃されるかわからない緊張状態が続く。

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