君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第六章 ゴブリン退治
第三十八話 森の中へ――先達が示す狩りの流儀――


 第三十八話 森の中へ――先達が示す狩りの流儀――

 

 しばらく歩くとカク村の人家は遠ざかり、やがて見えなくなった。

 さらに森の奥へ分け入って一時間ほど獣道を進む。

 ここから先はゴブリンが隠れ住んでいると思われる領域になるので注意が必要だそうだ。

 

 村長さんから貰った地図を片手に森へ入る。

 落葉樹の生い茂る森の中は木々が多く、光が届きにくい場所が多いためか薄暗い。

 足元をよく見て歩かないと木の根や石に足を取られかねない。

 重い鎧を着たまま転べば、ただでは済まないだろう。

 こんな森の中で足手まといにはなりたくなかった。

 

 僕もミレーヌも子供の頃から森や湖で遊んできたから山道には慣れている。

 けれど、シグレさんやセシルさんのように鎧を着ての行軍に慣れているわけではない。

 置いていかれないようについていくので必死だ。

 ブーツには滑り止めがついているが、靴擦れでもしたら大変だから気は抜けない。

 

 ――奴らは音と匂いに敏感だ。森の中で襲われたらあちらの方が有利だという事を忘れるな。それと深追いは禁物だ。必ず待ち伏せがある。

 

 出発前にシグレさんに注意された言葉を思い出す。

 森や洞窟のような暗い場所はゴブリンの方が長けている。

 ゴブリン一匹一匹は弱くても、戦い方を心得ているホブゴブリンは強い。

 あの初陣で戦った大きなゴブリンを思い出し、僕は小さく息を呑んだ。

 あんな目には二度と遭いたくない。

 

 さらに一時間ほど歩いた頃、セシルさんが不意に立ち止まった。

 同時に僕とミレーヌも剣を抜いて戦闘態勢に入る。

 セシルさんは先ほどまでとは違い真剣な表情で、風の音や木々の葉擦れに耳を澄ませていた。

 

 「何かいるよ。複数だ。多分ゴブリンじゃないかな? まだこっちに気が付いた様子は無いね」

 

 姿が見えない相手の事を的確に察知しているセシルさん。

 普段の飄々とした様子とは違って、斥候としての腕前は確かなようで安心する。

 どうやら相手はこちらの存在に気付いていないらしい。

 

 「待ち伏せのようだな。セシル、頼む」

 

 「りょーかい」

 

 シグレさんが声をかけると、セシルさんは軽々と木の枝に飛び乗った。

 そのまま反動を利用して枝の上へと登り、木の上を伝って姿が見えなくなる。

 斥候というのは、ああいう軽業も出来るのか。

 しかも迷いがない。どの枝に足をかければ音が出にくいかまでわかっているような動きだった。

 僕は感心しながら見送った。

 

 「セシルが帰ってくるまでに罠を仕掛けよう」

 

 そう言ってシグレさんがロープを取り出し、木の幹の低い位置に縛りつける。

 先を別の木に結び、足止めと音が鳴るように仕掛けを作っていく。

 手つきは驚くほど速く、無駄がなかった。

 僕とミレーヌも手伝いながら、辺りの地形を把握する事を忘れない。

 ロイド教官の塾で、基本中の基本として真っ先に叩き込まれたことだ。

 

 「よし。ではあの木陰に隠れよう」

 

 シグレさんが目星をつけた隠れ場所に移動して息を殺す。

 それから三十分ほどして、セシルさんが戻ってきた。

 木の上を飛び移ってきたというのに息が乱れていないのは流石だと思う。

 しかも戻るなり周囲をひと目で確認し、僕らの位置を見てすぐに声量まで落としていた。

 僕らの近くまで来ると小声で状況を説明してくれた。

 

 「ゴブリンだね。数は十匹。獲物は手斧と弓だね。いっちょ前にレザーアーマーなんか身に着けてた」

 

 セシルさんの説明だと軽く武装しているようだ。

 という事はリーダーがいると見ていい。

 シグレさんも僕と同じ考えだったようで問いかける。

 

 「群れの長のような者はいたか?」

 

 「いたいた。リーダー格っぽいホブゴブリンが二匹いて、大きな戦斧を持った奴と杖みたいな物を持った奴だ」

 

 大きな斧を持ったのがボスで、杖を持った方はゴブリンの魔術使いだろう。

 戦場で逃げ切って洞窟に避難した群れのリーダーか。

 だとすると、子分はまだ二十匹はいるかもしれない。

 まともに戦うのは無理があるだろう。

 

 「予想通り、これを持ってきて正解だったな」

 

 そう言ってシグレさんは腰のポーチから小瓶を取り出した。

 六角形の小さなガラス瓶の中には、青い液体が入っている。

 

 「これは眠りの雫という液体だ。聞いたことはあるだろう?」

 

 シグレさんが僕とミレーヌに微笑む。

 眠りの雫は、辺りに撒くと強い眠気を誘う魔法の液体だ。

 濃ければ本当に眠ってしまう。

 即効性があるので戦闘中にも使えるが、高価な品物でもある。

 ゴブリン相手には過剰にも思えたが、シグレさんは油断をしない性格らしい。

 

 ゴブリンだと侮って全滅する初心者パーティもいる。

 一瞬の油断が命取りになると、ロイド教官にも散々叩き込まれた。

 胸の傷跡をわざと残していた教官の姿を、僕は思い出していた。

 

 「これを洞窟の中でたむろしているゴブリンのねぐらに撒けば、大半は眠りにつくはずだ」

 

 ゴブリンに限らず知恵のある生き物は、寝ぐらと貯蔵場所を分けていることが多い。

 攫われた人が生きているなら、そちらにいる可能性が高い。

 どちらにしろ二十匹以上のゴブリンを正面から相手にするのは無理がある。

 眠ったところを一匹ずつ確実に仕留めるのが安全だ。

 

 セシルさんは敵の数と装備と位置を正確に持ち帰り、シグレさんはそれを聞いてすぐに最適な手を打つ。

 強いだけじゃない。こういう判断の速さと迷いのなさこそが、二人が今まで生き残ってきた理由なのだろう。

 剣や槍を使えるだけでは、冒険者として長生きは出来ない。

 セシルさんが偵察をし、シグレさんが罠を仕掛け、迷いなく作戦を決める。

 その一つ一つを、僕達は実地で教わっていた。

 

 僕とミレーヌは本当に良い先輩に巡り合えた。

 そう思いながら、僕は森の奥――ゴブリンの潜む洞窟のある方角を見つめた。

 木々の隙間に沈む闇は深く、昼だというのに底が見えない。

 その奥で、攫われた人たちがまだ生きているかもしれない。

 僕は剣の柄を握り直し、静かに息を吐いた。

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